Radiology Sea Change

Radiology
Sea Change

 Vol.4 

3D Printing

臨床応用への現状と展望

倉田 聖 先生(愛媛大学医学部附属病院 放射線部 准教授)
小山 靖史 先生(桜橋渡辺病院 心臓血管センター 画像診断科科長・放射線科 部長)
白川 岳 先生(関西労災病院 心臓血管外科)

Introduction

愛媛大学 倉田先生

3Dプリンタの低価格化に伴い、3D臓器モデルは企業での一般の製品開発から芸術や趣味の世界までさまざまな分野で利用されている。3D臓器モデルの医療分野での応用は、整形外科や形成外科など骨などの硬い臓器モデルがすでに利用されているが、心血管領域は近年注目されている分野のひとつである。CTやMRによる3D画像診断は心血管疾患の形態や病変性状の診断と治療方針に大きく寄与しているが、その3Dデータから造形される3D臓器モデルは3D画像診断をより深く理解し、個別の術前計画を立てることが可能になる。高品質の3D画像と正確な画像診断が3Dプリンティングの基礎となっていることは言うまでもないが、3D臓器モデルが心血管領域に現在もたらしている新たな変化(Sea Change)を本冊子の読者のみなさんと共有し、その可能性と今後の展望について議論するきっかけになれば幸いである。

MINI-REVIEW

愛媛大学 倉田先生

3Dプリンティング

3Dプリンティングとは、パソコンで作成した書類をプリンタで紙(2D)に出力するように、インクの代わりに素材を立体的(3D)に積層して造形する方法(付加製造法)の一つである。歴史的には、日本が先駆けて発明した技術であり、名古屋の研究員だった児玉秀男氏が1980年に3Dプリンタの原型となる光造形法を発明したことが最初と言われている。アメリカでは、チャック・ハル氏(3D Systems社)がSTL(Standard Triangulated Language)という3Dデータの保存方式や光造形法などの3Dプリンタの基本特許を取得し1987年に初の3Dプリンタを商品化し、スコット・クランプ氏(Stratasys社)は1989年に熱溶解積層法の3Dプリンタを商品化している。いずれの製品も高額であったため、企業など事業体がこの技術を利用していた。のちにさまざまな造形法が発明され、一部でオープンソースの技術が進化し、2009年に3Dプリンタの特許利用期間が終了すると小型パーソナル3Dプリンタが次々と登場し、3Dプリンタがいろんな場面で利用されるようになってきている。

医療分野への応用

CTやMRIに限らず、医療画像はこれまで2次元画像でその形態や病態を描出し、診断および治療に利用されてきた。近年の機器の進歩や3D画像に関する技術の進歩によって、モニタの中で立体表示できるようになったが、画面の中で形態や大きさを把握するには画面上で多方向から観察し、距離を繰り返し計測しなければならなかった。3Dプリンティングモデル(3Dモデル)は、3D画像データから対象物の表面および容積を正確にレンダリング・二値化による再構成処理によって得られた3Dデータを3Dプリンタによって実体化され、実際に触れることが可能になる。

3Dプリンティングを医療分野へ応用する最大の利点は、個々の症例の解剖や疾患の形態の特徴に即した模型や補完物を容易に作成できることにある。人間の解剖はだれ一人同じものはなく、正常部位の大きさ・病変の形態も異なる。対象臓器の形態・大きさを立体的に視覚と触覚で得られる情報は正確な治療計画や手術のシミュレーションに重要である。3Dモデルは、診断治療を行う医師だけなく、一緒に治療を行う医療チーム・コメディカルとの情報共有や、患者・家族への説明、若手医師のトレーニングや医学教育などさまざまな方向に可能性が広がっていると考えられる。

3Dプリンティングの工程(3Dモデルの作成)

心血管3Dモデルの作成工程を図1に示す1)。データ収集に使用するモダリティは、以前よりCTとMRを用いた心血管3Dモデルの報告が圧倒的に多い。CTとMRはともに死角なく対象臓器を撮像できるという共通の利点を持っているが、CTは空間分解能の高さと抽出処理の扱いが容易な点が優れており、MRはコントラスト分解能の高さと放射線被ばくがない点が優れている。近年、3D心エコーの技術の進化により弁膜疾患に関しては心エコーを用いた3D心臓モデルの報告も増えている。

図1 医療用3Dモデルの作成工程

図1 医療用3Dモデルの作成工程

抽出処理からSTL変換は、CTやMRのデータであれば市販のワークステーションを用いて、CT値などを基準とした域値法、region-growing法、そしてブーリアン演算を用いて目的とする臓器を抽出処理が可能である。また、無料のソフトウェアを利用することでSTLファイルの整合性や出力直前のカット断面の確認まで自分たちで処理することが可能であり、3Dモデルの臨床利用のハードルは高くない。プリンタからの出力は、管理やコストの面を考慮し自施設内の3Dラボで造形するかアウトソーシングするかを検討した方がいいかもしれない(表1)

表1 医療用3Dモデルの作成方法(分担)

  自施設での作成 アウトソーシング作成
  包括的で理想的な要件 素材や特殊技術を選択可能
初期コスト 3Dプリンタ本体と素材の費用 なし
運用コスト 素材費用、3Dプリンタのメンテナンス費用、人的資源 作成ごとに個別費用
かかる時間 時間効率が良い 比較的時間がかかる
長所 依頼側と密な連絡が可能であり、個別化したモデル作成が可能 モデルの抽出処理や特殊な素材など特殊技術が利用できる
短所 作成に慣れるまでの習得期間使用可能な素材の制限(3Dプリンタの機種に依存) 臨床情報や医学知識が不足する場合がある、複雑症例の3Dモデル作成が困難な場合がある

心血管領域における3Dプリンティングの現在と展望

心血管領域における3Dプリンティングは、国内でも早くから臨床応用が試みられており、2006年に国立循環器病センター小児循環器内科の白石公医師らは小児の先天性失疾患における3Dモデルの有用性を報告している2)。先述した安価な3Dプリンタの普及と造形法の進化ともに3Dプリンティングの臨床応用は加速している。Byrneらによると、2006年以前は心血管3Dモデルに関する研究報告は年間5報程度だったが、2014年には年間25報を越えていると報告されている3)。彼らは、過去の研究報告一定の要件(1.使用したモダリティ、2.抽出処理に使用したソフトウェアとその方法、3.その方法の概略、4.解析・造形の時間作成からその運用)で検索し、質の高い研究報告を蓄積することが心血管3Dモデルの適正使用にもつながると言及している。LuoらやRSNAのワーキンググループも3Dモデルの臨床応用を公平に評価し、その価値を高めるべきと提言している4)5)。3Dモデルは複雑症例や稀な疾患で利用されることも多いが、最近では教育効果を評価する研究や、公平で患者不利益の出ないような多施設研究も報告されている6)7)。様々な臨床シナリオの中でその活用が期待されるが、次章のエキスパートの先生方との鼎談の中でその利用方法の現在について伺いたい。

3Dモデルの素材に関する研究・開発は現在も進行している。複数の素材を組みわせて作成されるmulti-physics モデル、より柔らかい素材の開発やその弾性度の検証、ex-vivoシミュレーションでの評価など臨床応用への多角的な評価が必要となっている。これらの研究開発は、3Dモデルの臨床応用の先にある手術支援システムや人工臓器・インプラント機器の開発に密接につながるものとして期待されている(表2のレベル2)。また、素材を培養細胞や生体の成長因子、可溶性成分で3Dプリンティングする3Dバイオプリンティング(表2のレベル3、4)は、組織工学や再生医療の分野で注目されている分野であり、より正確な3D画像診断と3Dモデリングの技術はその基盤の一つとなっている8)9)

すべての心血管疾患に3Dプリンティング技術を活用する必要はないが、この技術の初期段階に我々は取り組むことが可能になっている。3D画像にいつも接している放射線科医は、多方向性の可能性を持つ3Dプリンティングに対して重要な役割が期待されているのではないかと考える。

表2 生体3Dプリンティング技術の分類

レベル1 非生体適合性材料を用いた「医療用モデル」「装具」「医療機器部品」
レベル2 生体適合性材料を使った「ステント」「埋め込み型人工臓器」
レベル3 医療再生用のスキャホールド(細胞培養の足場)を生体適合性材料で実現する「再生医療用スキャホールド」
レベル4 生体材料(生物学的材料)を使った「3D組織モデル」「細胞組織チップ」「移植用組織」「バイオ人工臓器」など

* 三次元形状のデータを保存するファイルフォーマットの一つ

Experts Dialogue

Experts Dialogue

出席者(発言順)

倉田先生:愛媛大学医学部放射線科

白川先生:関西労災病院心臓血管外科

小山先生:桜橋渡辺病院循環器科

1. 医療分野における3D臓器モデルの活用

倉田:3Dプリンターは、1980年代に開発・実用化され、これまで製造業向けの工作機械を中心に発展してきました。現在すでに幅広い分野で普及していますが、医療分野においても3D臓器モデルの活用が非常に注目されています。比較的簡便・迅速・安価に作れるということで、形成外科・整形外科領域ではその活用が広がっていますし、患者さんに合わせたインプラントの治療計画などにも臨床応用されています。循環器領域での応用について教えて下さい。

1. 医療分野における3D臓器モデルの活用

白川:外科領域では、手術前のシミュレーションとして活用されはじめ、特に難しい症例に対して術前の解剖の確認や形状の評価に使われることが多くなってきています。CTやエコーが2次元の画像であるのに対して、3D臓器モデルでは、直接手で持ち触って確認できるということが、外科医にとって非常に大きなメリットとなっていますね。

小山:内科領域、特に循環器領域では教育用モデルとして、また、実際に手技を行う際のモデルとして使われています。教科書ではわかりにくい症例でも3次元的に確認することができますし、実験系を再現することも可能ですので、3Dモデルは大いに役立っています。課題としては、やはり作り上げるまでの時間、特に複数のマテリアルを組み合わせた造形を行うと時間がかかってしまい、緊急の場合などでは少々使いづらいという印象があります。

倉田:見るだけではなくて実際に「触れる」ということ、空間的な情報というのは非常に重要だということですね。

白川:そうですね。今では電子カルテの画面上でCTやエコー画像も3次元で見ることができますが、「形状を触れる」ことと「画面で見る」ことは想像以上に違いますし、全く別の種類の情報なのだと思います。

倉田:手術の際には、大きさを実感するということはやはり非常にリアルに近いものになるのですか?

白川:大きさも重要ですが、奥行き感ですね。CTの3DのVR(volume rendering)画像も3次元ですから奥行き感はあるのですが、実際の手術では限られた視野とワーキングスペースで確実に操作をしなければなりません。3D臓器モデルから得られる「触った感覚、奥行き感」というのは、より手術に近いリアルな情報になります。

2. 3Dプリンティングによる3D臓器モデルの作製方法

白川:3Dプリンティングによる3D臓器モデルの作製方法にはいくつかの手法がありますが、私がいま一番使っているのはインクジェット法と光造形法です。インクジェット法では、箇所によって素材を変えることができますし、光造形法(SLA)では比較的高精度な造形ができるという点がメリットです。熱熔解性積層法(FDM)では微細な造形ができないため、血管や心臓などの複雑な中腔臓器には不向きかもしれません。粉末焼結積層造形法(SLS)は複雑な造形も可能で、かなり正確に出力することができます。素材はナイロンですが、ナイロンは安価にできるという利点があります。

小山:石膏モデルは、一つひとつパーツに色をつけて、それらを色分けできるため見やすく、教育用に適しています。

3Dプリンターの種類と材料、方式の関係(季刊 政策・経営研究2013 vol.3)

手法 内容 強度 仕上げ 使用材料
光造形(SLA) 光硬化性樹脂をレーザーで硬化 17.2~68.9MPa 樹脂による積層
0.051~0.152mm
(典型的ピッチ)
熱可塑性樹脂ライクな光硬化性樹脂
粉末焼結積層造形(SLS) 材料粉末をレーザーで焼結 36.5~77.9MPa 樹脂による積層
0.102mm
(典型的ピッチ)
ナイロン、金属
熱溶解性積層法(FDM) 押出材料を溶融して積層 35.9~67.6MPa 樹脂による積層
0.127~0.33mm
(典型的ピッチ)
ABS、PC、PC/ABSPPSU
石膏による
3Dプリンティング
液体結合剤を石膏粉末上にインクジェット印刷 樹脂による積層
0.089~0.203mm
(典型的ピッチ)
石膏系粉末、液体結合剤
インクジェット 紫外線硬化製樹脂を噴射して積層 49.6~60.3MPa 樹脂による積層
0.015~0.030mm
(典型的ピッチ)
アクリル系光硬化性樹脂、熱溶融型光硬化性樹脂

倉田:プリンティングの工程は、データ収集→セグメンテーション→STLファイル)作成→STLファイル修正→造形物の設計→3Dモデル出力→後処理という手順になりますが、このうちどの工程が一番時間がかかり、重要になるのでしょうか?

白川:対象とする臓器によって異なりますが、血管はセグメンテーションも容易ですので、それほど難しくはありません。心臓の3D臓器モデル作成は比較的時間がかかりますね。

小山:造影剤が注入されている部分とそれ以外でセグメンテーションを行ってから、その後の造形物の設計に少々時間がかかります。例えば、中腔臓器では、心臓を作る際に必要とする部分を中心に考えて、作成する3D臓器モデルの中腔部分、solid(実質)部分、結合部分をある程度頭の中で設計する必要がありますが、同時にそこが一番楽しいところでもありますね。

白川:どこでカットするかということはけっこう難しいですよね?

小山:カット面に関しては、実際に外科の先生からそのカット面では使えないと言われたことがあります。しかし、手術に役立つためのカット面と教育的に必要なカット面は違いますので、造形物の設計においては、やはり事前に現場と打ち合わせをしておくことが大事だと思います(図1)。

(図1)

(図1)

倉田:1980年代から現在まで3Dプリンティング関連の特許申請数も爆発的に伸びているわけですが、実際にモデルの作製方法に関して3Dプリンティングにはどのような技術革新があったのでしょうか?

小山:新しい素材、柔らかい素材についてはずっと探索されてきています(図2)。医療系では、セグメンテーション、クラスタリング、あるいはその後の結合などに関してさまざまなモデルを作るソフトウェアやワークステーションなどの進歩があり、それらが比較的入手しやすくなったことも大きいですね。

(図2)

(図2)

白川:そうですね。ツールと素材が重要ですね。

小山:きれいな画像からはデータが非常に作りやすいので、まずはCTやMRI画像はアーチファクトのないきれいな画像であることが重要です。それによってセグメンテーションの工程の進み具合はかなり変わってきますので、造影プロトコールなど撮像データの収集する際のテクニカルな部分も今後ますます大切になってくると思います。

3. 循環器領域における3D臓器モデルの活用法

小山:私の施設では、3D臓器モデルを手技の確認や患者さん/家族への説明に使っています。ワイヤーやカテーテルを心臓や血管の中の目標とする部位に持っていき、実際どのように動けばどのように回るか、など確認しながら行ったり、ブロッケンブロー法(心房中隔穿刺法)はこうやるのですよ、と説明したりしています。体験しながら見ることができるため、コメディカルの方々への教育や情報共有ということでも役立っています。また、むずかしい症例については、類似の症例に出会った際に「ああ、あの症例か」と認識しやすくするように作るようにしています。また、実際にあえて手術が出来なかった症例に対して、後の検証や合併症の可能性などの検討にも用いています。電子カルテ的な役割としては、例えば小児の患者さんが成長に伴って、小児科から循環器内科に移行するような場合、後に役立つよう小児期の手術情報を3Dモデルで記録しておくというようなことも実際に臨床の現場で行っています。

白川:私は、手術のシミュレーション、術前の評価で活用しています(図3 a), b))。若い外科の先生のトレーニングにも有用だと思います。ウェットラボで使用する豚の心臓ではそもそも治療すべき病変がないので、3D臓器モデルは病変を再現できるという点でも大いにメリットがあると思います。
以前、集中治療室や循環器病棟の看護師さんたちに、心臓や血管のモデルを使って解剖の勉強会を行ったことがあったのですが、皆さん、実際の心臓の形状や病変に触れると言うことで、かなり興味を持って聞いて下さいました。

図3 a)

図3 a)

図3 b)

図3 b)

倉田:実体として目の前にあるというのは、リアル感やインパクトがあり、皆を集中させられますね。
以前、白川先生がTAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)のモデルを作られていて、ビデオを見せていただいたことがあるのですが、3D臓器モデルはが実際に広がっていく様子が見えるというのは、リアル感が全然違いますよね(図4 a), b))。グラフト置換術やエレファントトランク法(人工血管の一種)の位置決めなどは画像で見ているものとは全然意味が違うような気がします。

図4 a)

図4 a)

図4 b)

図4 b)

白川:医療現場では、ディスプレイ上のシミュレーションでは最終的な決断が曖昧になることもあると思うのですが、実際に触って入れてやってみることができると、確信を持った治療につながる気がします。例えば、小児心臓の先生は、おそらくグラフトの太さから長さまでミリ単位で気を遣ってやっておられますので、この実際に触って見られるという感覚が非常に貴重な情報となるでしょうね。

小山:そうですね。生まれたばかりの小児の心臓は本当に小さいので、モデルがあるのとないのでは安心感も違うのではないでしょうか?時代を超えてどのような手術をどのように行ったかもデジタルデータとしても残りますしね。

倉田:では、3Dモデルの活用法について、日本での活動について少しお話しいただけますか?

小山:2015年に日本心臓血管3次元モデル研究会を立ち上げました。実際には、作製方法から始まり、画像診断、画像をどのように作っていくか、組み立てていくか、それをアウトプットしてどのように使うかを勉強し、そこから得た課題やアイデアを現実化するよう進めています。

白川:実際には、大動脈弁狭窄症(AS)の開放制限のある弁を再現しようと、柔らかいバルサルバや弁膜の中に堅い石灰化を埋め込むような造形をして、3Dモデルを使って若手の心臓外科医向けのラボをしました(図5 a), b), c))。近年、ラボを用いたOff the Job Trainingは学会でも重視されるようになっています。おそらく今後2、3年くらいのうちには専門医の必須項目になるはずです。時代の要請で学会もそうなってきていると思うのですが、そのような中で3Dモデルの必要性は強く実感しています。

図5 a)

図5 a)

図5 b)

図5 b)

図5 c)

図5 c)

倉田:さまざまな疾患の3Dモデルができ、同じ条件でトレーニングができるのは非常に有難いですね。実際に3Dプリンティングを導入するには、コストはどれくらいかかりますか?

小山:私の場合は、抽出からセグメンテーション、組み立てまで設計図(STLファイル)が全部できあがった状態でプリントアウト部分をアウトソースするという形を取っています。

白川:私のところでも基本的にデータの処理は全部自分でやり、プリントアウトは外注です。

小山:できれば医療関係者がしっかり設計したものをアウトソーシングする方が、こちらの希望どおりのものができると思いますね。

白川:コストですが、ナイロンで心臓1つ作るとすると、造形は外注するとして、おそらく併せて5,000~10,000円くらいですか。柔らかい素材で大動脈などが全部付随している場合には50,000円くらいになります。施設内にプリンターを備える場合には、その他、管理やメンテナンス費用なども必要ですね。

4. 放射線科医と3Dモデル活用の将来像

倉田:放射線科医の先生方が実際にプリンティングを作る際に、通常、特別な指示や依頼をされていますか?依頼科の先生方とのコミュニケーションにおいて心がけていることはありますでしょうか?

白川:造影注入プロトコールについては、比較的細かく、あまり濃くせず薄くせず、左室と右室の両方をきれいに撮れるように、撮像と再構成はきちんと心臓が止まっているところを、というように話しています。自分で実際再構成された心位相を見て一番使い易そうな心位相、この何パーセントと何パーセントの心位相データを3Dプリンティング用に残しておいてほしいということを直接技師さんと話すようにしています。私自身は外科ですので、やはりどこが見たいか、どういう術式を予定しているかを想定して作業を進めます。

小山:この心位相データが欲しいという要望などは出すようにはしていますが、今は通常臨床で使用している撮像プロトコールで作るようにしています。手術用には事前に必要なカット断面を相談しますし、教育用には、付随する大動脈や冠動脈、左心耳も作っておき、メルクマールになるような部分がないと理解しづらいのでと、目的によって作り方やカット断面を整理する必要があることを、技師さんとよく話しています。

倉田:私も、小山先生が言われたように、カット断面のところを「ここで切っていいか」と依頼の先生方に繰り返し尋ねるのですが、やはりやり取りを重ねるうちにどんどん意志疎通は良くなります。

小山:ボケない3Dモデルを作るには、診断がきちんとできている状況であることが一番重要ですが、放射線科医の先生方にはしっかりと診断をしていただいているので、これまでどおりで大丈夫です。

倉田:やはり診断ができた上での・・・

小山:その上での3Dモデルだと思います。

白川:モデルは、診断するわけではなく、より良い治療につなげていくための一手段だと思います。モデルを見ながら基になったCT画像を見直してみると「ああ、なるほど」と思うことはよくありますし。

倉田:まずは診断ができていて、正常と異常がきちんと見えているということがおそらくポイントとなるということでよいでしょうか。

循環器領域における臨床応用

3次元診断・治療シミュレーション
  ・心筋疾患 : 肥大型心筋症、右心室二腔症
  ・弁膜症 : 大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁
  ・先天性心疾患 : 心房中隔欠損(ASD)、心室中隔欠損(VSD)、動脈管開存症(PDA)、複雑先天心
  ・構造的心疾患 : 弁膜症に加えて、大動脈疾患
教育・トレーニング:
患者・家族への説明
コメディカルの教育・情報共有
先進的な研究

今後3Dプリンティングによりモデルができて発展していく中で、放射線科医の先生方に期待されることはありますか?

白川:やはり実際に「触って」いただきたいということです。そうすることでいろいろなことが見えてくるのではないかと思います。

小山:そうですね。写真をたくさん見ても、質感まではなかなか味わうことはできませんので。

倉田:では、心臓領域において5年後、10年後の3Dプリンターを活用した将来像はどうなっていると思われますか?

白川:少々時間のかかる画像検査くらいの感覚で、ごく普通に使われるようになっているのではないでしょうか。

小山:コミュニケーションのツールとしての役割も大きくなるのではないかと思います。クラウドで管理して患者さんの転院/転科の際に、診察される方がSTLファイルから3Dモデルを打ち出してもう一度確認するというようになるのでは。文章ですと頭の中で構築しますが、それが見える形であれば大変わかりやすいですし、新しい治療法のアイデアも沸いてくるかもしれないですね。もうひとつは、再生可能な素材が出てくると非常に良いかと思います。

白川:3Dレポーティングという形が普通になってくる、ということですね。

小山:元はきちんと画像を見ながら診断をするわけですが、それを踏まえた上で表現型として3Dデータとして起こす、補足するという感じかもしれません。術前管理などの際にも大変わかりやすいのではないかと思います。今まではずっと目を使って画像診断をやってきましたが、この「触る」というのはまた別の感覚、触覚にも訴えかけるわけで、それは人に伝える際にインパクトが大きく大変役立つのではないかと思います。
実際に患者さん個々のものを作ってみてわかったことは、必ずしも全部が全部同じというわけではないということで、今後テーラーメイド医療がますます重要視されるようになった際には、3Dプリンターで作成された3D臓器モデルで個々にきちんと見るということが非常に意味のあることになる、とつくづく感じましています。

倉田:将来的には仮想現実、VR(virtual reality)との組み合わせも考えられますね。これについてはいかがでしょうか?VRと3Dプリンティングには互いに利点がありますし、やはり「触れる」という感覚は特殊で利用価値が高いように思います。

小山:そうですね。現在の3Dモデルでは、実際に手術をする先生にとって必要な部分だけを作っていてその他の部分が欠けていますが、それをVRで補足すればどうでしょう。見たいところだけをモデルにして、VR画像で見るときちんと心臓としてデータが補完されているような状況が良いように思います(図6:想像図1、図7、図8:想像図2)。動かしたところに全部が動いてくれれば、協働的な役割を果たすことができるかもしれません。位置情報をきちんと持ってさえいれば、十分教育的な要素も果たせるのではないかと思いますし、先生方の手術のアプローチの仕方も少し変わってくるかもしれません。両者を効果的・効率的に融合させることができれば、コストをより下げながら、よりリアリティのあるものにできるのではないでしょうか。

(図6:想像図1)

(図6:想像図1)

(図7:想像図2)

(図7:想像図2)

(図8:想像図2)

(図8:想像図2)

倉田:実際にシミュレーションやデバイスということになると、実体がないとついていけないことも多々ありますしね。

小山:今後はおそらくは3DのモデルにQRコードのようなものが紐づいていて、携帯をかざすと、モデルが全部情報を持っているような状況になり、患者さんがそれを持って来院する。さまざまなIoTが発達するにつれて、3Dモデルがさらに新たな役割を果たすかもしれません。

白川:3Dモデルの特異なところは、触覚という感覚が刺激され、病変に関するこれまでにはなかった新しい情報源になりうるところですので、それをいかに臨床や治療、研究、トレーニングに活かしていくか、そこが重要なポイントになります。

小山:色々とアイデアが沸きますね。

倉田:そうですね。ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

Key Paper Summary

愛媛大学 倉田先生

J Cardiovasc Comput Tomogr

Dynamism of the aortic annulus: Effect of diastolic versus systolic CT annular measurements on device selection in transcatheter aortic valve replacement (TAVR)
Murphy DT, Blanke P, Alaamri S, Naoum C, Rubinshtein R, Pache G, et al.
J Cardiovasc Comput Tomogr. 2016 Jan-Feb;10(1):37-43.

本研究では、バルーン拡張型経カテーテル大動脈弁置換術における人工弁のサイズ決定に対し弁輪部面積の心周期変動の影響を評価するため、多施設コホート研究における心電図同期CTデータを後ろ向きに解析している。拡張・収縮期における弁輪部面積・周囲長の変動と弁輪下部の石灰化との関連、各心位相の上記面積・周囲長のデバイスサイズ決定への影響を評価した結果、弁輪部平均面積・周囲長は拡張期より収縮期で有意に大きく、本変動値の影響は石灰化なしの症例で大きかった。弁輪部面積・周囲長いずれでも拡張期データを用いると、約半数の症例で推奨サイズの変更を要したため、拡張期データ使用においてはアンダーサイズのデバイス選択になる可能性が示された。

小山:大動脈弁輪部の形態の心周期変動を心臓CTのデータより検証した臨床研究。弁輪部平均面積と周囲長は拡張期に比して収縮期が大きく,弁輪の石灰化が少ないほどこの傾向は顕著にみられた.本研究では、心電図同期撮影で収縮期は25~30%、拡張期は65~85%と定義されており、心臓CTからの3Dモデル作成を行いTAVRのプランニングに利用する際は、収縮期のCT画像を用いることで、計測誤差を極力最小化できると考えられた。また、顕著な石灰化病変を有する場合とそうでない場合で樹脂の材質も考慮する必要があるかもしれません。

Nat Rev Cardiol

Applications of 3D printing in cardiovascular diseases.
Giannopoulos AA, Mitsouras D, Yoo SJ, Liu PP, Chatzizisis YS, Rybicki FJ.
Nat Rev Cardiol. 2016 Dec;13(12):701-718.

本レビュー論文では、心血管3Dプリントの画像取得からポータブルモデル生成までのワークフローを総括し、心血管疾患における3Dプリント技術の活用、現状および今後の展望について議論している。3Dプリントモデルには、触覚フィードバックが得られ、直接的な操作が可能という利点があるため、その利用により心血管系解剖学と病態への理解が深まる。用途は複雑な疾患の診断支援、管理アルゴリズムの最適化から手術・介入手順の計画とシミュレーションにまで及び、患者個別のデバイスを設計、製造、テストできるため、個別化ケアと心血管研究に新たな展望が開かれ、次世代の心血管画像装置と医療提供者にとって極めて重要なものとなることが証明されつつある。

小山:このレビュー論文は、3Dプリントの現状と将来について画像データの収集から3Dモデルの作成、臨床応用に至るまで順序良く詳細にまとめられており、全体像の把握に有用である。特に印象的であったことは、心血管3Dモデルは、五感の中でも触覚を刺激しながら複雑な心血管疾患の病態解剖を患者や医療スタッフと相互にコミニュケーションツールとして利用できる点に優れるという点であった。また、今後、3Dプリントを医療の場で利用するにあたり、適切なガイドライン作成や推奨事項の必要性まで言及されている点が興味深い。

Interact Cardiovasc Thorac Surg

Three-dimensional printed prototypes refine the anatomy of post-modified Norwood-1 complex aortic arch obstruction and allow presurgical simulation of the repair.
Kiraly L, Tofeig M, Jha NK, Talo H.
Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2016 Feb;22(2):238-40.

本研究では、左心低形成症候群に対するNorwood変法施行後の大動脈弓部から下行大動脈移行部に複雑な閉塞病変を有する幼児(生後5ヵ月)症例における3Dモデルの有用性について報告している。64スライスCTデータより3Dプリンタにて等倍大固体モデルおよび拡大Hollow(中腔)モデルを作成した。固体モデルからは詳細かつ正確な解剖学的洞察が得られ、Hollowモデルでシミュレートした手術では、術前計画通り、自己大動脈プラップを利用し追加パッチの使用なしで閉塞部位を解除できたため、大動脈弓部の複雑な位置関係と手術手技のシミュレーションに基づく術前計画に対し、3Dモデルの効果的な活用法を示すことができた。

白川:5か月の左心室低形成例の大動脈複雑奇形に対し、CTデータから術前計画に3倍大の3D血管モデル(詳細観察用)と等倍大の3D血管モデル(対象血管病変の大きさを正確に把握するため)の2つを利用することの有効性を示した。
心奇形の理解や術前シミュレーション、手術トレーニングには、3Dモデル以上に適しているものはないかもしれない。

Circ Cardiovasc Imaging

Replicating Patient-Specific Severe Aortic Valve Stenosis With Functional 3D Modeling.
Maragiannis D, Jackson MS, Igo SR, Schutt RC, Connell P, Grande-Allen J, Barker CM, Chang SM, Reardon MJ, Zoghbi WA, Little SH.
Circ Cardiovasc Imaging. 2015 Oct;8(10). pii: e003626. doi: 10.1161/CIRCIMAGING.115.003626.

本研究では、3Dモデルを応用して解剖学的・機能的に有用な重症大動脈狭窄症の個別モデルを開発し提示している。2つの材質を融合し3Dプリンタで大動脈狭窄症モデル8例を作成した。石灰化には固い材質を、流出路、大動脈基部、非石灰化大動脈弁にはゴム材質を用い、形態と画像の画質および異なるin vitro排出量条件下でDoppler、Gorlin法により大動脈弁重症度を評価した。Doppler計測による最大・平均弁口圧較差値は標準値と、大動脈弁口面積はGorlin、Doppler法による算出値と有意な相関が認められたことより、硬性と軟性材質を融合した症例特異的な大動脈弁狭窄症の石灰化モデルの作成・再現が確認できた。

小山:重症大動脈狭窄症(二尖弁を含む)の3Dモデルを、石灰化は硬性樹脂、軟部組織はゴム性樹脂という2つの素材でマルチマテリアル3Dプリントを行い、大動脈弁の形態と機能特性の2つを再現した画期的な論文。特に機能特性を証明するにあたり、心拍動を再現する閉鎖回路の中で血行動態を評価し、3Dモデルで再現されるドプラ―波形が症例の心エコーの結果と相関することを示した点は、特筆すべきポイントである。さらに、軟部組織が半透明素材で、石灰化が白色素材であることで、両者の解剖学的位置関係の識別も良さそうである。まさにマルチマテリアル3Dプリントの良さが生かされた大動脈弁3Dモデルである。

Ann Biomed Eng

3D Printed Modeling of the Mitral Valve for Catheter-Based Structural Interventions.
Vukicevic M, Puperi DS, Jane Grande-Allen K, Little SH.
Ann Biomed Eng. 2017 Feb;45(2):508-519.

本研究では、高空間分解能心臓イメージング、画像処理ソフトウェア、3Dプリント技術を組み合わせて患者個別の僧帽弁(MV)装置モデルを作成している。3D経食道心エコーとCT画像データより解剖学的構造を特定、3Dモデルにセグメント化・再構築し、マルチマテリアル3Dプリント法にて患者個別のMV装置を作成した。素材として選択された弾性TangoPlusの曲げ弾性率は、対照のブタMV組織より有意に大きく、剛性は全TangoPlusでMV組織の最大引張弾性率より有意に小さかったが、応力‐ひずみ領域の傾きには変化はみられなかったことから、現在利用可能な臨床画像ツールから特定の患者のMV装置を再構築でき、新規評価法を示すことができた。

白川:3D経食道心エコーと心臓CTを組み合わせて僧帽弁の3D臓器モデルを開発する中で、健常ブタの弁尖組織を力学的特性に検討し、それに近い弾性強度を持つ複層マテリアルを僧帽弁の3D臓器モデル用に作成した研究。
外科医の手術プランニングに利用可能なレベルで弁膜の形状を捉えるには、現状の心エコーや心臓CTの画像は十分とは言えない。また、特性としては繊維に近い生態組織を3Dプリンタのゴムライク素材TangoPlusで再現することも難しい作業ではある(繊維は曲げに対して柔らかく、引っ張りには強いが、ゴムは曲げには強く、引っ張りには弱い)。そのため、このような状況に対して、医学と工学の重なった領域からの研究は極めて価値があると考えられる。

Front Pediatr

3D Printing in Surgical Management of Double Outlet Right Ventricle.
Yoo SJ, van Arsdell GS.
Front Pediatr. 2018 Jan 10;5:289. doi: 10.3389/fped.2017.00289. eCollection 2017.

本レビュー論文では、著者らの過去10年間の臨床経験と文献に基づき、両大血管右室起始症(DORV)患者の手術管理における3Dプリントモデルの再構築、有用性、展望について総括している。DORVは、多彩な形態的学特徴と臨床症状を呈する先天性心疾患であり、その手術管理は、形態学的、血行動態に対し個別化する必要がある。3Dプリントモデルでは複雑な解剖学的構造を迅速かつ正確に認識できるため誤認防止に役立ち、外科的決定や計画の際に有用なツールとなる。手術手順の結果予測も可能なため個別の解剖学的構造に対し調整ができ、術前シミュレーションにも活用できるため、今後、心臓外科医の実践的なトレーニングに不可欠なリソースになり得る。

白川:複雑な両大血管右室起始に対する3Dモデルの応用に関するレビュー論文。血液プールのソリッドモデルと心内膜面の中腔モデルを一定の様式で作成し、これらが個別の形態把握や治療方針の計画だけでなく、病型の比較や教育資材としても役立つことを述べている。
DORVのような複雑な心奇形に対して、自身の知識を実症例での手術に耐えるレベルまで持っていくことは並大抵の努力ではない。3Dモデルを用いることで、個々の症例で病変やアプローチを立体的に正確に捉えることができ、より深い理解と最適な治療につながると考えられる。

Multimed Man Cardiothorac Surg

3D-printed aortic stenosis model with fragile and crushable calcifications for off-the-job training and surgical simulation.
Shirakawa T, Yoshitatsu M, Koyama Y, Mizoguchi H, Toda K, Sawa Y.
Multimed Man Cardiothorac Surg. 2018 May 14;2018. doi: 10.1510/mmcts.2018.018.

3Dプリント技術は、心血管疾患の病理の理解に重要な機能特性のシミュレーションにはまだ十分に活用されていない。本文献では、脆弱で潰れやすい石灰化を伴う大動脈狭窄の3Dプリントモデルの作成方法と本モデルを使用した手術のシミュレーション状況をビデオ画像付で紹介している。本モデルでは大動脈狭窄に見られる石灰化の感触と実際の病変を正確に模倣できた。治療のための技術ドライラボを実施したところ、実際の操作と同様に使用でき、血管内バルーンカテーテルも実行できたため、本モデルは心臓血管外科医のトレーニングや手術シミュレーションに活用でき、臨床現場での患者個別の病理に対し安全性にシミュレーションできると考えられる。

小山:マルチマテリアル3Dプリントで作成された大動脈狭窄症の弁を、上行大動脈のある状態のウェットラボ用の健常ブタの心臓内に埋め込んだ手術シミュレーションモデルで、モデルと生体心筋を使うことでハイブリットモデルと呼ばれる。このハイブリットモデルを使った実際の手術トレーニングの研究報告。このモデルは石灰化病変に対して単に硬性樹脂を使うだけでなく、手術器具で石灰化病変をかしめたときのザラザラ感覚や、超音波手術機器で石灰化病変が破砕される感覚が実感できるように構造的なデザインが加えられており、よりリアルな手術トレーニングできる点が優れている。

3D Print Med

Radiological Society of North America (RSNA) 3D printing Special Interest Group (SIG): guidelines for medical 3D printing and appropriateness for clinical scenarios.
Chepelev L, Wake N, Ryan J, Althobaity W, Gupta A, Arribas E, et al.
3D Print Med. 2018 Nov 21;4(1):11. doi: 10.1186/s41205-018-0030-y.

医療用3D プリントモデルは、施設での採用から様々な医療用途まで、この30年間で劇的に成長を遂げている。画像データから正確な3Dモデルの作成までの各ステップで綿密な検討を行うことは、患者ケアおよび管理に対し非常に重要であるため、本文献では、北米放射線学会3Dモデル特別研究班が関連論文を独自に吟味・審査して推奨事項を提供しており、特定症状を有する患者ケアに対する診断用の適正使用についても言及している。本推奨事項には、アプローチ法やツールのガイダンス、画像データ取得からセグメンテーション、デザイン、3Dモデル出力、後処理までが示されており、今後の医療用3Dモデルの活用の良い指標となると考えられる。

小山:RSNAの3Dモデルに特化した研究グループが、2017年までに発表された論文を1~9(不適切から適切)の基準で検証し,臨床シナリオの中で医療画像から安定して3Dモデルを作成するための推奨事項と適正使用について述べており、各プロセスのポイントを項目別に提示しながら、全体の品質管理も含め網羅的に列挙し整理されており、適切なガイドライン作成に役立つと考えられる。

Eur J Cardiothorac Surg

Three-dimensional printed models for surgical planning of complex congenital heart defects: an international multicentre study.
Valverde I, Gomez-Ciriza G, Hussain T, Suarez-Mejias C, Velasco-Forte MN, Byrne N, et al.
Eur J Cardiothorac Surg. 2017 Dec 1;52(6):1139-1148. (Eur J Cardiothorac Surg. 2017 PMID: 28977423)

本研究では、多施設共同国際試験における患者40例(年齢中央値3歳、1ヵ月~34歳)に対し前向きケース・クロスオーバー試験を実施し、複雑な先天性心疾患(CHD)の手術計画に対する3Dプリントモデルの有用性を評価している。3Dモデルはポリウレタンフィラメントによる熱溶解積層法にて作成され、通常の医用画像による手術計画との比較・評価後、医師に対し主観的満足度アンケートが実施された。本モデルは解剖学的構造の正確なレプリカ(平均バイアス値‐0.27±0.73 mm)であり、40症例中19例で外科的決定の変更がなされ、また外科医の96%が本モデルは外科的アプローチの再定義に有用であり、複雑なCHDの理解を向上させたと評価した。

白川:複雑な先天心の術前計画に3D臓器モデルがどのくらい寄与するか前向き検証した多国籍多施設試験。従来の画像診断よる術前計画の半数(19/40)が3Dモデルの利用によって計画が変更され、そのうち1例のみ外科手術の中で治療計画が変更された。3Dモデルの有用性は、特に外科医の感覚に基づく主観的な評価になる。統計学的な解析がなかなか難しい項目ではあるが、実際に3Dモデルで手術シミュレーションを行うと、術中に初めて見て・触っているはずの実際の解剖が、すでに感覚として知っている情報になっていることに驚く。

J Am Coll Cardiol

External Aortic Root Support to Prevent Aortic Dilatation in Patients With Marfan Syndrome.
Izgi C, Newsome S, Alpendurada F, Nyktari E, Boutsikou M, Pepper J, Treasure T, Mohiaddin R J Am Coll Cardiol. 2018 Sep 4;72(10):1095-1105. doi: 10.1016/j.jacc.2018.06.053.

本研究では、マルファン症候群患者の大動脈基部拡張予防のためのPersonalized External Aortic Root Support(PEARS、本研究では3Dプリントにて大動脈基部を個別に作成し外部支持デバイスを埋め込んだ)の有用性を評価している。PEARSを受けたMarfan症候群患者24例が前向きにモニターされ、ベースラインおよび追跡期間(6.3±2.6年)終了時に大動脈の測定が行われた。本期間において、大動脈基部と上行大動脈の両径は減少傾向を示し、下行大動脈径は有意に増加、大動脈弓径は増加傾向を示したことより、PEARSはマルファン症候群患者の大動脈基部解離予防の実行可能な代替法となることが示唆された。

白川:心臓MRIのデータから個別に作成されたし大動脈基部の外部支持デバイスをマルファン症候群例に埋め込む治療法(PEARS治療)について約6年経過観察した研究では、デバイスで支持された部分の大動脈拡大の進行が抑制されることが確認された。
マルファン症候群のように瘤化や解離のリスクが極めて高い疾患において、3Dプリント技術で血管径状にオーダーメイドされたデバイスは、想像以上に脆弱な同疾患の血管壁に余分な外力を加えることがかなり少ないのではないかと考えられる。

Conclusion

愛媛大学 倉田先生

3Dプリンティングモデルは、心血管疾患の形態や病態(機能)を実体化することか可能であり、3D画像診断に新たな価値をもたらすものと期待されている。工作機械の世界では「母性原理:工作機械によって作りだされた機械の精度は工作機械自身の精度を上回ることはない」と原則があるように、3Dプリンティングは元データの画質とセグメンテーション(診断)に強く依存するという性質もある。放射線科医は画像を公平な目で診断するという点において重要な役割を期待されている。3D画像と3Dモデルを間に,医療チームの中で個々の患者の病態や治療方針についてディスカッションしその情報を共有できることは、より良好な治療アウトカムが期待できる。放射線科医は、3Dプリンティングという技術を通じてデバイス開発など先進的な医療・研究まで貢献する役割も期待される。

Reference

  1. Kurata A, Koyama Y, Shirakawa T, et al. Clinical Applications of Three-Dimensional Printing in Cardiovascular Disease. Cardiovasc Imaging Asia. 2018 Oct;2(4):153-165.
  2. Shiraishi I, Kajiyama Y, Yamagishi M, et al. Images in cardiovascular medicine. Stereolithographic biomodeling of congenital heart disease by multislice computed tomography imaging. Circulation. 2006 May 2;113(17):e733-4.
  3. N Byrne, M Velasco Forte, A Tandon, et al. Systematic review of image segmentation methodology, used in the additive manufacture of patient-specifi c 3D printed models of the cardiovascular system. JRSM Cardiovasc Dis. 2016 Apr 29;5:2048004016645467.
  4. Chepelev L, Wake N, Ryan J, et al. RSNA Special Interest Group for 3D Printing. Radiological Society of North America (RSNA) 3D printing Special Interest Group (SIG): guidelines for medical 3D printing and appropriateness for clinical scenarios. 3D Printing in Medicine20184:11
  5. Luo H, Meyer-Szary J, Wang Z, et al. Three-dimensional printing in cardiology: Current applications and future. Cardiol J. 2017;24(4):436-444.
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  7. Valverde I, Gomez-Ciriza G, Hussain T, et al. Three-dimensional printed models for surgical planning of complex congenital heart defects: an international multicentre study. Eur J Cardiothorac Surg. 2017 Dec 1;52(6):1139-1148.
  8. Hinton TJ, Jallerat Q, Palchesko RN, et al. Three-dimensional printing of complex biological structures by freeform reversible embedding of suspended hydrogels. Sci Adv. 2015 Oct 23;1(9):e1500758.
  9. Noor N, Shapira A, Edri R, et al. 3D Printing of Personalized Thick and Perfusable Cardiac Patches and Hearts. Advanced Science 2019, 19003444:10.

Resume

倉田 聖

倉田 聖

愛媛大学大学院 放射線部 准教授

1997年 愛媛大学医学部医学科卒業
愛媛大学医学部付属病院内科
2002-2004年 愛媛大学院大学医学博士課程
2004-2008年 愛媛大学大学院病態情報内科学(循環器・呼吸器・腎高血圧内科)循環器内科
2008-2010年 愛媛大学大学院放射線医学
2010-2012年 同 講師
2012-2014年 エラスムス大学胸部疾患センター(ロッテルダム、オランダ)放射線科 心血管イメージング部門 客員教授
2014-2020年 愛媛大学大学院放射線医学 講師
2020年4月より 現職
小山 靖史

小山 靖史

桜橋渡辺病院 心臓血管センター
画像診断科科長・放射線科 部長

1993年愛媛大学医学部医学科卒業
愛媛大学医学部付属病院 第二内科
1994-1996年愛媛県立病院系列 内科・循環器科
1996-2003年同 医長
2003-2006年米国クリーブランドクリニック循環器科・先進心臓イメージング
医学博士学位取得(愛媛大学 2006年)
2006-2008年特定医療法人 桜橋渡辺病院 内科・循環器科
2009年より現職
2017年理化学研究所 革新知能統合研究センター
医用機械知能チーム 客員研究員 兼務
白川 岳

白川 岳

関西労災病院 心臓血管外科

2001年 京都大学大学院工学研究科修了
マツダ株式会社技術本部に勤務
2008年 徳島大学医学部卒業
初期臨床研修、外科研修を修了
2011年以降 大阪大学病院、大阪警察病院、福井循環器病院、紀南病院、関西労災病院等で心臓血管外科医として勤務