Radiology
Sea Change
Vol.2
Radiomics & Radiogenomics
統合的な画像診断に向けた取り組み
工藤 與亮 先生(北海道大学病院 放射線診断科 診療教授)
Seung Hong Choi 先生(ソウル国立大学病院 放射線科 准教授)
Mini-Review -Radiomics
北海道大学 工藤 與亮
近年、放射線科領域でRadiomicsというキーワードを目にすることが増えてきている。「omics」という言葉は「すべての」という意味を持つ「ome」と、学問や研究を意味する「ics」を合わせた接尾辞であり、Radiologyにomicsという語尾を持たせたRadiomicsは、放射線画像の持つ多系統の情報をデータとして統合的に解析し、より医用画像診断の効率と精度を高め、病理診断や分子・遺伝子情報、予後予測などと結びつけようとする試みである。手作業では非常に手間のかかる大量の画像データを自動的に処理することの優位性に加え、我々人間の肉眼による分解能では捉えられないような画像の情報を見出だせる可能性がある。特にオンコロジーの領域では、近年の研究の関心は生体内での腫瘍の不均一性(heterogeneity)に焦点が当てられているため、これまでにない新たな手法での画像評価が求められており、Radiomicsはそのニーズを満たすアプローチとして期待がかけられている。
従来の画像評価においては、腫瘍などの病変の大きさ、形状、信号強度などが診断を左右する要素であった。しかし、Radiomicsはこのような単一的な評価にとどまらず、大量のデータを数理的な画像処理によって定量的に解析することを可能とする。例えば特徴選択アルゴリズムを用いて画像の特徴量(色の濃淡や色が変化する境界領域など)を抽出し、これによって病変の位置や強度、境界の不明瞭さなどの情報が数値化される。様々な腫瘍性病変は脳、胸部、乳腺などの撮像部位によって一定のパターン(テクスチャ) があり、このパターン内でのヒストグラムや近傍部位との濃淡差をデータ化することで数値解析が可能になる。こうしたテクスチャ解析に関する研究が近年活発に行われるようになっており、Radiomicsにも応用されている。
Radiomicsの手法により、画像診断の精度が高まることは疑いのないことであり、すでにコンピュータ支援診断(CAD)と組み合わせて実用化が進みつつある。一方でRadiomicsが可能にすることは診断支援にとどまらず、さまざまな予測につながっていくことが期待されている。もっとも代表的なものは、予後予測と言ってよいだろう。Radiomicsの初期の研究として、Aertsらは頭頸部がん、肺がんの1,019例のコホートのCT画像から病変の信号強度、形状、テクスチャに基づく440の特徴量を抽出し、臨床転帰と比較した。その結果、これらの特徴量の多くは症例の生存を予測することが示された1)。脳神経領域では、Zinnらが膠芽腫のMRI画像の特徴に基づく予測モデルにより遺伝子マッピングを構築し、膠芽腫の生存期間を予測する研究を行っている2)。
オンコロジーの領域で次いで関心が高いと考えられるのが治療効果と転移・再発の予測であるが、これらの研究も近年増加している。Kickingerederらは膠芽腫患者のMRIに基づく予後のリスクモデルを構築し、さらに分子標的薬の治療効果と関連付ける一連の研究を実施した。その結果、高リスク群では無増悪生存期間、全生存期間のいずれにおいても高いハザード比を示したことから、Radiomicsの手法により構築されたモデルの有用性が確認された 3),4)。また、先述のAertsらは、肺がんに対する標的治療の反応を予測する表現型の同定を試み、腫瘍径や遺伝子変異に加え、治療前後のCT画像の変化が有用な特徴量であることを見出した 5)。転移予測については、Huynhらは非小細胞肺がん症例のCT画像を用いて、局所再発および遠隔転移の予測に適した特徴量を描出できるアルゴリズムの検討を行い、平均値投影像がより適した手法であることを示した6)。また、予測以外にも、標識分子の有用性や、腫瘍に類似した表現型の検討、医療画像から腫瘍環境を推測する試みも始まっており、今後さまざまな視点でRadiomicsが活用されると考えられる。
Mini-Review -Radiogenomics
SNUH Seung Hong Choi
RadiogenomicsはRadiomicsからさらに一歩踏み込んで、従来の放射線画像診断にゲノミクス(genomics)の手法を取り入れた概念である。すなわちRadiogenomicsは、画像そのものの持つ情報や所見に加えて、患者の遺伝子プロファイルなどの分子学的情報を融合させることで、双方の相関関係を確立することを目指している。
ゲノミクスの概念が浸透するとともに、ヒトの持つ分子学的情報を治療に応用しようとする試みは着実に進展してきた。その代表とも言えるものは遺伝子異常がその機序に大きく関与するがんであり、現在では遺伝子検査に基づく治療薬の決定が標準治療として取り入れられるまでになっている。この発展を支えているのはゲノム解析技術の進歩であり、2000年代後半以降、$1000 genomeの言葉に象徴されるように低コスト化と高速化が急速に進んだことの貢献は大きい。今後も次世代シーケンシングの開発などを背景に、ゲノム情報は医療のさまざまな局面で活用されるようになるだろう。
最も初期のRadiogenomicsの試みがなされたのは、中枢神経腫瘍の領域であった。米国カリフォルニア大学サンディエゴ校のDiehnらは、2008年の報告において、膠芽腫の遺伝子発現パターンのマッピングを行うため、ニューロイメージングとDNAマイクロアレイ解析を組み合わせた検討を試みた。膠芽腫は未分化で悪性度の高い神経膠腫のひとつであり、病理所見による臨床的経過の予測が困難とされてきたが、彼らの研究では浸潤性を予測するMRI画像の表現型が特定され、複数の腫瘍の存在と生存期間との関連が示された 7)。この結果を受けてMDアンダーソンがんセンターのZinnらは、さらに大規模な集団(The Cancer Genome Atlas)において遺伝子およびmicroRNAとMRI画像の関連性を調べる解析を行い、POSTNなどの遺伝子やmicroRNAの発現パターンと浸潤性の高い表現型との間の相関を確認した8)。その後も、メッセンジャーRNAやDNAコピー数などゲノミクスのパラメータを用いた検証的な研究が行われている9),10)。
世界保健機関(WHO)は2016年に中枢神経腫瘍の病理分類を改訂した11)。そこでは従来の病理所見に加えて分子学的・遺伝子パラメータを分類に用いることが明確に打ち出された。特に膠芽腫を含むびまん性の神経膠腫については、分子学的な類似性に基づいて分類の再編成が行われ、両者が統合的に用いられるようになるとともに、今後ゲノミクスが病理所見よりも大きな役割を担う可能性も示唆されている。
神経腫瘍の領域では、Radiogenomicsを利用して、前述の技術的進歩を野心的に取り入れた興味深い研究が相次いでいる。Wangらは神経膠腫の局在性と遺伝子プロファイル(IDH1変異)の関連性を3Dマッピングにより評価した12)。Kickingerederらは灌流MRIによる局所脳血液量(rCBV)を用いて、IDH変異と血管新生のシグネチャとの関連性を確認している13)。HuらはマルチパラメトリックMRI画像と生検組織から得たドライバー遺伝子のコピー数との関連を、テクスチャ解析および決定木を用いたクロスバリデーションにより検討し、膠芽腫のheterogeneityの評価を行った14)。このような試みにより、長らく難治性のがんとして人類を苦しめてきた神経腫瘍の治療は新しい局面を迎えつつある。
Radiogenomicsはもちろん中枢神経腫瘍にとどまらず、乳がん、肺がんなどの分野でも研究が進んでいる。多様なデータの解析が進めば、発がんや悪性化におけるゲノムの機能と役割が明らかになっていき、基礎研究でのメカニズムの解明につながるだろう。臨床では、機械学習を活用することでCADの精度がさらに向上し、個別化医療からprecision medicineへの進展に貢献することは間違いない。一方、スムーズなRadiogenomicsの発展にはデータの集積がカギとなるため、今後は国際共同研究を含めたグローバルな医学研究の取り組みが求められるようになるだろう。
Experts Dialogue
Ⅰ. Radiomics/Radiogenomicsの概要
工藤:Radiomicsというのは、Radiologyとomicsを組み合わせた造語です。放射線画像のあらゆる特性を網羅した研究、という意味があります。これまでも特定の画像所見についての研究は行われてきましたが、Radiomicsはより網羅的に、画像データに含まれるさまざまな特徴量を抽出して、臨床情報、例えば鑑別診断、治療反応性、予後などとの相関関係を明らかにすることを目指しています。
Choi:付け加えるとRadiomicsには、画像から得られる膨大なデータを解析すること、というニュアンスもあります。さらにRadiogenomicsになると、Radiology、Radiomicsとゲノミクスを融合した研究、という意味になります。例えば、がんには多数の遺伝子変異が見られますが、すでにそれらに関連した、重要な放射線学的特徴についての知見が得られています。Radiogenomicsが目指しているのは、こうした放射線学的特徴と、ゲノムのプロファイルとの間に何らかの関連を見出すことです。今では、複数の疾患に関するすべてのゲノム情報を分析することができます。そうした理由から、Radiomicsはますます重要になってきています
工藤:こうした研究が広く行われるようになった背景は何でしょうか。
Choi:私が研修医だった頃は、CTやMRI装置の数また画像データ数がごく限られていました。その気になれば、勤務時間内に一人の患者の画像をじっくりと読影することができました。しかし現在では、膨大な画像情報が得られるようになり、さらに一般的な撮像法だけでなく、拡散強調画像や灌流画像、MRスペクトロスコピーなど、さまざまな先進的イメージング手法が用いられ、解析も複雑になっています。ですから正確な解析を行うために、画像情報やデータを解釈する別のアプローチが必要になってきたのです。
工藤:通常の読影では、病変のサイズや形態、信号パターンなどを評価することが中心になります。そのため従来の研究では、例えば腫瘍サイズや病変数、信号値と予後との関連、といったことが検討されてきました。つまり研究手法としては比較的単純なものだったといえます。ところが現在では、より高度な解析を行える多くのツールが生まれ、ヒストグラムやテクスチャ解析なども用いることができます。研究はより複雑になり、大量のデータを扱う必要性が出てきましたね。
Choi:Radiogenomicsについていえば、疾患の定義が完全に変わったことが大きいでしょう。昨年(2016年)、中枢神経腫瘍のWHO分類が改訂され、最終診断に遺伝子情報が含まれることになりました。たとえば、星細胞腫の最終診断にはIDH遺伝子の変異、乏突起膠腫の最終診断にはIDH遺伝子の変異と1p/19q遺伝子の同時欠失の確認が必須となりました。遺伝子情報は、いくつかの疾患で最終診断を行ううえで必須のものとなり、すでに脳神経外科や神経内科の研究者は、神経疾患の新しい分類と疾患カテゴリーについての研究を始めています。このため放射線科医には、それぞれの疾患に対応する遺伝情報の知識が求められるようになり、放射線医学的な特徴とゲノミクスの特徴を関連付けることが必須となりました。
工藤:病理診断の基本は組織学的形態学でしたが、その後免疫染色や分子病理学が一般的になり、そして今、私たちは遺伝子やゲノミクスの時代にいるということですね。ヒトゲノム計画から始まり、現在は次世代シークエンサーの開発など技術進歩の恩恵は医療にも確実に及び、患者個々の遺伝子情報を瞬時に解析することも可能となってきました。これは個人個人の違いに合せて最適な医療を提供しようとするテーラーメード医療の幕開けでもあり、Radiogenomicsは放射線科が貢献できる一つのツールになりえる可能性を秘めていると思います。
Ⅱ. Radiomics/-genomicsの臨床応用
Choi:今後、Radiomics/-genomicsはどのように臨床現場に応用されていくのでしょうか?
工藤:臨床医にとって、Radiomicsから得られる情報は鑑別診断や治療法選択、生存予測のために大変有用です。しかし、現時点ではまだ研究段階にあり、実臨床での使用には遠いというのが現状です。臨床現場にRadiomicsを組み込むにあたっては、解析の自動化や、読影業務のワークフローへの組み入れなどが必要と思います。
Choi:一方、膠芽腫(GBM)などのいくつかの腫瘍については重要な画像上の特徴が知られており、すでに臨床診療の現場で、これらを実際にチェックするようになっています。放射線学的特徴が明らかになれば、脳腫瘍における遺伝子変異を予測することができます。将来、脳から検体を採取する代わりに画像上の特徴を利用できるようになれば、患者さんの負担が軽くなるでしょう。
工藤:GBMとRadiogenomicsに関する研究はさかんに行われていますね。研究自体は急速に進んでいると思いますが、これらの知見をどのように臨床に応用することができるでしょうか?
Choi:Radiogenomicsの最初の臨床応用は、MRスペクトロスコピー(MRS)を用いたIDH遺伝子変異の予測になるかと思います。IDH変異は2-ヒドロキシグルタル酸の産生をもたらしますが、これをMRSで検出することが可能です。MRIなどの診断機器で検出できる特異性の高いポイントをターゲットとすることで、ある遺伝子変異に由来する特定の分子を同定することができます。残念ながら現時点では、利用できるデータに一貫性がなく、研究者によって画像所見にばらつきが出る傾向があり、そのため異なる仮説が提唱されています。この状況を改善するためには、標準化された大量の集団ベースのデータを用いて、より検出力の高い解析を行うことが必要です。
工藤:ビッグデータを活用した解析は非常に重要ですね。UK Biobankは英国政府が統括する50万例規模のバイオバンクですが、このプロジェクトではUK Biobank ImagingStudyと呼ばれる、医用画像と各種データ(遺伝子情報や臨床データなど)を統合的に解析する研究が展開されています。また一方で、Radiomics/-genomicsがより一般的なものとなるためには、利用可能な解析ツールをルーチンのワークフローに組み込んでいく必要がありますね。
Choi:臨床応用が困難な理由の1つは、日常診療で利用するには解析プロセスに時間がかかりすぎることです。例えば、脳腫瘍を解析するプロトコールには、患者1人あたり2時間以上かかります。拡散強調画像や灌流画像などを用いて画像のテクスチャを解析し、データをソートしてすべての情報を抽出したあと、イメージング係数を取得して、さらにデータを解析するためのExcelファイルを作成する、というプロセスが必要なのです。
工藤:現在すでにいくつかのアプリケーションがCAD(コンピュータ支援診断)として利用できるようになっており、一部のシステムはFDAの承認も受けています。いずれはRadiomicsによるテクスチャ解析も同じように利用可能になるでしょうか。
Choi:Radiomicsのための人工知能(AI)や、関連IT技術も進歩しています。今後数年で、AIを用いたディープラーニングに基づいて、さまざまなタイプの画像解析が行われるようになるでしょう。つまり、解析のスピードが速くなるということです。昨年のRSNAでは、AI技術を持つ企業による機械学習をテーマにしたセッションが数多くみられました。例えばWatsonを擁するIBMなどです。
では、Radiomics/-genomicsの進歩から利益を得ることになるのは、どういった臨床分野、診療科、医療機関でしょうか?
工藤:まずは中枢神経系分野が最もよいターゲットになるでしょう。脳からは生検検体を容易に採取できませんから。例えば乳がんであれば、病変全体を切除することができ、腫瘍全体の病理学的解析が可能ですが、脳腫瘍ではそれができません。
アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患が、次の候補として有望視されています。これら領域では、実際にテクスチャ解析を使用した解析が始まっており、変性疾患への適用も試みられています。
私たちは、Radiomicsの手法を用いた認知症の研究を始めました。ボクセルベースの形態計測に加えて、T1、T2、T2*の値と定量的磁化率マッピング(QSM)を解析に使用し、全脳でのRadiomics解析を行う予定です。
Choi:脳腫瘍におけるゲノミクスの限界のひとつは、特に神経膠腫についていえることですが、多数のゲノミクス研究が行われているにもかかわらず、治療法の変化に結びついていないことです。神経科学はradiologyの主要な対象領域ですが、その一方で、神経腫瘍学はがん免疫学の方向へと急速に進歩しつつあります。そのため研究者は、あらゆる脳腫瘍に対する免疫学的反応に注目するようになっています。ならば私たちは、腫瘍の免疫学的反応を予測するために画像解析を使用すべきなのです。
工藤:そういう意味で考えると、乳がんでは、ホルモン受容体やHER2の状態に基づいてホルモン療法や化学療法などの治療選択肢が変更されるため、Radiomics研究の対象候補ということになります
Choi:乳がんの標的治療薬には多くの選択肢があります。しかし治療後に腫瘍はheterogeneityを示し、一部の腫瘍細胞は治療に耐性を持つようになります。研究者は、さまざまな種類のがん、そして多様な集団に観察されるheterogeneityを解明したいと考えています。こうした集団を同定するためのアプローチとして、Radiomics/-genomicsは役立つのではないでしょうか。実際、Huらは、GBMにおけるheterogeneityの特性を明らかにするために同様のアプローチを取っており、この手法は乳がんでも用いることができるでしょう。
工藤:Heterogeneityは悪性腫瘍の重要な特徴の1つですね。Radiomicsでは、腫瘍全体、そして腫瘍の周辺領域を含めて、膨大な画像所見を扱うことができます。最近私たちのチームでは、背景乳腺の増強効果が、トリプルネガティブ乳がんというサブタイプと高度に相関していることを見出しました。背景乳腺の増強効果は近年、画像の解釈において重要視されるようになっています。Radiomicsでは病変を含む画像の全領域が研究対象になるため、腫瘍だけでなく周辺領域にも対応できます。これはRadiomicsの利点のひとつになり得るでしょう。
Choi:一方、外傷や急性疾患など、迅速に診断を行う必要がある分野では、Radiomics/-genomicsの応用は難しいかもしれませんね。
工藤:バイエルの企画ということではないですが、これら研究分野では造影画像データが拡く解析に用いられています。造影剤の使用に関してはどう思われますか?
Choi:造影剤を使用することにより、特に脳腫瘍について、さらなる情報を得ることができます。例えば、DSCやDCEといった灌流イメージングによって得られる壊死や血管新生などの情報です。造影剤は、腫瘍の生物学および生理学を十分に理解するためには欠かせません。
工藤:造影剤によって明瞭な画像コントラスト、灌流情報、および血管透過性情報を得ることができるのは、Radiomics解析のためにも望ましいですね。灌流イメージングひとつとってもDSC、DCE、ASLといった様々な造影、非造影の異なる撮像法があり、それぞれ似てはいますが相違点もあります。Radiomicsのデータ解析で複数の方法を使用すれば、当然、方法間で相違が発生するはずで、その相違こそがRadiomics解析の精度を上げるうえで重要になるでしょう。
Ⅲ. 治療科や専門家との連携
Choi:Radiomics/-genomicsを発展させ、認知度を高めていくために、他科の医師とはどのようにコミュニケーションを取られていますか?彼らはRadiomics/-genomicsをどのように見ているのでしょうか?
工藤:脳神経外科医の関心は高いですね。これから共同研究を通じて、より密接に協力していくべきでしょう。
Choi:私の施設には神経腫瘍学の共同チームがあり、脳神経外科医、放射線腫瘍医、内科医、神経腫瘍医、神経科医、病理医、神経放射線科医が参加しています。チームメンバーは、Radiogenomicsを優れた研究ツールととらえており、患者に対する有効なアプローチとして支持しています。
工藤:臨床科以外でも、ITスペシャリストの存在が非常に重要だと思います。私たちはスタンフォード大学と共同研究を行っているのですが、やはり施設の研究チーム内にITスペシャリストがいると研究が加速化できると思います。先生は、さまざまなデータとの相関や、その他の関連性はどのように分析されているのですか?
Choi:データの解釈には病理医などの支援が必要です。そして、さらに踏み込んだ解釈を行うには、同僚に相談して、解析結果から主要な特徴と重要な情報を選んでもらうことになります。多施設で共同研究を行うことも重要ですね。
工藤:私たちはスタンフォード大学とGBMを対象とした共同研究を行っていますが、国際共同研究によりデータは増えますし、優秀な人材も増え、優れた結果を生んでいると思います。スタンフォード大学には独自のデータがあり、私たちもまた独自のデータを持っています。これはつまり、異なるコホートを用いて解析法の検証が行えることを意味します。Radiomics研究にとって検証は非常に重要ですから。
Choi:世界的な協力関係をすすめていくことが大切ですね。国際的な多施設共同研究によって、統計学的検出力が高まるので、将来的には、私たちの施設も多施設共同研究で協力したいと考えています。
Ⅳ. 若手放射線科医へのメッセージ
工藤:最後に、将来を担う若い世代の放射線科医へのアドバイスはありますか?
Choi:韓国では、私の施設を含めて、研修医や研究員に対するこれまでの指導法を変えていく必要があると思います。内科の分野には遺伝子解析のためのカリキュラムがあり、ゲノムデータをどのように解釈するか、各疾患ステージにおける最終的な情報は何なのか、といったことが教えられています。しかし、radiologyの分野にはそうしたカリキュラムがありません。医学の変化は急速ですので、どうすれば若い医師や放射線科医が生き残れるのか、心配しています。さらに今後は、AI技術もより大きな影響を私たちの分野に及ぼすことになるでしょう。私たちは人間同士だけでなく、ディープラーニングや機械学習とも競争しなければならなくなります。若い医師や放射線科医を導いていくために、私たちは世界と医療分野の急速な変化に適応しなければなりません。
工藤:AI技術やRadiomics/-genomicsは、特に若い医師や医学生にとって脅威に感じられるかもしれません。しかし今こそ、これまで私たちが新しい技術に直面した時の経験を思い起こすべきです。20年前にMRIが普及し、10年前にゲノミクスが広がりました。私たちはこうした新技術を使いこなし、今やRadiomics/-genomicsへと発展させつつあります。これらの技術をツールとして使いこなすことで、医学はさらに発展していくと私は思います。
これまでのradiologyは画像所見の解釈が中心だったため、私たちは病変の画像所見を確認して、報告書に記載するという業務を行ってきました。しかし、Radiomics/-genomicsが登場することで、私たちがたずさわるradiologyの分野に新たな価値が加わります。例えば、鑑別診断、遺伝子発現、予後予測などの確率を算出することができるようになります。そして私たちは、単にこれらの結果を提供するだけでなく、その結果が意味するところを臨床医に伝え、臨床的なディスカッションを行うという役割も担うことになるでしょう。
Choi:私たちより若い世代は以前よりも多くのことを学ばなければならないので、苦労するかもしれません。しかしこれは特権でもあります。radiologyの領域だけでなく、医学全体の動向を知ることができるのですから。オープンマインドの精神を持って、広い世界に向き合っていくことが重要だと感じます。
工藤:Radiomics/-genomicsは、診断の推定や予後予測など、有益な情報を臨床現場にもたらすことでしょう。radiologyが今後も非常にエキサイティングな分野であり続けることを、私は確信しています。
Key Paper Summary
Radiomics: Images Are More than Pictures. They are Data
Gillies RJ et al.: Radiology 2016, Vol. 278, 563-577
Radiomicsは、従来のCT、MRI、PET画像から定量可能な画像特性を大量に抽出し、データマイニング可能なデータに変換する。Radiomicsデータを画像以外の患者データと統合し、高性能のバイオインフォマティクスツールで解析することにより、診断や予後予測の精度向上に寄与する可能性がある。今後、通常の画像検査と共にRadiomics解析がルーチンになると考えられる。医用画像のRadiomics解析は、特に癌患者に関する臨床的な意思決定、診断・予後予測・奏効予測を改善することが期待される。
工藤:Radiomicsの代表的なレビュー論文であり、基礎的な概念から将来的な応用まで分かり易く解説されている。タイトルのとおり、画像は単なる絵ではなく無数の情報を含むデータであり、そこから機械的に情報を抽出して診断や予後予測に役立てるという、Radiomicsの概念が理解される。
Radiomics and its emerging role in lung cancer research, imaging biomarkers and clinical management: State of the art
Lee G et al.: European Journal of Radiology 2017, Vol. 86, 297-307
肺がん研究における関心は腫瘍の微小環境とゲノムの不安定性に向けられており、Radiomicsは医用画像が持つ情報を定量化し、それらを評価しうる手法として役立つと考えられる。すなわち、腫瘍の三次元的複雑性、ゲノム不均一性、組織学的構造、生存能および悪性度、さらに治療反応性も解明できる可能性がある。またゲノミクスとの融合によりさらに多くの知見が得られると予想される。本文献では、RadiomicsとRadiogenomicsについてレビューし、肺がんのイメージングにおけるこれらの手法の実施方法について述べている。画像データの撮像技術によるばらつきが目下の課題であり、今後はデータ解析の精度の向上のため、撮像方法の国際的標準化に関する議論が必要である。
工藤:肺癌をテーマにしたレビュー論文であり、この論文もRadiomicsの基礎について理解しやすい。特に、近年注目されている悪性腫瘍のheterogeneityと関連させて解説されているため、単なる画像データの解析ではなく病理学的な変化に基づく考察もなされている。
Prognostic Imaging Biomarkers in Glioblastoma: Development and Independent Validation on the Basis of Multiregion and Quantitative Analysis of MR Images
Cui Y et al.: Radiology 2016, Vol. 278, 546-553
画像の定量化解析の手法により、膠芽腫における予後のバイオマーカーを探索し、独立検証を行っている。TheCancer Imaging Archive(TCIA)から得た膠芽腫患者46例のMRI画像データ(T1およびT2強調画像)で学習させた解析手法を、別の33例の患者コホートを用いてバリデーションを行っている。画像解析では、腫瘍の輪郭の半自動描出を行い、信号強度のパターンがコヒーレントとなるように領域を分割し、各領域と全領域について、定量的な特徴量の抽出を行っている。その結果、腫瘍の表面積及び信号強度分布、ならびにその領域を定量化する5つのバイオマーカーが同定され、検証により本モデルは年齢や腫瘍体積よりも有意に全生存との相関が高いことが示された(P=0.018, log-rank test)。
工藤:Radiomicsでは解析手法の確立に加えて独立した患者コホートでのバリデーションも重要であると言われている。この論文では膠芽腫においてバリデーションを含めた結果を示しており、同一施設で撮像されたMRIデータを使用しなくても、Radiomicsの手法を普遍化できることを実証している。
Identifying Triple-Negative Breast Cancer Using Background Parenchymal Enhancement Heterogeneityon Dynamic Contrast-Enhanced MRI: A Pilot Radiomics Study
Wang J et al.: PLoS One 2015, Vol. 10, e0143308
ダイナミック造影MRI画像によるトリプルネガティブ乳がんの鑑別について、腫瘍および背景乳腺の増強効果(BPE)に関する定量的な特徴の有用性を評価している。88個(84例)の腫瘍に対し、腫瘍および周囲の実質を半自動的にセグメント化し、これら2つの領域から腫瘍の形態、信号強度、テクスチャ解析を含む85の特徴量を抽出した。トリプルネガティブ乳癌を鑑別するために機械学習による予測モデルを構築した。その結果、腫瘍領域の特徴量を用いた予測モデルではAUCが0.782と高い予測能を示しただけでなく、 BPEを組み込むことで、AUCは0.878まで有意に増加した(P<0.01, Wilcoxon signed-rank tests)。
工藤:乳癌もCADによる研究が盛んであったが、Radiomicsの手法を取り入れた研究も進んでいる。Radiomicsを用いることで、腫瘍本体だけでなく、周囲乳腺組織の増強効果も評価に組み込み、乳癌のサブタイプ予測に役立てている。
Identifcation of noninvasive imaging surrogates for brain tumor gene-expression modules
Diehn M et al.: Proceedings of the National Academy of Sciences U.S.A. 2008, Vol. 105, 5213-5218
膠芽腫(GBM)を対象に、DNAマイクロアレイ遺伝子発現パターンとGBM患者の治療前MRIから得た画像プロファイルを統合に解析し、多次元ラジオゲノミクスマップを作成している。このマップから、腫瘍の造影効果及びmass effectは、それぞれ低酸素状態及び細胞増殖に特異的な遺伝子発現パターンと関連していることが分かった。また、生存関連遺伝子発現パターンと画像における浸潤性パターンが重複しており、浮腫性より浸潤性の画像表現型を有する患者で予後が不良であったことから、浸潤性の画像表現型が患者の転帰を予測することを示した。本研究で示したGBMにおけるin vivoのゲノムワイド遺伝子発現プロファイルは、個別化医療の候補となりうる患者を非侵襲的に選別する方法を提示している。
Choi:ラジオゲノミクスの脳腫瘍への応用について紹介した論文で、神経放射線学、特に神経腫瘍イメージングにおける新たなパラダイムを提唱している。
MR Imaging Predictors of Molecular Profile and Survival: Multi-institutional Study of the TCGA Glioblastoma Data Set
Gutman DA et al.: Radiology 2013, Vol. 267, 560-569
The Cancer Genome Atlasに遺伝子データを有する75例の膠芽腫(GBM)患者の術前MR画像での視覚的特徴を用いて、GBMの腫瘍サイズ及び組成を包括的に解析している。造影効果の見られる腫瘍体積及び腫瘍の最大長軸径は、生存転帰不良と強い関連が認められた(それぞれ、ハザード比8.84、P=0.0253及びハザード比1.02、P=0.00973, log-ranktest)。また、proneural typeのGBMでは腫瘍の造影効果が有意に低く(P=0.02, Fisher exact test)、mesenchymal typeのGBMでは造影されない腫瘍の割合が有意に低かった(P<0.01, Fisher exact test)。本研究は、GBMのMR画像上での肉眼的特徴を遺伝子変異及び遺伝子発現サブタイプと組み合わせることで、GBMサブセットの基礎的な生物学的特性の理解を深めることが可能となることを示している。
Choi:標準的な神経イメージング、病理所見およびゲノム特性の組み合わせにより、膠芽腫の生物学的挙動を予測でき、また個々の患者における生存のより良い予測にも用いられることを示している。
Illuminating Radiogenomic Characteristics of Glioblastoma Multiforme through Integration of MR Imaging, Messenger RNA Expression, and DNA Copy Number Variation
Jamshidi N et al.: Radiology 2014, Vol. 270, 212-222
膠芽腫(GBM)患者を対象に、mRNA発現及びDNAコピー数多型(CNV)の変化と関連するMR画像のラジオゲノミクスシグネチャを探索している。6つのMR画像特徴(造影効果、壊死、コントラスト-壊死比、T2強調画像における浸潤性対浮腫性の異常、mass effect及び脳室下帯病変)を個別に評価し、GSEA(gene set enrichment analysis)を用いて、GBMのラジオゲノミクス関連マップを構築した。本マップにより、KLK3及びRUNX3とコントラスト-壊死比、RAP2A及びTYMSと脳室下帯の関与、FOXP1及びPIK3IP1と血管原性浮腫、などの関連が特定された。本研究は、高悪性度神経膠腫の既知のバイオマーカーと関連するMR画像特徴を同定し、GBM以外の他の悪性腫瘍で同定されているゲノムバイオマーカーとの関連を明らかにした。
Choi:遺伝情報および遺伝子発現レベルを予測する上での、MRIに基づくラジオゲノミクスの応用の可能性を示している。
Radiogenomics to characterize regional genetic heterogeneity in glioblastoma
Leland S Hu et al.: Neuro-Oncology 2017, Vol. 19, 128-137
膠芽腫(GBM)における腫瘍内における遺伝的不均一性を画像上で明らかにするために、multiparametric MRI及びテクスチャ解析を用いて探索的研究を行っている。原発性GBM患者からMRIで造影効果を示す(ENH) 部分と示さない(腫瘍周辺部、BAT)部分の生検検体を採取し、主要なGBMドライバー遺伝子のDNAコピー数多型を解析した。また、生検位置とテクスチャマップから、局所の遺伝的ステータスと空間的に一致するMRI測定値を関連づけた。その結果、6つのドライバー遺伝子(EGFR, PDGFRA、PTEN、CDKN2A、RB1及びTP53)がMRIテクスチャ特性と有意に相関した。各ドライバー遺伝子の多変量予測決定木モデルの正確度に大きなばらつきがみられ (37.5 ~ 87.5%)、4つのドライバー遺伝子(EGFR, PTEN、CDKN2A及びRB1)のモデルでは、ENH部分よりもBAT部分で高い正確度を示した。
Choi:遺伝的不均一性は、特に膠芽腫に関して最も重要な問題の1つである。この研究は、MRIに基づく定量的解析を用いることで、腫瘍の遺伝的不均一性を非侵襲的に評価できる可能性を見事に示している。
Conclusion
北海道大学 工藤 與亮
大量のデータを高速に処理することを可能にしたコンピュータの発達・進化を基盤として、Radiomicsや人工知能(AI)は急速に発展している。Radiomicsでは人間が視覚的に認知できない画像の特徴量から鑑別診断や予後予測などが高精度に行われるため、放射線診断医にとって脅威に感じられるかもしれない。しかし、医療における複雑な命題や意思決定はコンピュータには不可能なことである。むしろ我々はRadiomicsやAIをうまく使いこなすことで診断業務の中の単純作業を最小限にし、より高度な鑑別診断やクリエイティブな研究開発などにエフォートを配分することで、画像診断が永続的に発展していくことを期待している。
Reference
- Aerts HJ et al.: Nature Communications 2014, 5, 4006
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- Kickingereder P et al.: Clinical Cancer Research 2016, Vol. 22, 5765-5771
- Aerts HJ et al.: Scientifc Reports 2016, 6, 33860
- Huynh E et al.: PLoS One 2017, Vol. 12, e0169172
- Diehn M et al.: Proceedings of the National Academy of Sciences U.S.A. 2008, Vol. 105, 5213-5218
- Zinn PO et al.: PLoS One 2011, Vol. 6, e25451
- Jamshidi N et al.: Radiology 2014, Vol. 270, 1-2
- Grossmann P et al.: BMC Cancer 2016, Vol. 16, 611-620
- Louis DN et al.: Acta Neuropathologica 2016, Vol. 131, 803-820
- Wang Y et al.: European Journal of Neurology 2015, Vol. 22, 348-354
- Kickingereder P et al.: Scientifc Reports 2015, 5, 16238
- Hu LS et al.: Neuro-Oncology 2017, Vol. 19, 128-137
Resume
工藤 與亮
北海道大学病院放射線診断科
診療教授
- 1995年
- 北海道大学医学部 卒業
- 1995年
- 北海道大学医学部 放射線科入局
- 1997年
- 医療法人禎心会セントラルCIクリニック 院長
- 2003年
- 北海道大学大学院医学研究科 博士課程修了 講師
- 2004年
- 北海道大学医学研究科 放射線医学分野 助手
- 2006年
- Wayne State University MR Research Center 留学
- 2007年
- 北海道大学病院放射線科 助教
- 2008年
- 岩手医科大学先端医療研究センター 講師
- 2011年
- 岩手医科大学医歯薬総合研究所 講師
- 2013年
- 北海道大学病院放射線診断科 准教授
- 2016年より現職
Seung Hong Choi
ソウル国立大学病院 放射線科
准教授
- 2001年
- ソウル国立大学医学部 卒業
- 2001年
- ソウル国立大学病院
- 2002年
- ソウル国立大学病院 放射線科入局
- 2006年
- ソウル国立大学 医学部 博士課程修了
- 2006年
- Armed Forces Capital病院 放射線科 Chairman
- 2009年
- ソウル国立大学 BK21センター
Post-doctoral chief researcher - 2010年
- ソウル国立大学病院 放射線科 助教
- 2013年より現職