線量管理システムを活用した各モダリティの被曝管理基盤の構築
慶應義塾大学病院
〒160-8582
東京都新宿区信濃町35番地
TEL (03)3353-1211(代表)
はじめに
大出 健一
主任
診療放射線技師
医学物理士
布川 嘉信
室長補佐
医療放射線安全管理副責任者
近年、医療法改正に基づき診療放射線に関わる装置を有する施設では、医療被ばくの管理体制構築が義務化されている。各施設における標準体重患者の各検査プロトコルの被ばく状況を本邦の診断参考レベル(Diagnostic Reference Levels : DRLs)と比較し、医療被ばく線量の最適化を行うことが責務となっている。現在、医療法施行規則により被ばく管理対象とされているモダリティはCT、核医学、血管造影であり、それぞれモダリティ特性に応じた診断参考レベルが設定されており、特に検査数が多い大学病院規模【Fig.1】ではシステムを用いた管理体制の構築が必要不可欠である。
当院では2019年より被ばく管理ワーキンググループが発足し、医療放射線安全管理責任者のもとで管理体制の構築を行ってきた。当初は他社ベンダーのシステムを用いた管理を行っていたが、2023年4月より「画像診断管理加算3」(現在は画像診断管理加算4)取得を開始とともに、新たな委員会体制となり、被ばく管理システムについては「Radimetrics」に更新導入を行った。当システムはベンダー間のデータ互換性が高く、各モダリティおよび放射線部門システム(Radiology Information System : RIS)から出力される、DICOM規格の線量レポート(Radiation Dose Structured Report : RDSR)、医療情報規格(Health Level Seven : HL7)との連携がスムーズであり、検査情報取得の欠落など大きな弊害がなく運用ができている。
当院での「Radimetrics」更新導入から1年が経過し、全モダリティを網羅した被ばく管理方法の基盤が整備されてきた。毎月開催される委員会では、当システムを用いて各モダリティについて医療被ばく線量の解析を行い、DRLs指標との比較や高線量外れ値の考察を行い、改善提案を行っている。今回、当院における各モダリティの被ばく管理方法を参考例として紹介させていただく。
対象装置 | 保有台数 | 実施件数 |
---|---|---|
全身用CT装置 | 12台 | 64,543 |
核医学(SPECT) | 3台 | 4,716 |
核医学(PET) | 3台 | 8,284 |
血管造影装置 | 5台 | 4,068 |
【Fig.1】当院保有モダリティと2023年度年間実施件数
診断用CT装置
新藤 翼
診療放射線技師
放射線管理士
山口 奈津美
診療放射線技師
X線CT認定技師
放射線管理士
当院診断CTの紹介・現状
現在当院はGEヘルスケア社製のRevolutionシリーズとキャノンメディカルシステムズ社製のAquilionシリーズ計5台のX線CT装置が稼働している。全ての装置においてRDSRの出力が可能であり、DICOM画像とRDSRを元に線量管理を行っている。線量管理を行う上で問題になったのが同じメーカーの装置でも、その装置間でのプロトコル名が微妙に異なることであった。
当院での使用例(グラフ表示、外れ値の検討)
各装置の撮影プロトコル名を洗い出したのちRadimetrics上でマスタープロトコルを作成し、この両者間のマッピング(紐付け)作業を行った。これにより全装置間での同一プロトコルにおける線量情報の比較が可能となった。マスタープロトコルで管理することにより、各撮影プロトコルにアラート設定を設けることができ、高線量となった検査を容易に抽出することができた。また散布図上で各プロトコルでの線量分布を確認することもでき、患者BMIに対しての線量においてその平均値から極端に離れている外れ値があればその要因(本来の撮影体位との乖離(ex. 通常手上げで撮影するプロトコルを手下げで撮影…)や、本来の撮影範囲との乖離(ex.胸部のプロトコルで胸腹骨盤を撮影、頭部のプロトコルで頭頸部を撮影…))を調査しその正当性を確認した【Fig.2】。
【Fig.2】胸部撮影における散布図を用いた外れ値の検討例
導入過程での苦労
先述したアラート設定で抽出された線量は、その撮影プロトコルのCTDIvol(または DLP)の平均値の○%以上(または以下)のみの設定としているため、必然的に体格が大きい患者は相対的にこのアラートに引っかかりやすくなる。また散布図においては表示したデータ集団に対して、患者毎のBMIを考慮した外れ値の設定を行っていないため、グラフ上において手作業で確認する必要がある。今後は患者体型を考慮した設定の追加を検討していきたい。
実際の検査において、急性肺血栓塞栓症&深部静脈血栓症のプロトコルでは通常、胸部の肺動脈相と下肢の静脈相を撮影する。DRLs2020の上記のプロトコルDRL値はCTDIvolの場合、造影第1相のみと定義されているため、1検査全体のスキャン情報の中から胸部の肺動脈相の線量情報のみを抽出する必要がある。マスタープロトコルのみでソートするとグラフ上に表示される線量情報が本来のものと乖離する(CTDIvolは各撮影全体の可算平均、DLPは各撮影の合計値として出力される)。それを防ぐために、シリーズ名(series description)でより詳細にフィルタリングする必要があり【Fig.3】、複数のプロトコルを使用した検査で一部の線量情報を抽出したい場合もこの作業が必要となる。各シリーズ名の名称は各装置によって異なっていたため、その洗い出しや入力には多少苦労した。
【Fig.3】肺動脈相を抽出するためのシリーズ名のフィルタリング画面
今後の展望
日々の線量管理に加えて、適切な撮影範囲の設定やプロトコルの選択の重要性を知るための教育的なツールとしてもRadimetricsは有用であるため、今後積極的に利用したい。
また当院は合計5台の診断CTで診療業務を行っているが、装置のメーカーや世代、バージョンによって逐次近似法やDeep learningを用いた手法等、再構成法に違いがある。今後は画質を担保しながら各装置ごとに線量の調節を行い、最適化に取り組んでいきたい。
治療計画用CT
安楽 敬介
診療放射線技師
放射線管理士
放射線治療計画用CTは、ターゲット腫瘍やリスク臓器をコンツーリング(輪郭抽出)するため高精度な画像が必要になる。また、画質と被ばく線量はトレードオフの関係にあり、CT画像取得における被ばく線量を管理することが私たち放射線技師には求められる。
当院の放射線治療部門では、外照射治療計画用CT装置としてAquilion/LB(Canon)、腔内照射計画用CT装置としてSOMATOM go.sim(SIEMENS)の2装置を使用している。Aquilion/LBでは治療内容に応じて頭部から下肢まで全身の撮影を行っており、SOMATOM go.sim では腔内照射において線源位置確認用として主に骨盤部の撮像を行っている。CT撮像において、位置決め画像から自動的にスキャン範囲の撮影線量の最適化が行われるが、Aquilion/LBでは画像のSD(標準偏差)値、SOMATOM go.simではCTDIvol(volume CT Dose Index)が指標として用いられる。装置間で異なる指標から撮影線量を決定しているため、同部位を撮影した際の撮像パラメーターの標準化が難しく課題となっていた。
Radimetrics導入直後、異なる2装置間で同骨盤範囲の被ばく線量を比較したところ乖離があることが分かった【Fig.4】。
Radimetricsで線量管理をすることで、それぞれ装置における検査の被ばく線量を可視化して捉えることが可能になり、装置間での画質を担保しつつ、線量の標準化を簡便に行うことができた。結果的にSOMATOM go.simにおいては撮影線量を大幅に低減することができた【Fig.5】。
【Fig.4】Radimetrics導入直後の装置別の線量(CTDIvol)グラフ
【Fig.5】Radimetrics導入1年後の装置別の線量(CTDIvol)グラフ
今後、画像誘導放射線治療(Image-guided radiotherapy : IGRT)におけるCone Beam CTも線量管理の対象となる可能性があり、将来的にはRadimetricsを使用して放射線治療領域について計画CTからIGRTにおける被ばくまで包括した線量管理を目指していきたいと考えている。
血管造影撮影装置
原 良介
副主任
診療放射線技師
放射線機器管理士
放射線管理士
内藤 優斗
診療放射線技師
放射線管理士
当院の管理・運用方法
血管撮影部門では、4つのメーカーの装置を使用しており、各装置からPACS へ送信された RDSR を Radimetrics で抽出することで透視時間、患者照射基準点線量、DSA、DA、CBCT などの線量情報を区別して記録することが出来る。また、管球角度などの情報も記録可能で、被ばく線量を検討する際に活用している【Fig.6】。
【Fig.6】プロトコル毎基準点線量グラフ
現状当院で使用している装置から作成されるRDSR には手技名の情報がなく、自動で手技を分類することができない。
しかしRadimetrics には、手技ごとにユーザーが任意の名称を設定できる「タグ付け機能」があり、当院では手技翌日に手動でタグ付けし、手技を分類している。
また、この機能により任意の手技を1グループとして、線量管理することも可能となる。
当院ではDRLsに沿った分類や、診療科や手技の対象部位ごとに分類し活用している。また、タグ付けしたデータはタグの名称ごとに管理が可能で、任意の軸を設定したグラフを作成することや、様々なデータの抽出ができ、BMIと被ばく線量の相関グラフの作成や、手技ごとに被ばく線量の中央値を調査することもでき、被ばく線量の妥当性や高線量被ばくの要因を検討する上で有用と考える【Fig.7】。
【Fig.7】検査名やDRLs(手技名)を基にしたタグリスト
今後の運用
Radimetricsで収集した様々なデータを用いて各プロトコルの定期的な見直しや線量の適正化、手技を行う患者に対する事前説明としての活用や、患者の体型や性別を含めた患者情報・X線の出力情報・管球角度・寝台位置情報などから算出される皮膚線量マップ【Fig.8】を使用した高線量被ばく患者に対する手技後の説明に活用できればと考えている。
【Fig.8】入射皮膚線量マップ表示例
核医学装置
益田 翔太
診療放射線技師
X線CT認定技師
放射線管理士
藤田 新志
診療放射線技師
当院核医学検査室では、1台のSPECT装置、2台のSPECT/CT装置、3台のPET/CT装置の計6台体制となっている。全装置RRDSRの出力が可能であること、RISとのHL7連携接続を行っており、両者を用いて実投与量およびCT撮影線量の情報をRadimetricsへ表示している現状である。
まず、SPECT検査においては現状当院では薬剤名ではなく、使用装置プロトコル名を使用した検査情報の仕分けを行っている(使用薬剤と検査プロトコルは1対1)【Fig.9】。
【Fig.9】SPECT検査プロトコル別投与量一覧リスト
この運用により,ACCT撮像を行う検査についても、詳細画面上にて検査単位で表示でき、CTの被ばく線量情報も1検査としてまとめて表示している。また、核医学領域ではHL7連携が重要と考えており、連携可能となったことは大きなメリットであることを体感した。SPECT検査における投与量であるが、当院で使用しているRISでは検定日時と患者への投与日時を考慮した実投与量を算出可能である。この実投与量をHL7連携にてRadimetricsへ表示し、診断参考レベルDRLsとの比較等を行っている。HL7とRRDSRを併用することで、核医学の被ばく管理の懸念点を解消できつつあると感じている。この運用における利点となった事例の紹介となるが、実投与量に関する医師と診療放射線技師のコミュニケーションを再確認できた事例である。医師側では放射能量の調整(分注投与)を行っていたが、コミュニケーションが上手くできておらず、放射線技師が行うRIS上の実投与量記録に誤りがあった。これは、Radimetrics上の検査管理記録とRISの検査実施情報を相互確認することで、放射線安全管理に寄与できた事例となった。
続いて、PET検査においても使用装置プロトコル名毎にRadimetrics上にて管理を行っており、通常のFDG検査だけでなくアミロイドPET検査についても対応している【Fig.10】。
【Fig.10】PET検査プロトコル別投与量一覧リスト
現状の管理項目としては、投与量、患者の体格(体重で投与量を計算しているため、体重は重要な管理項目と考える)、ACCTの線量情報(CTDIvolおよびDLP)がある。当院では検査前の問診時に、体重測定を行っており、その体重により投与量を決定しているため、PET検査装置に登録する体重と投与量をRadimetricsにて定期的にチェックすることで、SUVの誤算出を確認および防止する運用とした。また、当院のPET検査では今後患者への被ばくに関する説明に実効線量(mSv)を用いる予定であり、Radi-metricsへPETデータとACCTデータを取り込んでおくことで、簡便に検査単位および患者単位での実効線量を参照可能であることもRadimetricsを使用する利点と考える。