Japan DRLs2020におけるRadimetricsを利用した核医学部門の線量管理のポイント

Toyohashi Municipal Hospital

豊橋市民病院

〒441-8570
愛知県豊橋市青竹町字八間西50番地
TEL 0532-33-6111(代表)

市川 肇

豊橋市民病院 放射線技術室
室長補佐
市川 肇

診療放射線技師
博士
核医学専門技師
核医学専門技術者

当院の線量管理システム導入の背景とシステム運用の変遷

 2016年に低被ばく施設認定の取得を終え、2018年1月の病院情報システム全面更新の直前に、急遽、Radimetricsの導入に踏み切った。核医学診断装置はPET/CT装置、SPECT/CT装置、ガンマカメラ装置がそれぞれ1台ずつ稼働しており、いずれのCTからもRDSRの出力が可能な装置であるが、RRDSRへは全て未対応であった。放射線情報システム(RIS)での放射性医薬品使用記録簿の保存および管理を想定してRISの仕様が確定していたため、核医学領域におけるRadimetricsの立ち位置はCTの線量記録および管理を主な担務として、放射性医薬品の投与に関する記録および管理は想定外であった。Radimetrics導入の予算は限定的であったものの、PACSサーバへの接続に加えてPET/CT装置とSPECT/CT装置をRadimetricsへ接続した【Fig.1】
 2022年2月のガンマカメラ装置の更新および同年5月のSPECT/CT装置のソフトウェア・バージョンアップに伴い、SPECT製剤に対してRRDSRの出力が可能になった。時を同じくして「日本放射線技術学会 放射線防護委員会 核医学領域における線量管理に関する検討班」(以下、検討班)において核医学検査に対応した共通 study description (0008,1030)マスタの作成が完了したため、当院において試験運用を行なった。それに伴い、Radimetricsでの線量情報の保存はRDSR、RRDSR、DICOM tagによる運用が本格的に開始され、Radimetricsによる線量管理の試験運用を行なった。さらに2023年2月よりPET/CT装置のソフトウェア・バージョンアップにより全ての核医学診断装置がRRDSRの出力に対応した。
 Radimetrics導入前はRRDSRによる運用に期待したが、核医学診断装置において線量情報(投与した核種,放射性医薬品の名称、量、投与日時)は受け取る側であり、操作者が入力しない限りは装置自身が知りうる術がない。周知の事実であるが、実際にDICOM規格を利用して運用を開始するとCT等のX線診断装置との運用のギャップを痛感している。本稿ではRadimetricsを用した核医学部門での線量記録および管理の利点について述べる。

【 Fig.1 】

【Fig.1】核医学部門におけるネットワーク図
核医学診断装置から検査終了時にRadimetricsへRDSR・RRDSR・プライマリDICOM画像の転送を行い、トラブル等に備えて夜間にメインのPACSサーバからDICOM画像のQ/Rを行なっている。
破線は2022年2月のガンマカメラ更新時にRRDSR送信のために接続の追加を行った。
PET/CT画像は定量画像WSで出力したセカンダリ・キャプチャのみをメインPACSへ送信しているため、結果的にRadimetricsへの直接接続が功を奏した。
加えて、メインPACSはRDSRのSOP classに対応したが、検像システムやすべてのPACSはRRDSRには対応していないため、ここでもRadimetricsへの直接接続が活躍している。
また、直接接続によって線量情報の送信忘れや修正の際にダミー画像のPACSへの送信を免れることができる。

Radimetricsを用いて線量管理を始めるために

Study descriptionの整備

 核医学診断装置の仕様に依存するが、Radimetrics導入当時の当院のSPECT/CTおよびガンマカメラは収集プロトコルにデフォルトの薬剤名称および投与量が保存可能であったため、収集プロトコル毎に頻度の高い薬剤名称と検定放射能量を初期値として利用しており、慣習的に修正することはほとんどなかった。ガンマカメラ装置の更新およびSPECT/CT装置のソフトウェア・バージョンアップに伴い、2台の装置がRRDSRの出力に対応したことによってDICOM tagに正確な線量情報を保存する意識が高まった。とはいえ、8名の核医学担当技師がローテーションで担務するなか、正確に線量情報を入力することは想像以上に難題であった。その理由の1つとして、当院での実投与量の記録はRISによって検定放射能量と投与時刻から減衰計算によって自動的に推定できるため、RISでの運用は最も簡便かつ妥当な線量情報の記録手段であることが考えられる。
 DICOM規格を利用してRadimetricsへ正確な線量情報を記録するための準備として、装置のstudy descriptionをTable 1に例示する検討班が作成したstudy descriptionに変更した。DRLs2020に対応した分類は、装置メーカのデフォルトのstudy descriptionとradiopharmaceutical (0018,0031)を組み合わせても「安静のみ」、「負荷のみ」、「安静+負荷」の区別ができないことが分かる。一方、検討班で作成したstudy descriptionでは検査部位と放射性医薬品が判断可能である(このマスタは一部の装置の文字制限を考慮して15byte以内に納めている)。ただし、99mTc心筋血流SPECTの安静・負荷1日法などの放射性医薬品を分割投与する検査の際には、それぞれの放射能量を撮像時にDICOM tagへ入力する必要がある。また、ICRP Publication128において99mTc心筋血流製剤の体内分布は安静時と負荷時で区別して定義されているため、”sestamibi(rest)”、”sestamibi(sterss)”など峻別して入力することでより正確な被ばく線量の推定が可能になる【Fig.2】

Table1 Study descriptionの例

Table1 Study descriptionの例
【 Fig.2 】臓器線量のグラフ
【 Fig.2 】臓器線量のグラフ

【Fig.2】臓器線量のグラフ
上段は99mTc-sestamibi(stress)370MBq、下段は99mTc-sestamibi(rest)370MBqを投与した例。
同じ薬剤でも体内分布が異なり、臓器線量が異なる。

 PET検査は全ての検査目的において定量画像を出力することから、線量情報の保存に必要な項目はDICOM tagに必ず記録するため大きな問題は生じないと思われる。ただし、サードパーティ製のワークステーション等でセカンダリ・キャプチャを出力する際には必要な付帯情報が欠落するため注意を要する。当院でのPET/CT検査は18F-FDGのデリバリー製剤のみでの運用で、検査目的は悪性腫瘍,検診(1.5%)、心サルコイドーシス(0.4%)、大型血管炎(0.4%)である。装置の仕様上、study descriptionが撮像プロトコル名に上書き保存されるため、study description名で管理を行う場合、撮像プロトコル数は撮像プロトコルの種類(呼吸同期の有無、step収集か連続寝台移動、早期相と後期相、撮像範囲などの組み合わせ)とDRLsの区分との乗算分必要となる。当院では悪性腫瘍の診断目的以外の検査数が極めて少ないため、RISでの検索によって区分を手作業で管理することが現実的な方法と判断した。今後、他の検査が増加するようであれば、撮像プロトコル名の整備が必要である。

核医学診断装置への入力

 SPECT検査では撮像プロトコルに対して使用する放射性医薬品の多くは1種類であるが、骨シンチや心筋血流シンチなどでは複数の放射性医薬品を使用することがあり、収集プロトコルに特定の放射性医薬品名を初期値として保存している場合には注意を要する。DICOM規格を利用した線量記録を行うためには、核種、放射性医薬品名、投与量が最低限必要である。当院では誤入力を防止するため、前述の3項目に加えて投与開始時刻を最初の撮像時(ダイナミック収集や定量SPECTを撮像する場合を除く)のみに入力している。PETや骨シンチなどの定量SPECTは投与前後のシリンジの放射能量、投与開始時刻を入力するため、極めて正確な記録が可能である。また、多くの検査は投与後、一定のuptake timeを取って撮像を開始するため,投与時の放射能量を測定もしくは検定量から減衰計算して入力できる。ダイナミック収集が必要な脳血流シンチや腎レノグラムなどは検査手技が煩雑なため、入力漏れが多い検査である。入力漏れが発生した場合、線量情報を入力したダミーの撮像を行い、Radimetricsのみへ転送することで診断に不要な画像をPACSへ送信することを免れている。

Radimetricsの活用例

 Radimetricsは表やグラフのテンプレート、データの出力形式が豊富であるため、あらゆる視点から膨大なデータを俯瞰できる。例えば、DRLsに準じた検査ごとの投与量は瞬時に一覧できる【Fig.3】。また、ある年の骨シンチ(全例SPECT/CTを実施)の総実効線量を【Fig.4】に示す。MDPおよびHMDPでほとんど同じ傾向であるが、実包装放射能量がMDPの方がわずかに多いため、総実効線量がやや高い傾向であることが分かる。

【 Fig.3 】投与量一覧

【Fig.3】投与量一覧
Study descriptionをkeyにリストアップした例。
任意の期間で作成可能であるため、年度毎の管理や日常の整合性の確認にも利用できる。

【 Fig.4 】

【Fig.4】
RadimetricsからデータをExcel形式で出力して作図した例。

 【Fig.5】に体重50-70kgの患者の18F-FDGの投与量の推移を示す。X+1年度をピークに漸減しており、DRLs2020の値よりもわずかに高いことが分かる。一方、【Fig.6】に示すX+4年度の個別の投与量を確認すると、多くの投与イベントは実線が示す4MBq/kgよりも高く、想定以上に破線を超えるイベントが多いことが判明し、運用を見直す契機となった事例である。投与量が多い原因は111、148、185MBqの3種類の包装単位から体重あたり3.7MBqの投与量を確保できる薬剤を適宜選択して発注しているため、境界となる体重の患者は規定量よりも投与量が多くなりやすい。また、薬剤発注時に電子カルテに体重が記録されていない患者は185MBqを発注せざるを得ないことなどが原因と考えられる。改善策として予約時に体重を確認してRISのコメント機能を活用して記録するなどが検討された。

【 Fig.5】

【Fig.5】標準体重患者における投与量の推移
X+1年をピークに漸減しているものの、DRLs2020で設定されている240MBqに対して僅かに多い。

【 Fig.6】

【Fig.6】X+4年度の体重と投与量の関係
デリバリー製剤での運用のため、210、270、310MBq付近にデータが集中している。実線は4MBq/kg、破線は実線の±20%の値を示す。大きく外れた値は薬剤発注時に体重が不明なため、適切な検定量の薬剤が選択できなかった症例。当院では3.7MBq/kgを担保できる包装単位を発注する運用のため、4-4.8MBq/kgの範囲にデータが集中している。Fig.5の標準体型の平均値では認識できなかった外れ値(破線をオーバーしているデータ)が容易に認識できる。この結果から運用の見直しを検討した。

Radimetricsの利点

 前述のとおり、核医学領域における線量記録に関して煩雑さはあるものの、Radimetricsによる線量記録の最大の恩恵は、単に投与放射能量の記録にとどまらず、放射性医薬品による内部被ばく線量とCTによる外部被ばく線量を統合的に管理し、全身被ばくから臓器線量に至る詳細なデータを患者説明に利用できる点である【Fig.7】

a

【Fig.7】

b

【Fig.7】

c

【Fig.7】

【Fig.7】骨シンチ(SPECT/CT)の臓器線量
総実効線量(a)、放射性医薬品による臓器線量(b)、CTによる臓器線量(c)。

 また、RadimetricsはRRDSRやDICOM tag情報に対応しており、線量記録のために繰り返して入力する労力を要しないこともアドバンテージを感じる点である。現在、当院では全ての核医学診断装置でRRDSRの出力に対応しているが、RRDSR未対応の核医学診断装置であってもDICOM tagに放射性医薬品名、実投与量が付帯されていれば遜色なく(可能であれば投与開始時刻も)運用が可能であることをPET装置のソフトウェア・バージョンアップを通じて検証した。ただし、線量記録データの整合性の検証は日常的に必要であることを痛感している。核医学検査では1回の投与に対して通常複数回撮像するため、撮像毎に異なる薬剤名、投与量、投与時刻(MDPとHMDP、実投与放射能量と検定放射能量、小数点以下の四捨五入や切り捨て、日またぎ検査の投与日時なども含む)を入力してしまった場合、複数の投与イベントとして合計値が誤って記録される。その対策にはアラート設定を活用できる【Fig.8】。また、Radimetricsの新たなバージョンにおいては、study description毎に想定される薬剤投与回数を設定することで、重複計算を避けられる機能が追加されたため、今後、本機能の活用を検討したい。

【Fig.8】

【Fig.8】管理者用線量アラート機能
誤った情報などによって規定値よりも多い放射能量が記録された場合、アラートが出現する。上限値に加えて下限値の設定や特定のメールアドレスへのメール送信も設定可能。

核医学領域での課題

 現状の核医学診断装置の多くは”Radiopharmaceutical Start Time(0018,1072)”tagへの入力が不可能であり、RRDSRの出力に対応していない。また、投与量や被ばく線量を適正化したとしても撮像条件や再構成条件の最適化は各施設に委ねられており、診断に適切な画質が伴うとは限らない。
 RadimetricsはICRP publication128に登録されていない薬剤(123I-IMPなど)は被ばく線量の推定に対応していない。しかし、線量管理システムの将来的な拡張、バージョンアップやシステム導入、リプレイスに備えて正確なDICOM tag情報の入力やstudy descriptionの整備が求められる。また、2核種同時収集の運用や入力忘れ、間違い等は一定の確率で発生するため、事後登録用の撮像プロトコルを作成して線量記録データを修正するなどの運用管理規定の整備も併せて必要である。

まとめ

 RISを利用した平均値や中央値での線量管理では見えなかった全体像や個別の外れ値などがRadimetricsの活用によって直感的かつ容易に把握することが可能になった。Radimetricsの活用によって得られた知見から撮像技術の改善や職場の活性化につながることを期待する。