Total Dose Managementの実践!

−造影MRI検査も含めた造影検査情報と線量の一元管理−

Total Dose Managementとは

鹿児島市立病院

隈 浩司氏ご講演時画像

2021年8月3日(火)開催のバイエル画像診断WEBカンファレンスでは、鹿児島市立病院、放射線技術科で技師長を勤めておられる隈 浩司氏を招き、リモートにてご講演いただいた。

鹿児島市立病院は、CTやMRI検査に関する造影検査情報及び線量情報を一元的に管理できるRadimetricsシステムを活用し、検査実施情報を可視化することで、検査の精度および安全性の向上を図っている。本WEBカンファレンスでは特に造影CTおよび造影MRI検査におけるデータ管理を中心として、隈氏が進めておられる先進的な取り組みについてご紹介いただいた。

Total Dose Managementとは

 はじめに、バイエル社が提案するTotal Dose Managementのコンセプトについてご紹介いただいた。Total Dose Managementとは、医療放射線情報だけでなく、造影検査に関する情報も合わせて一元的に管理することで、造影検査の精度管理や造影条件の最適化に役立てようという考え方のことである。(図1)鹿児島市立病院ではRadimetricsを導入し、このコンセプトの達成を目指しているとのこと。放射線技術科が保有している検査機器全31台のうち、CTや血管造影、核医学検査用の装置を含む19台がPACSを経由してRadimetricsに接続されており、これらの装置から取得した医療放射線情報が一元的に管理されている。さらに、このような装置に加えて、インジェクタから送られてくる造影検査情報もRadimetrics上で管理しており、造影検査の安全性や業務フローの改善、さらには診断の向上に活用できないか検討を進めている。

Total Dose Managementとは

図1 : Total Dose Managementのコンセプト

 Radimetricsでは、図2に示すようなデータフローで造影検査に関する情報が管理・活用される。まず撮影前に、CTやMRI装置と同様に、インジェクタはDICOM MWMを用いてRIS(放射線情報システム)から患者情報や検査情報を取得する。撮影終了後、インジェクタから造影検査情報がRadimetricsに転送される。Radimetricsで造影検査情報を取得することにより、今までマニュアルで行っていた造影検査の記録管理業務が自動化され、業務フローの改善が期待できる。さらにRadimetricsで造影結果のレポート画像を作成し、PACSへと転送することも可能である。こうすることで、読影時にCT、MRI画像と同時に造影検査情報を参照することができ、更なる読影品質の向上が期待できる。線量情報に関しては、PACSに保存されているDICOM画像やRDSR(Radiation Dose Structured Report)をRadimetricsが取得することで、線量の記録管理も同時に行うことができる。

図2 : Total Dose Managementのデータフロー

図2 : Total Dose Managementのデータフロー

Radimetricsを活用した新しい試み

 次に、Radimetricsを利用して収集・管理している造影検査情報を、実際に鹿児島市立病院がどのように活用しているのか、具体的な事例とともにご紹介いただいた。

Gd造影剤の注入情報・撮像プロトコルの管理

 Radimetrics上では、MRI検査において使用するGd造影剤の注入情報を管理することができる。鹿児島市立病院では、造影剤の製品名、投与量、注入速度のほか、穿刺部位や使用した注射針のゲージサイズに関するデータも管理対象としている。投与量に関しては、Radimetricsを使用すると検査部位ごとにグラフを表示させることができるため、適切な量が投与されているか簡単に確認できる。穿刺部位に関してもデータを蓄積しはじめたところであり、患者ごとに適切な穿刺部位を把握できないか、今後評価を進めていく予定とのことであった。(図3

 また、Radimetricsには、検査ごとの撮像プロトコルを記録しておくことができる。実施した検査のシーケンスやパラメータを一覧にして表示できるため、次回以降の検査においてプロトコルを選択する際に有用である。

図3 : MRIの造影検査情報の管理

図3 : MRIの造影検査情報の管理

造影剤注入圧の経時的なモニタリング

 Radimetricsには、造影剤および生食の注入レートや注入圧が記録されるため、プロトコル通り問題なく注入が行われたことを確認できるほか、プロトコルからの逸脱や血管外漏出が起きた場合には、そのときの状況を検証することができる。また、これらのデータを一覧にして表示させたり、図4のように注入状況をグラフとして可視化したりすることも可能であり、精度管理を行う際にこれらの情報を役立てることができる。

図4 : MRI用Gd造影剤の経時的なモニタリング

図4 : MRI用Gd造影剤の経時的なモニタリング

 ここで隈氏より、実際に精度管理上重要な情報を抽出できたケースをご紹介いただいた。図5は、鹿児島市立病院で実施した頭部CT Perfusion撮影における、造影剤投与量と患者体重の関係を示したグラフである。鹿児島市立病院の頭部CT Perfusion撮影は、注入速度4ml/sec、使用量40mlという条件で撮影されており、グラフからもほとんどの場合でこの条件から逸脱することなく注入が行われていることが読み取れる。しかし、なかには図5の矢印で示した症例のように、造影剤が60ml使用されているケースがあった。Radimetrics上においてこの点をクリックすると、検査に関する詳細な情報を見ることができる。調べてみると、この症例では救急CTが行われており、はじめCT Perfusionのプロトコルで撮影を行おうとしたが、脳出血が見つかったために急遽頭部CTA(CT Angiography)へとプロトコルが切り替えられていた。同症例の造影剤注入状況(図6)を見ると、造影剤の注入速度が5ml/secから途中で4ml/secに低下しており、造影剤の注入に一部問題があったことも読み取れる。このように、Radimetricsを使って検査の情報を包括的に管理するとともに、グラフを使って可視化することで、精度管理上重要な情報を抽出することができる。

図5 : CT Perfusionの際の患者ごとの造影剤量の可視化の例

図5 : CT Perfusionの際の患者ごとの造影剤量の可視化の例

図6 : CT Perfusionから頭部CTAに変更した例

図6 : CT Perfusionから頭部CTAに変更した例

緊急停止された造影検査の振り返り

 医療安全の観点からは、造影剤投与を緊急停止した検査を振り返ることは重要といえる。Radimetricsでは、緊急停止の発生状況を穿刺部位別、注射針のゲージサイズ別に、図7のようなグラフとして表示させることができるほか、実施プロトコル別に緊急停止情報をまとめることもできる。鹿児島市立病院の場合、穿刺部位については正中静脈や手背静脈、注射針のサイズについては20~22ゲージを使用したときに緊急停止された件数が多かった。また、CTのプロトコル別に集計した結果、Perfusion検査や上腹部~下肢動脈の検査で緊急停止される頻度が高い傾向にあることがわかった。このような情報は、施設において血管外漏出のリスクを減らし、検査精度を向上させる上で有用である。

図7 : 造影剤使用時の緊急停止状況

図7 : 造影剤使用時の緊急停止状況

造影剤累積投与量の可視化

 画像検査を繰り返し受ける患者では、CT検査の被ばく線量を管理するとともに、Gd造影剤の累積投与量についても管理しなければならない。Gd造影剤の使用には、腎性全身性線維症(NSF)や、脳へのGd残存といったリスクが伴うことが懸念されており、特に脳への影響に関しては、厚生労働省が検査の必要性を慎重に判断するよう呼びかけている*ほか、ESUR(European Society of Urogenital Radiology)のガイドラインではすべての患者について以下のような項目が推奨されている。

  • 臨床的に適応があるにも関わらず造影MRI検査の実施を拒否することがあってはならない。
  • すべての患者に対して診断を下すのに必要な最低用量の造影剤を使用する。
  • 造影剤名と投与量は必ず診療録に記録すること。


*薬生安発1128第1号 2017年11月

 隈氏は、このうち造影剤名と投与量の管理をRadimetrics上で行うことにしたと述べられた。結果として、累積線量に加えてCTとMRIで使用した造影剤の累積投与量のグラフが、Radimetrics上で表示出来るようになった。また、被ばくや検査に関する説明を患者から求められた時にもRadimetricsのグラフを用いて説明できるようになった。

検査機器の稼働状況の可視化

 Radimetricsには、各検査機器の稼働状況と検査内容を表示できる機能も搭載されている。図8は、鹿児島市立病院で実際に使用しているCTおよびMRI(各3台)の稼働状況を表示させたものである。各装置の状況をわかりやすく可視化できるため、検査枠の適正化、人員配置の最適化(増員も含む)を検討する際に有用な機能といえる。

図8 : 装置ごとの1日の稼働状況

図8 : 装置ごとの1日の稼働状況

今後の課題

 現状、鹿児島市立病院では、用手注入した造影検査の情報に関してはシステムへの入力をマニュアルで行っている。しかし今後は、すべての造影検査に自動注入器を使用することで、検査記録の管理をRadimetrics上で一括して行えるようにしたいと考えているとのこと。Radimetricsに接続可能なMRI用インジェクタとして、鹿児島市立病院ではバイエル社製のMRXperion(図9)を使用しており、この機器の特長として以下の点をご説明いただいた。

  • 搭載されているオート機能を利用することで、医療関係者が1人でも効率よく準備を行うことができる。
  • ヘッドの傾きセンサーにより、エア注入のリスクを低減できる。
  • ヘッド上にKVO(点滴機能)および生食のテスト注入ボタンがあるため、静脈確保の確認をMRI室内で行うことができる。
図9 : MRI用インジェクタ(MRXperion)

図9 : MRI用インジェクタ(MRXperion)

 最後に、どのようなワークフローで実際の検査業務を進めているのか、そして今後どのようにワークフローをアップデートする予定か、お話しいただいた。現状では、①放射線技師や看護師による問診(金属チェック)、②看護師による血管確保、③放射線科医師または自動注入器による造影剤注入、という流れで、MRI検査を実施している。今後は、検査サポーターを雇用して①の業務を任せられないか検討しているという。また、2021年10月には技師法が改正され、放射線科技師も静脈確保をできるようになるため、②の業務を看護師から放射線技師へとシフトさせることも考えているそうである。さらに、MRIでは現状、③の作業を放射線科医師が行っているが、看護師とともにチェックすることで、自動注入に移行できないか検討中とのことであった。

検査情報管理をさらに効率的にするために

 講演終了後、隈氏には参加者からの質問にお答えいただいた。

 参加者の1人から、Radimetricsとインジェクタとの接続性に関する疑問が挙げられた。隈氏からは、用手注入や他社のインジェクタを使用した場合は、造影検査情報の自動転送ができず、手入力となってしまうことを説明いただいた。Radimetricsと連携できるインジェクタは、現在のところバイエル社のMRXperion(MRI用インジェクタ)およびStellant(CT用インジェクター)だけである。鹿児島市立病院では、今後インジェクタ購入の際に、Radimetricsと連携できることをインジェクタの機種選定条件の1つとして考えていかれるそうである。

 MRI検査情報をRadimetricsで管理するメリットを尋ねた質問に対しては、造影剤の投与量を管理できることを最初に挙げられた。また、造影剤による副作用が起きたときの細かい状況などもコメントとして記録することができ、一元的に管理できる点も優れていると述べられた。鹿児島市立病院では、将来的には電子カルテと連携することで、検査の安全性向上につなげていこうと考えているとのこと。さらに、Radimetricsを使用することで、一日の検査の稼働時間の把握や、プロトコルの組み合わせに関する評価ができるようになったため、業務の効率化につなげていきたいと締めくくられた。

 今回の講演では、隈氏よりRadimetricsの具体的な活用例を数多くお示しいただき、参加者にとっては大いに学びのある内容だったのではないかと考えられる。実際に質疑応答でも、システムの実用性に関する質問が多く飛び交っていた。検査情報管理を効率化したいというニーズを持った参加者に、役立つ情報を提供できたWEBカンファレンスであった。