マルチペーシェント用CTインジェクションシステム
Centargoの導入によって日常の診療で変わったこと
岡山大学病院
〒700-8558 岡山市北区鹿田町2-5-1
TEL 086-223-7151
医科系診療科 38科を有する1870(明治3)年の岡山藩医学館大病院が開設して以来、150年を超える長い歴史と伝統を受け継いできた大学病院。
CT検査は診断用CT 5台(内、1台は救急CT)、IVR CT 2台、SPECT-CT 2台、治療用CT 2台となり、患者様に最先端の医療を届けている。
はじめに
2023年10月にCentargo(マルチペーシェント用CTインジェクションシステム)を導入した岡山大学病院の初期使用経験を紹介する。
現在、Centargoは、主にAquilion Serve SP 80列(キヤノンメディカル社製)で、一般な造影検査に使用されている。しかしフォトンカウンティングCTとCentargoの組合せによる有用性を検証するという目的で、隣室のNAEOTOM Alpha(シーメンス社製)で使用される場合もある。
赤木憲明先生(副診療放射線技師長)は、「1日、20件ほどCentargoを使用している。統計を取ってみると使い方に慣れることで徐々に使用件数が増えているので、今後も、増加するのではないか」と話す。
診療放射線技師、看護師の視点からみたメリット
1. 生食による後押し
赤木先生は、看護師さんの視点として「これまでは、その日の生食による後押し検査数を確認し、前もって必要数の空シリンジに生食を充填するという看護師さんには面倒な業務があった。しかし、Centargoでは常に200mLの生食がデイセットに充填されているため、その必要がない。さらに予定外の追加分をCentargoの部屋に振り分ければ、新たに生食を充填する手間を省くことができる」と言う。また、「看護師さんは、これまでは造影剤の種類を確認し、生食を充填したシリンジと合わせてCT室へ持って行く必要があったが、Centargoの場合は生食バックをCentargoに掛けるだけになり、看護師さんの負担が軽減している」と話す。
森光祐介先生(主任診療放射線技師)は、診療放射線技師の視点から「手軽に生食を使用できるためアーチファクトを抑える目的などで、これまで以上に生食の後押しを選択しやすくなった。事前に生食の後押しは必要ないと判断していた症例も、画像をより良くするために必要と判断した際は、生食の後押しを追加したプロコトルに変更している。さらに緊急検査で、どうしても生食の後押しを実施したいという場面でも、これまでは、シリンジに生食を充填する時間も掛かっていたが、Centargoはプロトコルをセットするだけなので、利便性を感じている」と話す。
赤木先生も、「大学病院では特殊な検査も多いし、ルート確保の位置が、どちらかの腕に限られる患者さんもおられる。この場合、検査の目的を達成するために生食の後押しによって造影剤を洗い流し、目的とする撮影部位をきちんと抽出するようにしているが、これまでは、1回の検査で使用できる生食の量に制限があるため残量を考えながらの検査となっていた。しかし、Centargoでは、生食の量を気にせず最適なプロトコルをシミュレーションしながら検査できるので、魅力的であり、大きなメリットだ」と言う。
2. 同時注入機能
赤木先生は、造影剤濃度や投与量を自由自在に変えられることについて、「低体重の患者さんにシリンジ製剤を使う場合は、造影剤の投与量が少ないので注入レートが落ちて目的とする造影効果が得られないという課題がある。その為、ボリュームを担保し、造影効果を高めたまま造影検査ができるCentargoの同時注入機能はメリットだ」と話す。その同時注入を実施した画像の印象について「従来のインジェクタでは同時注入をすると、チューブ内で生食が造影剤の上を滑るような現象がみられることから、投与中の造影剤濃度を均一に保つために、デュアルの専用チューブを使用していた。しかし、Centargoの場合は、シングルの専用チューブしかないため、混和の状態を確認するため透視を使って検証した結果、造影剤と生食が、低速から高速まで適切に混和されていることが確認できた」という(図1)。
a
b
c
図1 透視を使った試験の様子
同時注入機能を用いて300mgI造影剤を下記条件で混合注入した画像
- a 造影剤:240mgI/mL〔注入量 50mL/注入速度3.0mL/sec〕 混注条件〔造影剤(300mgI/mL)40mLと生食10mLを同時注入〕 後押し生食:10mL/3.0mL/sec
- b 造影剤:150mgI/mL〔注入量 16mL/注入速度0.6mL/sec〕 混注条件〔造影剤(300mgI/mL)8mLと生食8mLを同時注入〕後押し生食:10mL/0.6mL/sec
- c 造影剤:150mgI/mL〔注入量 16mL/注入速度0.8mL/sec〕 混注条件〔造影剤(300mgI/mL)8mLと生食8mLを同時注入〕後押し生食:10mL/0.8mL/sec
3. エアーチェック機能
CentargoにはCTインジェクタで初となるエアーチェック機能が二重に装備されている。赤木先生はエアーチェックについて、「看護師さんも、きっちり目視で確認してくれるので、Centargoのエアーチェック機能と合わせてのダブルチェックは安心感がある」と話す。森光先生は、「検査の流れ(ワークフロー)が良くなっている。例えば、エア抜きの際にシリンジやチューブに残っているエアを指ではじきながら抜く作業が省けるので、看護師さんの仕事が早くなっています。たまに準備が早すぎて、プロトコルの設定が追いつかない時もある」と言う。
病院経営の視点からみたメリット
シリンジ製剤よりも低薬価のバイアル製剤を使用するので造影剤の購入費用が抑えられ、使用頻度が上がれば消耗品のランニングコストも低減できる。さらに廃棄コストについて赤木先生は、「シリンジ製剤の場合は、造影剤が残ったシリンジと共にチューブ、針をそのまま白箱(感染性廃棄物)へ廃棄するが、Centargoの場合は残液を処理した後のバイアルを、一般ゴミとして廃棄できるため廃棄コストが軽減する。実際、白箱には主にスパイク針とチューブ、針を廃棄するだけなので、白箱を交換する頻度が格段に減っている」と話す。
フォトンカウンティングCTとCentargoの組合せについて
森光先生は、「NAEOTOM Alphaは低エネルギー感度が良いと言われているので、高濃度造影剤を同時注入機能で様々なプロトコルに対応させることができるCentargoは、コストパフォーマンスも含めて相性がいいと思う」と話す。赤木先生は「心臓CTでは、 鎖骨下静脈や上大静脈に高濃度の造影剤が残ってしまうとアーチファクトにより、診断に支障をきたすことがある。 そこで生食の後押し方法も含めた低濃度造影剤の適切な投与方法について、今後、様々なプロトコルを放射線科の医師と相談しながら検討したい」と将来展望を話す(図2)。
図2 CentargoとNAEOTOM Alpha
造影剤投与情報の管理(Radimetricsとの連携)
森光先生は、「Centargoは使いやすいインターフェースで、患者毎に注入条件や注入部位、注射針のサイズを記録することができる。これらの投与データを蓄積し、データを連携しているラジメトリクスで詳しく統計解析することで、今後の画質の向上や標準化を進めていきたい」と話す(図3)。
マルチペーシェント用CTインジェクションシステムCentargoの初期使用経験について、具体的な利便性やワークフローの改善について情報を得ることができた。
図3 Radimetricsのダッシュボードに表示された、Centargoの造影剤投与履歴データ
赤木憲明 先生
岡山大学病院
医療技術部放射線部門
副診療放射線技師長
森光祐介 先生
岡山大学病院
医療技術部放射線部門
主任診療放射線技師