ワークフローの改善に貢献する
MRインジェクションシステム MRXperion
淡海医療センター
病床数:420床(ICU8床、HCU8床、急性期346床、回復期58床)/放射線部門の機器:MRI 3T/1.5Tx2台、CT64列2台、PET-CT1台、RIリニアック、血管造影装置x3台、手術室Cアーム、一般撮影4室、乳房撮影装置、骨密度測定装置、歯科パノラマX線撮影装置/放射線診断医:4名/放射線治療医:1名/診療放射線技師:34名(医療センター28名、ふれあい病院1名、健診センター5名)/看護師:6名
はじめに
滋賀県南部の湖南地域にある淡海医療センターは、地域中核病院、災害拠点病院、救急指定病院(二次救急医療機関)として休日や祝日も含め365日24時間、救急患者の治療を行っているのみならず、グループ施設の健診センター、介護施設等ならびに地域の診療所や病院と緊密な連携を行い、急性期から回復期、介護療養までを住民の方の要望に応えられる「地域完結型医療」としての役割を担っている。
実際、MRI検査の待ち時間解消のため、2019年に3台目となるMRIスキャナを導入し、今では近隣開業医からの紹介患者も含めて、外来の当日依頼検査も原則、断ることなく対応している。MRIの年間総検査数は約9,000例となり、その内、造影検査は1割を占め、300例が乳腺ダイナミック造影検査となっている。榊本先生(放射線技術部)は、「同規模の医療機関でMRIスキャナが3台稼働しているのは珍しいと思う」と言う。
MRXperion(エムアールエクスペリオン)を導入した経緯
導入前は全てSpectris Solaris EP(バイエル社製)が設置されていた。今回、その内の1台がMRIスキャナの更新に伴いMRXperion(バイエル社製)に買替された(図1)。
榊本先生は、「当院のインジェクタは、他のモダリティも含めて1部屋を除いて、全てバイエル社製となっています。正直、MRIスキャナの更新タイミングでインジェクタも買い替えるとなっても、MRIのインジェクタだけ他のモダリティと違うメーカーにするという考えは起こりませんでした。実際、使い勝手の問題もあるし」とバイエル社製以外のインジェクタは検討に上がらなかったと話す。さらに使い勝手について「これまでのSpectris Solaris EPよりも、新製品のMRXperionはインジェクタヘッドやモニターの操作性がStellant(バイエル社製CTインジェクションシステム)と類似しているので誤操作を防ぐことができます。MRI室専属のスタッフはCTインジェクタとの操作性の違いを気にすることはありませんが、ローテーターは、操作性が似ている方が抵抗なく新しいインジェクタに触ることが出来ます。またMRI室専属スタッフでも、たまに当直帯で造影CT検査をすることもあります。その際、めったに操作しないCTインジェクタですが操作が似ているので慌てることなく対応できます」と、インジェクタを買い替えることによるスタッフの負担増が少ないことが決め手の一つだと語った。またインジェクタの定期点検も3台まとめて日程調整できる点もメリットであると話した。
図1 MRI室に設置されたMRXperion
導入して良かった点
1.安心感がある
MRXperionは、操作室モニターにリアルタイムで注入圧が表示される(図2)。北原先生(放射線科画像診断部 副部長)は、「地下にある2台のMRIは、医師が常駐している1階の放射線科と離れている。造影剤の投与時に異常が発生した場合の対応として早期発見が求められるが、MRXperionは注入圧がリアルタイムで確認できるので、安全面で少し安心感がある」と話す。榊本先生は、「Spectris Solaris EPは、注入圧表示機能がないのでスタッフがMRI室に入って注入中の患者さんの状態を直接観察しています。もちろん患者さんには緊急連絡用のブザーを渡しているのですが、押さない方や痛みを我慢する方もおられるので、リスクを考えての運用です。異常を感じれば、スタッフが注入部位を触っているので直ちに検査を中止できます。MRXperionでは操作室側のモニターでも注入圧の変化を観察できるため、ダブルチェックの安心感がある」と言う。
今後、残り2台のインジェクタでも、注入圧が観察できるようになればMRI室での直接観察を省くことも検討している。
図2 注入圧グラフ
2.手動で充填する必要がない
MRXprionは注入プロトコルから生食の充填量を自動算出し、ワンタッチで自動的に生食をエア抜きしながら充填するオート・ロード機能が備わっている。
榊本先生は、「空気のように、言い換えれば無意識のうちに、その機能を使っています」と言う。CT室で使用しているStellantにも同様の機能が搭載されているので、生食の充填はインジェクタに任せるのが当たり前になっている。
3.ワンタッチで装着できる
MRXperionは、位置合わせの必要なくワンタッチでアダプタや生食用シリンジをヘッドに装着できます。榊本先生は、「この単純な作業も、気遣いの必要なく実施できるのは、使い勝手が向上している証ですよね」と話す。
4.清掃がしやすい
「さっと拭くことができるんです」と榊本先生が布でヘッドの操作面を清掃する。機器の清掃は日々行う大切な業務です。ボタンに凹凸がないMRXperionは、意外なところで業務の効率化にも貢献している(図3)。
図3 フラットな操作面、指はテスト注入ボタン
5.消耗品が使いやすい
消耗品についても榊本先生は、「これまでのSpectris Solaris EPと消耗品は大きく変わらないので、慣れているから扱いやすい。特に螺旋形状コイルチューブは、腹臥位で造影検査をする乳腺MRIでは、狭いガントリーの中でルートが寝台に引っかかるのを防いでくれるので安心感がある。さらに生食用シリンジの容量は115mLあるので、持続点滴モード(KVO)を利用しても、途中で不足することはない」と言う。「さらにスタンドに装着されているシリンジキットトレイはエア抜きの際の生食の受皿や、使用済みの注射器や抜針したルートの一時的な置き場として活用できるので便利だ」と言う。必要な消耗品がワンパッケージに納まっているのも在庫管理の面で助かっているそうだ(図4)。
図4 ワンパッケージの消耗品とシリンジキットトレイ(スタンドに装着)
ワークフロー改善について
現行のワークフロー
1.インジェクタの準備手順
インジェクタの準備はすべて診療放射線科技師が行い、前の患者さんが退出後、インジェクタの準備に取り掛かる。榊本先生は、「その際、自動で生食をシリンジに充填してくれるので空き時間にコイルのセッティングなどをしながら、無駄なく準備ができる」と話す。
なお、インジェクタはDynamic MRI(下垂体、乳腺、肝臓、骨盤領域、前立腺)で使用する。
2.MRIフロアでの準備状況とルート確保の手順
MRIのフロアには受付スタッフ、看護師が常駐していない。そのため2台のMRIスキャナに対し、3名の技師を配置し、問診、更衣室の案内、ポジショニング、インジェクタの準備を分担している。
造影検査時のルート確保は、MRIフロアに適したスペースがないため、腹臥位で行う乳腺MRI検査のみMRI室に入る前にルートを確保し、他の検査は単純撮影後にMRI室内で行う。なお、乳腺MRIではKVO(持続点滴モード)を使用する。造影剤の投与は、造影時にコールして看護師が静注する。
長期的な視野でのワークフロー改善について北原先生は、「検査フローを考えても、事前にルートを確保する場所があれば、間違いなく効率は良くなりますね」と話す。榊本先生は、「MRXperionには、造影剤を投与する直前に、ルート確認をするための“生食を用いたテストインジェクション機能”があります。この機能を利用すれば、MRI室に入る前に看護師さんにルート確保してもらえば、あとは技師の方で最後まで検査を進めることができますね」と言う。北原先生は「あと、診療放射線科技師が静脈確保を行うということも、始まりつつあります。多分それに合わせてワークフローを変えていくことは必要になってくると思います」と話す。さらにMRXperionとRIS/PACSを連動させれば造影剤投与情報もデータとして管理できるようなる。そのことについて「今は、MRXperion1台なので、複数台になれば院内ネットワークとの連動を進めたい」と榊本先生は言う。その時は、さらなるワークフローの効率化を求めて、データのネットワーク化が困難な用手注入方を無くすことも検討課題となるであろう。
今後に期待すること
北原先生は、「MRIでも、バイアル製剤から充填する型のインジェクタになれば、造影剤の無駄もなくなると思う」と話された。現在CTでは、バイアル製剤を利用するマルチペーシェント用CTインジェクションシステムが市販されているが、MRIでも同様のインジェクタの開発が進むことが期待される。
北原左和子先生
放射線科画像診断部
副部長
榊本有史先生
放射線技術部
副主任