マルチペーシェント用CTインジェクションシステム
Centargoの初期使用経験
シリンジ製剤を使用しないインジェクタを導入したら、意外と便利なところが多かった!
金沢医科大学病院
所在地:〒920-0293
石川県河北郡内灘町大学1丁目1番地
電話番号076-286-3511
現在39の臨床科を有し、病床数は817床と日本屈指のメディカルセンター
CT検査室の概要
造影CT検査数:約600件/月
CT室数:3室(造影検査の多いCT室にCentargoを追加設置)
CT室担当診療放射線科技師数:5名
CT室担当看護師数:2名(血管確保を担当)
Centargoを導入した経緯
新発売されたCentargo(マルチペーシェント用CTインジェクションシステム)(図1)が、造影CT検査の実務にどのような影響を与えるのか興味があった。Centargoを導入することについて、南先生(放射線科科長)は、「わが国の造影剤は、シリンジ製剤を使用しており、造影剤自動注入器もシリンジ製剤を使用することが常態化しているので、そこからの進化を想像することはなかった。今までのものが非常に便利だという固定観念があった」と。「しかし生理食塩水の後押しについては、心臓CT検査以外は、少し手間になるということから、ほとんど行われていない状況であり、そのことに関してはCentargoを導入することで少しは簡便になるだろう。さらに造影CT検査を1台のCTスキャナに集約することで、より効率的な運用ができるのではと想像していた。実際、導入したら意外と便利なところが多かったと実感しています」と話す。
図1 CT室に設置されたCentargo
導入して良かった点
1.造影剤の剤型を選択する手間が省けた
Centargoは造影剤と生理食塩水を同時注入する機能を備えている。予め高濃度造影剤をセットしておけば、検査ごとに同時注入機能を活用して任意のヨード量を患者に応じて必要なだけ投与することができる。
南先生は、「業務効率が非常に変わってくる、特に大学病院とか造影検査の多い施設では、造影剤シリンジの剤型も沢山そろえていますよね。濃度も違えば容量も違う、しかもそれはプロトコルによって変わってくる部分と、体重によって変わってくる部分があります。シリンジ製剤の選択という作業において、相当な数の組み合わせの中から適切な剤型を選択しているのです。極端な話、シリンジ製剤でも一番、容量が多い剤型を使用することで全ての組み合わせに対応することは可能ですが、そうすると廃棄量がものすごいことになる。そう考えると造影剤を選択するのも手間ですよね。しかしCentargoの場合は1種類で患者の体格に合わせて様々な検査に対応できる。製剤を選択する労力を別のところに向けられますよね」と言う。
2.ワークフローが向上した(生理食塩水の後押しも含めて)
Centargoは、造影剤をセットする際もバイアル製剤を抜いて差込むだけで充填が完了する。患者さん毎に交換するチューブも、“患者ライン接続ポート”に“患者ライン”を片手で差込むだけで自動的にエア抜きも完了し、後は患者さんへ接続するだけ(図2)。
診療放射線技師の立場から長田先生は、「充填作業は、空のバイアルを抜いて、新たな造影剤バイアル(同じ種類)をインジェクタにセットするだけです。その後は検査毎に新しい“患者ライン”を取付けるだけで検査が可能です。なので、ワークフローが向上していると思います。」と、さらに「生理食塩水の後押しが必要な検査では、従来のインジェクタでは看護師さんが生理食塩水シリンジを準備する必要がありましたが、Centargoではその必要はない。生理食塩水をシリンジに詰めるという作業は、看護師さんの業務の負荷がかかります。ワークフローが悪くなること、病院の持ち出しコストが増加するため、これまでのやり方では、極力、使用しないようにしてきました。しかしCentargoは、生理食塩水用チューブやシリンジも必要ないため、コスト高やワークフローの低下を気にすることなく実施できます。」と話す。実際、ワークフローが向上した分、看護師さんが造影検査に立ち会っている時間、患者観察の時間が長くなっているとのこと。さらにシリンジ製剤では必要な、パッケージを開封しプランジャーを取り付けるという作業も、必要ないことを付け加えておく。
【Centargoを使用する場合の造影剤と生理食塩水】
造影剤:370mgI/mL, 100mL Vial/生理食塩水:500mLまたは1,000mLバック
図2 患者ライン接続ポート
(青色はオートプライム機能(気泡除去)が完了したことを示す)
3. 造影剤の廃棄量が減少した
シリンジ製剤の中に残った造影剤は、残量に関係なく再利用できないため、当たり前のように廃棄処分され無駄になっている。しかし、Centargo は、デイセットに充填された造影剤を必要量だけ注入するため廃棄する造影剤を、極力減らすことができる(図3)。
長田先生によると、「腹部造影検査の際、造影剤投与量を400mgI/kgに設定しています。この投与量では体重65kgの患者さんでも100mLシリンジ製剤を使用した場合、約1/3を廃棄してしまいます。しかし、Centargoでは残りの検査数から使用造影剤量を計算し、デイセットへ追加充填することで、1日使用時の廃棄量を20mL以内にすることができます。」と言う。
図3 本体に装着後、24時間の連続使用が可能なデイセットの取り付け部分
(前面カバーを開いた様子)
4. 廃棄コストが減少した
造影剤が残ったシリンジ製剤は一般ゴミとして処分できないが、空バイアルは濯いで一般ゴミとして処分できるため廃棄コストを抑えることができる。
南先生は、「Centargoは廃棄物の量を削減することでもSDGsに貢献していると思う。もともとシリンジ製剤は廃棄物の量がバイアル製品に比べて多い。さらに従来のインジェクタでは生理食塩水の後押し用にシリンジを一つ追加していたが、Centargoではその必要もない。廃棄するのにもコストがかかるので廃棄物を減らすことはコスト削減につながる」と話す。
実際の運用について
1.ルート確認の方法(血管確保)
Centargoで逆血によるルート確認を実施する方法について長田先生は、「血管を確保した患者さんは三方活栓付ライン(50cm)が付いた状態で検査室に来られます。シリンジを一つ準備できれば逆血確認は可能です。」と。南先生は、「今、多くの施設、特に造影検査数の多い施設は血管確保室を用意しているので、そこで留置針を入れ、延長チューブ、さらに三方活栓が付いた状況になっている。検査室でルート確認が必要な際は三方活栓の側枝のほうから小さなシリンジを付けるだけで、できると思います」と言う。
2.アレルギーの既往歴のある患者
Centargoでは、造影剤の種類を変更する際はデイセットも取替える必要がある。実際にはデイセットのコストや交換の手間を考えると、一度セットした造影剤は“途中で種類を変更しない”のが基本となる。
南先生は、「当院では、従来のインジェクタが稼働しているCT室に、Centargoを追加設置しているため、造影剤の種類を変更しなければならない場合は、従来のインジェクタに変えて対応している。実際、Centargoは造影検査数の多い施設で使用されるべきものと考えられるので、他の施設でも従来のインジェクタに変更すれば対応できるでしょう。いずれにしてもCentargoは、CTが1台しか利用できない施設での運用は厳しいところがあると思います」と話す。
長田先生は、「基本的には、前日に必ず翌日検査する患者さんの造影剤アレルギー既往歴を調べています。Centargoを使うことが必須条件の場合、アレルギー既往歴の患者さんが過去にアレルギー反応を起こした造影剤を、準備段階で避けることができます。事前にしっかりチェックしていれば、ある程度の運用は可能ではないか」と話す。
3.CT室内での取り回し
長田先生は、「“すっ”と移動できるんです」と、Centargoの取り回しを表現した。「予想以上に楽にCT室内を移動できますよ」と話す。CT室内でインジェクタを移動させる場合も苦にならない(図4)。
図4 Centargoの取り回しの様子
4.Radimetrics、院内システムとの連動について
長田先生は、「Radimetricsを使用することで、従来は別々に管理していた患者さん毎の被ばく線量や、造影剤投与情報を一元管理することができます。これも良い特徴ではないかと。尚且つ、統計も取れるのでRadimetricsは役立っています」と。南先生は「データをまとめるには、いいシステムですね」と話す。
今後に期待すること
最後に、今後に期待する点として、長田先生は「1日の終わりに造影剤を無駄にしないために、デイセットの残量に基づいて実施可能な検査数を表示できるプログラムがあれば便利ですね」と、さらに「様々なプログラムが利用できるといいですよね。今の体重法や、表面積法、Fractional dose法といったような一般的なものに対してもそうですし、開発されているプログラムがあれば、今後も取り入れながら普及していけば、より皆さんに使用されると思います」と言う。
マルチペーシェント用CTインジェクションシステムCentargoに関する使用感と利便性、さらには期待について、多くの感想を得ることができた。
南 哲弥先生
金沢医科大学
放射線科科長
放射線部部長
長田弘二先生
金沢医科大学病院
放射線部
副技師長