働き方改革が求められている今、インジェクタに求めること

~検査業務の効率化における「MRXperion」の有用性~

北播磨総合医療センター

所在地:〒675-1392兵庫県小野市市場町926-250

電話番号:0794-88-8800

公式HP:https://www.kitahari-mc.jp/

病床数:450床/病床数:一般病床450床(うちICU10床、 HCU20床、SCU6床、救急10床、緩和ケア20床、人間ドック5床)/手術室:9室(うちハイブリッド手術室1室)/敷地面積:約85,000㎡/本館規模:地上7階建 塔屋2階、延床面積:約42,000㎡/診療科目:全34科(内科系診療科18科、外科系診療科16科)/主な医療設備:内視鏡手術支援ロボット(ダヴィンチ)、リニアック(放射線治療器)、PET-CT、 3.0T(テスラ)MRI、バイプレーン血管造影装置、CT撮影装置(256列)/放射線科医:7名/診療放射線技師:32名

はじめに

北播磨総合医療センターは、2007年11月に提案された、「三木市・小野市統合病院構想」等によって計画され、2013年10月1日に開院した兵庫県の総合病院である。

当センターの中央放射線室では、業務改善のための取り組みとして、谷口室長の方針により、所属の診療放射線技師ほぼ全員が「厚生労働省告示第273号研修」の受講を完了し、実際に診療放射線技師による静脈確保が行われている。全国的には8.3%(2022年7月31日現在:日本診療放射線技師会ホームページより)ほどの修了者数であることからも想像できる、この困難な取り組みにも関わらず、このスピード感に驚かされた。

MRXperion(バイエル薬品社製MRI用インジェクタ)は、このような体制づくりの最中である2021年11月に導入された。

静脈確保を安心して行える環境作り

静脈確保ができる業務体制がスムーズに導入できた背景には、診療放射線技師と看護師の2つのライセンスを取得している西村沙希子先生の存在がある。西村先生は診療放射線技師として勤務されており、当該施設での告示研修を修了した診療放射線技師への静脈確保トレーニングを担当した。

副室長の後藤吉弘先生は「まず大事なことはバ ックアップ体制、静脈確保に失敗した時にどうするかですね」と述べる。患者さんの静脈確保に1度失敗した際や、血管の確保が難しいと判断される患者さんの場合、医師に連絡して指示を仰ぐ体制がとられている。実際、医師や看護師などその他のスタッフが状況を把握できるように、静脈確保の状況を読影室から確認できるモニターが設置されており、何かが起こった際には、すぐに対応がとれる環境も整備されている。後藤先生は、「そのような環境が、私がダメでも誰かが助けてくれると、失敗への恐れを減らして積極的に業務に向かわせてくれる」と話す。

また、静脈確保や注入に関して「患者さんの体で練習するわけにもいかず、講習を受けただけでは経験が少なく自信が持てない」「ファントムと実際の患者ではあまりに違って戸惑ってしまう」という診療放射線技師の方たちからの声も多かったという。

西村先生は「ファントムから患者ではなく、ファントムからスタッフ・スタッフから患者へと、ステップを増やして練習する事が大切です」と言う。

同先生が言うには、看護師では患者に向かう前の一般的な練習として、看護師同士や研修医の先生に協力してもらって、注射針で刺す経験を多く積むという。そうすることで、ファントムから患者への2ステップではなく、ファントム・スタッフ・患者の3ステップで、尚且つ2ステップ目のスタッフの段階で多くの経験を積むことが重要であるという。当施設でも講習を修了した診療放射線技師同士でのトレーニングが行われ、それから回数を重ねる事で、上達すると考えている(図1)。

また、診療放射線技師が静脈確保を行うことで、注入部位の状態を直接感じ取ることができるため、注入速度の調節なども臨機応変に変更することが出来るなどのメリットもあるとのこと。

静脈確保風景

図1 静脈確保風景

MRXperionの有用性

上記のような業務体制は全国的にも貴重だろう。しかし、後藤先生は「診療放射線技師が静脈確保を業務とすることはハードルが高いと言われているが、決してそのような事はない」と語る。その一つの要因として挙げられるのが、「MRXperion」の存在だ。

MRI用インジェクタは自動化されている機能が多く装備されているため、検査準備・造影剤注入の操作に人の手によるミスが起きづらい。例えば、自動でピストンを前進させるオート・ロード、オート・リトラクト機能は、人の手を介した操作でピストンを後退させた時に発生する空気誤注入を防ぐことが出来る。誰が行っても習熟度に左右されず、差のないクオリティで造影検査の準備が行える。この自動化機能によって、検査準備・造影剤注入の操作を一人で効率的に行う事ができる。

近年のコロナ禍により、検査に関わる人の数を少なくするこ とが求められる傾向にある。感染のリスク低減という点からも、造影剤の準備から片付けに関わるストレスを少なくできる「MRXperion」を使ったこの体制は非常に望ましいものであると言える。

清掃のし易さ

他にももう一つ、このMRXperionには、意外な利点があると後藤先生は言う。「感染防止のために毎日毎日機器のクリーニングが大変な中、この装置はボタン回りが拭きやすくてクリ ーニングの手間がかからないのがいい」。

検査室のクリーニングも以前に比べて入念に行う事が求めら れている時代だ。そんな中、MRXperionのボタン部分の構造は、世の洗濯機などと同じ段差のないフラット形式で凹凸が少なく、隙間などもないため非常に拭きやすい。汚れがたまりにくくクリーニングもしやすいこの構造は、今の時代にマッチした非常に合理的なものである(図2)。

拭きやすくクリーニングしやすい

図2 拭きやすくクリーニングしやすい

今後の展望

今後、MRXperionの機能をさらに生かすため、その特徴的機能である生食を用いたテストインジェクション法の積極導入も検討されている。

現在、前室でのルート確保時に、逆血による静脈確保の確認が行われているが、さらに造影剤の注入前に本機能を利用して本番検査と同じ状態で再確認をすることで、血管外漏出のリスクを軽減することが期待出来る。

MRXperionはそのリスク軽減を推奨するために、テストインジェクションのプロトコルが独立しており、さらにヘッド部分にスタートボタンが設置された構造になっている。当施設のように、業務を担当者一人で行える環境では、MRI室と操作室を行ったり来たりしなくても、患者さんの傍らにあるインジェクタを用いて、自分のタイミングでテストインジェクションを行う事が可能なため、特に利用価値が高いと思われる。

また、このテストインジェクションに関しては造影剤の粘稠度を考慮した本検査を再現するために、生食の注入速度を2倍にするというコツがあるのだそうだ。

MR Elastographyの利用例

最後に、後藤先生は当施設で新しく使用し始めたMR撮像法としてMR Elastographyの利用方法を説明した。「MRI装置にアクテ ィブ・ドライバーと呼ばれる振動を発生させる外部加振装置と、パッシブ・ドライバーと呼ばれる振動を人体に伝播させるためのデバイスを利用し、振動が肝臓内を通過していく様子を、MRIの位相画像からWave Imageとして可視化し、振動波の波長変化から物体の硬さを定量することで、組織のElastogramを得る手法です。これは肝臓の定量的な硬さを非侵襲的に検査できます。 NASHなどの慢性的な肝疾患では線維化が進展すると組織の硬度が増し、発癌リスクが増加するため、硬さを測る有用性は高いと考えられます。当施設では線維化ステージ2以上の3.0kPaを超えていれば、次回の検査として肝特異性MRI造影剤とMR Elastography撮像の併用を推奨しています」と語った(図3、4)。 MRXperionには、注入開始から設定した時間が経過すると表示される通知機能と、経過時間を表示する機能が備わっているため、造影後に複数回撮像するような検査でも利便性が高い。

Wave Image(肝臓内の波の伝わり方)

図3 Wave Image(肝臓内の波の伝わり方)

Elastography(肝臓の硬さ)

図4 Elastography(肝臓の硬さ)

後藤 吉弘 先生

後藤 吉弘先生

北播磨総合医療センター
診療支援部 中央放射線室
副室長

北村紗希先生、西村沙希子先生

左から北村紗希先生、西村沙希子先生