マルチペーシェント用ディスポーザブルセットの初期使用経験
国立病院機構相模原病院
所在地:〒252-0392 神奈川県相模原市南区桜台18-1
電話番号:042-742-8311 /病床数:458床 / 診 療 科 目: 全25科 / CT、MRI、FPD装置、CR装置、SPECT-CT、IVR-CT、血管連続撮影システム、DRタイプX線テレビ装置、外科用イメージ、リニアック、超音波診断装置、HIS、RIS、PACS、診療放射線技師は24名。
Stellant MPキットを導入した背景
国立病院機構相模原病院は神奈川県相模原市の地域医療支援病院であり、アレルギー疾患とリウマチ疾患に力を入れる基幹医療施設である。コロナ禍の第5波では、専用病棟で地域の中等症患者を一手に引き受けた。
そんな同院がバイエル薬品のStellant(CT Injection System)を導入したのは、2021年4月、COVID-19対応の関連でCTを1台増設したことがきっかけだ。その際、最大12時間連続で複数患者に使用可能なディスポーザブルセット:Stellant MPキット(以下MPキット*)を紹介され、造影剤の有効活用に寄与できると判断して導入した(図1)。
《Stellant MPキット》
- • シングルペーシェント用ディスポーザブルセット(SPDS):患者ごとに交換する専用ライン
- • マルチペーシェント用ディスポーザブルセット(MPDS):最大12時間連続で複数患者に使用可能な専用ラインとシリンジのセット
ただ、MPキットの導入にあたっては、診療放射線技師は、造影剤のシリンジ製剤に慣れているため、感染に対する懸念があった。村石先生は「今までは造影検査が終わったら空シリンジを捨て、新しいものを付けると教わってきたわけですから、最初は心理的なハードルがありました」と、武田先生も、「逆流防止弁がついていてデータ上は連続使用ができるとしても、患者にどう説明できるかと考えましたね」として、当初現場でも造影CT 検査で消耗品を連続使用することに対する抵抗感があったと述べる。
ただ、両名とも、すでに同施設において、消耗品を複数患者に対して連続使用できる、心血管造影用インジェクタ「Avanta」の使用経験があることから、バイエルがその技術と経験を活かして開発したMPキットについても一つ一つ課題や懸念を院内で話し合った結果、納得感を持って採用決定に進めたという。
図1 MPキットを装着したStellant(CT Injection System)
造影剤を有効利用でき、在庫管理も楽に
MPキットの最大のメリットは、造影剤の有効活用である。武田先生は「CTは体重によって造影剤の量が決まる。しかし、全ての患者(体重)に合わせるためにシリンジ製剤の剤型数を増やすのは難しく、従来のシリンジ製剤だと、どうしても造影剤を廃棄せざるを得ない問題が少なからず発生する。この問題は私も長年気がかりだったので、MPキットがそれを解決できるシステムだとはすぐ分かりました」と、語る。使用造影剤量を管理している永井先生によると、「20〜30例/日の造影CT検査を行っている当院のCT装置では、これまでひと月、約6Lの造影剤を破棄していましたが、MPキットを導入したことで、廃棄量は1L未満まで減りました」という。
さらに「造影剤と生食を検査に最適な比率で同時注入することで、高濃度のバイアル製剤一つですべての検査に対応できるようになる(図2)。今までは様々な種類の造影剤、つまりヨード濃度別、容量別に造影剤シリンジの剤型を準備していましたが、MPキットでは1種類のバイアル製剤のみを使用するため、ロット番号違いの造影剤が混ざらないようロット番号別に在庫を管理するだけで済むので、複数剤型の在庫管理が不要になりました」と武田先生は在庫管理上のメリットと管理方法にも言及した。なお、副作用が発生した場合を考慮して、1検査でロット違いの造影剤を使うことがないよう、配慮している。
また、シリンジ造影剤を温めるための加温器も、MPキットなら1種類のバイアル製剤を加温できればいいので、小さな加温器一つで済み、場所をとらない(図3)。スペースの有効活用という利点もあったという。
図2 デュアルフローを用いた注入プロトコルの一例
図3 加温器は1つで済み、スペース的にもありがたい
生食を使うことに抵抗感がなくなる
MPキットは200mL充填可能な生食のシリンジを用いて、すべての検査で生食フラッシュ、同時注入を行うことができるシステム設計となっている。また生食シリンジの準備作業時間、コストを削減し、大容量の生食バッグから吸引用のスパイク針を引き抜かずに何度も追加充填ができるため、再穿刺によるゴム片の混入や感染のリスク軽減にも寄与できる。生食フラッシュについても、消耗品のコストを気にせずに、全ての検査で実施できるようになったと。これについて永井先生は「十分な量の生食で後押しができるので、造影効果にも作用しますよね」とコメントした。
造影検査の多い施設ではメリットが多い
従来のシリンジ製剤運用から検査準備作業が変わるため、導入当初は効率的な運用を模索したが、試行錯誤の結果「現在では検査後に技師がMPキットを操作し、看護師がベッドをおろし、患者が部屋から出る案内を手伝ってくれるのでスムーズに回せるようになりました」と永井先生はコメントしている。
なお、MPキットでは冠動脈CTA検査など、高速注入が必要な場合でも穿刺に22G針が使えることが分かり、看護師からとても好評だという。
MPキットは、耐圧性能が高く(350psi)、従来のシリンジ製剤を使用する際よりも最大耐圧リミットを上げることができるため、20G針に比べて圧力が上がりやすい22G針でもリミットに余裕ができる。永井先生は「20G針と22G針ではルート確保時の心理的な負担が相当違うそうです」と述べた。細い留置針が使用できるため看護師の負担軽減ができ、ルート確保が1度でスムーズに行えることが期待できそうだ。
なお、逆血確認について、村石先生は「MPキットを使用する場合、シングルペーシェント用ディスポーザブルセット(SPDS)を接続する前に、ディスポシリンジを使用して確認を行っている」とコメントした。
MPキットの運用を考えるうえで重要なポイントは、従来のシリンジ製剤も利用できるハイブリッド運用が可能な点である。そのため同院では、造影検査の多い、平日昼間はMPキットを使用し、造影検査の少ない夜間や土日は従来のシリンジ製剤を使用する仕様でStellantを活用している。
また同院はCTが2台あるので、1台をMPキット用、もう1台を従来のシリンジ製剤用として運用できるため、副作用歴のある患者で、医師から造影剤の種類を変えるように指示があった場合はシリンジ製剤用のCTで対応している。村石先生は「MPキットはCTが2台以上ある施設向きですね」とも、武田先生も「MPキットの運用では造影検査数により最適な体制が違う」と指摘する。
今後の展望として、村石先生は「あとは大容量の造影剤ボトルがあれば、診療放射線技師の交換の手間が減るし、医療廃棄物の削減にもなりますね。MPキットは新しい製品で、今までは毎症例持ち出しになっていた生食シリンジのコストを気にせずに、後押し、同時注入検査をさらに開拓していく魅力があります」とした。
武田聡司 先生
国立病院機構相模原病院
診療放射線技師長
村石泰伸 先生
国立病院機構相模原病院
撮影透視主任
永井亨弥 先生
国立病院機構相模原病院
診療放射線技師