これぞ、令和時代のインジェクタ!
公立昭和病院
所在地:〒187-8510 東京都小平市花小金井8-1-1
電話番号:042-461-0052
病床数:485床/診療科目:全21科/地下1階:血管造影装置(3台)、マルチスライスCT装置(4列、16列、320列)、MRI装置(1.5T、3.0T)、X線TV装置、多目的X線TV装置、X線撮影装置、乳房撮影装置、パノラマ撮影装置全身、X線骨密度測定装置/本館地下2階:リニアック放射線治療装置、MRI装置(1.5T)、多検出器型ガンマカメラ装置。診療放射線技師は31名。
MRXperionを2021年4月に導入
公立昭和病院は、東京都多摩地域の中核病院であり、救命救急や高度専門医療を担っている。感染症指定病院として、コロナ禍の第5波では神経内科の病棟1棟をコロナ病棟に転換する経験もした。
今回、新たなMRI装置の導入にあわせてバイエル薬品のMRインジェクタ「MRXperion インジェクション システム」を採用した。使用経緯などについて放射線科担当科長の前田先生に伺った。
スループット改善につながる操作性
MRXperionの強みの1つは、操作画面上でのカスタマイズ性の高さである。前田先生はそれを実感した例として、EOBプリモビストを用いた造影検査を挙げる。同院のEOBプリモビストのシーケンスの場合、検査のスループットを高めるために、息止めが上手くできた患者に対して、肝細胞相を撮像する前に一旦、ガントリーから出して抜針している。その際、途中でインジェクタから空シリンジを取り外しても、経過時間を最後までモニターで確認できることが利便性につながる。「MRXperionは、次の患者へ移る際に、まず『ピストンが後退して、シリンジを取り外すことができます』という確認があり、[OK]を押すと、空シリンジを取り外すことができる。その操作をしても、ポップアップウィンドウに表示されている経過時間は、次の『インジェクタからシリンジを取り外します。その後、[OK]を押します』という操作をするまで継続されるため、途中で経過時間が停止することもありません。検査時間の情報管理がやり易くなった」と前田先生はコメントしている。
また、心臓MRIでも、MRXperionの利便性は際立ったという。心臓MRIでは造影剤のうち5~6割をPerfusion MRIで、残りを遅延造影検査で投与する。「MRXperionはグラフィカルなインターフェイスを見ながら注入プロトコルを設定できます(図1)。例えば、造影剤を10mL投与する場合、そのうち6mLをPerfusion MRIで投与し、ホールド(任意のタイミングで再スタートできるフェーズ)にした後、残りの4mLを遅延造影検査の前に投与するというプロトコルも簡単にセットできます。造影剤を2回に分けて投与する煩雑な検査でも、一人で効率よくできますね」と前田先生。
なお、ポーズ(あらかじめ再スタート時間を決定しているフェーズ)を利用することについては、患者が検査途中で気分が悪くなる可能性などを踏まえ、ホールドを利用した方がよいとコメントされた。
図1 心臓検査のプロトコル
ワンパッケージで在庫管理も楽に、感染リスクを軽減できる消耗品包装
MRXperionのもう1つのメリットは、消耗品の扱いやすさである。まず、シリンジ、延長チューブ、スパイク針を一つに同梱(ワンパッケージ)している点が、同院では便利に感じられたという。他社製品では在庫管理が課題となっていたからだ。前田先生は「当院では在庫は負債だと考え、なるべくギリギリの在庫で回しています。そのため、エクステンションチューブだけ足りなくなったとか、当直続きで購入を忘れていたなどで慌てた経験があります」と苦笑する。MRXperionはワンパッケージのため、そうしたトラブルが生じづらい。
また同院では複数の造影剤を使用しているため、グラフィカルにセットしているアダプターの種類を示す機能も好評価しているという(図2)。前田先生いわく「MRI造影剤は、種類によって体重当たりの投与量が異なるので、分かりやすさは大切です。セットしているアダプターでは、ありえない投与量を入力するとインジェクタ側ではねてくれるのも安心ですね」。
MRXperionでは115mLという大容量の生食シリンジを採用していることも、手間と効果、安全性の面でメリットがあるという。生食の残量を気にすることなく十分な量で後押しをすることができるため、造影剤の流し残しが減り、期待した造影効果が得られると前田先生は考察している。さらに、生食を針で扱うと針刺し事故のリスクがあるが、MRXperionは専用のスパイク針を利用しオート機能で生食を空シリンジに充填するため、針刺し事故のリスクが軽減できるとも。「しかも部品数が少なく、最低限の手間でセットできるので、感染対策の面でも安心できますね」と前田先生は述べた。
図2 セットされているアダプタが表示される様子 1(緑)のアダプタが装着されている場合
ヘッドにあるテスト注入ボタンでルート確保の確認ができる
2021年10月1日から、新たな診療放射線技師法が施行され、「造影剤を使用した検査やRI検査のために静脈路を確保する行為」が改正に含まれた。しかし、前田先生は「医師が注射、診療放射線技師が撮影と分担したほうが、検査のスループットは高いケースもある」と述べる。一方で、前田先生が導入したいと考えるのは、検査前に看護師に点滴ルートを確保してもらう取組みだ。造影する患者は予約の時点でオーダーが入っているため、まず外来の処置室にて看護師に点滴ルートを確保してもらい、その後、患者を検査室に案内する。すると診療放射線技師は造影時に、予め確保されている点滴ルートに造影検査用の延長チューブを接続するだけで済む。前田先生は、「この方法なら診療放射線技師もストレスなく造影検査の準備ができる」と、さらに「MRXperionには本検査と同じ注入速度を用いて生食をテスト注入できるボタンがインジェクタヘッド(MRI室内)に装備されているので、効率的にこの機能が利用できる。何度もMRI検査室と操作室を行き来しなくても済むのは良い」。また、「今後はこの機能の有無がインジェクタ選定の決め手になりそうです。逆血での確認は、手で少し引いてみて、押すといった操作です。逆血で血管確保を確認していても、本検査では注入速度が高いため、血管壁へ圧力がかかります。ゆっくり入れれば痛みを感じなかった患者が、3mL/secで入れたら痛いと感じることもあります」と本検査と同じ条件でルート確保の確認が容易にできることに注目されている(図3)。
図3 テスト注入などがしやすい機能的なボタン配置だ
点滴モードや
オート機能便利に使えるインジェクタ
MRXperionのKVO(Keep Vein Open)は、血栓防止の持続点滴を行うモードであり、乳房MRI検査で特に評価されている。
乳房MRI検査では途中で位置決めを変えにくく、ルートを入れたまま長時間同じ姿勢をとるからだ。MRXperionは、ヘッドのKVOボタンを押すだけで持続点滴を開始できる。ただ、同院ではこの機能は未使用であり、そのハードルとして、点滴で使う生食の量を読めないことがあるという。点滴で使う量はわずかであり、生食を多めに用意しておけば問題ないと考えられるが、前田先生は「看護師なら落ちるスピードと減る量が感覚的に分かるのでしょうが、診療放射線技師の多くはその感覚を掴めていない。我々としては、ダイナミックまでの何分間で点滴が何mL落ちると分かったほうが安心できますね」と話す。
最後に、MRXperionには、エア注入のリスクを軽減するヘッドの傾きセンサー、空シリンジでの2度打ちを防止するオートリトラクト、リアルタイムで観察できる注入圧グラフも装備されている。同院ではこうした機能を意識せず利用しているが、リスクマネジメント観点から必要な機能だと評価されている。
前田 朗先生
公立昭和病院
放射線科担当科長