目標のCT値を得るために必要なプロトコールとは最適な検査を目指すCTインジェクター
今里ハートクリニック
〒544-0005
大阪市生野区中川1-1-14
TEL 06-6752-0110
FAX 06-6752-0033
病床数:15床 診療科目:循環器内科
医師11名、診療放射線技師2名、臨床検査技師2名、臨床工学技士1名、看護師(准看護師含む)8名。CT1台。
妥協することなく検査を行うためにインジェクターを選定
今里ハートクリニック(15病床)は大阪市内初の有床循環器専門クリニックとして2008年3月に開院(根来伸治院長)、地域医療に大きく貢献している。スタッフの陣容は放射線技師2名、臨床工学技士1名、検査技師2名。常勤とパートも含む看護師を8名擁する。
現状の医療設備は、シーメンスヘルスケアのAngio装置や超音波装置をはじめとし、CT装置は開院当時から2管球Dual Souce CTを導入。CAGよりもCTに重きを置いて、検査を進めていくスタイルのクリニックである。2017年8月に、シーメンスヘルスケアのSOMATOM Definition Flashという128列の2管球のCT装置にバージョンアップを図る。その際に、バイエル薬品のステラントCWSも導入した。
従来のインジェクターから切り替えた背景について、同クリニックの山上敏英先生(診療技術部副部長)は「適正な造影剤をきちんと使って妥協することなく検査を行いたいという思いがありました。実際、患者さんによっては、造影剤が100mL以上必要になることがあります。これまでは、インジェクターにセットできる造影剤容量の範囲内で妥協していましたが、その状況を改善するために、造影剤の容量に余裕のある新しいインジェクターを求めていました。今使用しているステラントCWSは、造影剤用シリンジアダプタ部分を取り外して200mLの空シリンジ(図1)を簡単にセットすることができます。妥協せずに必要な量だけ事前に準備することができるようになりました」と語る。
フレキシブルに汎用性高く使えるところが利点
山上先生によると、心臓CTの場合、不整脈の有無で撮影方法が変わるので、造影剤量は決定しないという。事前の心電図検査で不整脈の有無について調べるが、その段階で症状がなくとも、いざ検査直前に心電図モニターを確認すると不整脈が出ているというケースもある。そうしたときに50mLのシリンジ製剤では、造影剤量が足りないという状況も。一度チューブにつないだ以上、それを破棄すると病院のマイナス(コスト面)にもなるということで、それを加味して、なるべく造影剤は検査直前にバイアル製品から必要量を200mLのシリンジに移し替えて準備する。山上先生は「シリンジ製剤ではなく、バイアル製品を使用するというのは、少し特殊な使い方かとは思いますが、ステラントCWSは、シリンジ製剤のみならず、バイアル製品を使用する際の利便性が高い」と補足する。
「バイアル製品からシリンジに移し替える」というのは、面倒ではないかとよくある疑問として指摘される。そうした指摘に対し、山上先生は「予め必要量をモニターに設定すれば、後はボタンを一つ押すだけで、オート・ロード機能(注入液の数値を入力するだけで、ワンタッチで自動的にエア抜きをしながら充填する機能)により、スパイク針を介してバイアル製品からシリンジへ移すことができます。バイアル側に陰圧がかからないように、専用のスパイク針にはエアーベント機能があり、安全な状態で吸引できる便利な機能がついています」と答える。また、シリンジの取り外しに連動し自動的にピストンが初期の位置へ戻るオート・リトラクト機能は、次の検査準備の手間を省く便利な機能だとも答える。
目標とするCT値を得るためのプロトコール設定
心臓・血管の撮像時におけるプロトコールの設定について、山上先生は「当院では目標CT値を400HUに設定しています。初診の方の場合は造影剤割合24.5になるように、検査当日の体重から計算して注入速度を決定します。しかしながら目標CT値に届かなかったり、あるいはオーバーしてしまう事が有ります(図2)。したがって再診の方を検査する場合は、前回の検査時の注入速度と、その結果得られたCT値などのデータを参照して、再度目標CT値を400HUにするべく注入速度を調整するようにしています。」と説明する。
図2 造影剤の注入速度から得られるCT値は患者個人の病態に依存することを示す一例
撮影条件および造影剤情報は術前・術後ともに同じ。得られたCT値は術前では左房・左室共に250HUに満たないが、術後は400HUを越えている。 a:ASD術前 b:ASD術後
また、このセッティングがステラントでは簡単に行えると語る。タッチパネルで大きいボタンであるのが使いやすく、かつCT装置との連携もあるためタッチパネルのみではなくてもCT装置側から撮影時間を見ながら注入時間を決めるということが可能になっているのが使いやすいという。CT装置との連携で前回の画像を確認したときに、ペイシェントプロトコールで前回の注入速度、使用した造影剤、注入量の情報が残るようになっている。それを参考にするのと同時に、撮影時間はハートレートを参考にして注入の時間を変更している。
今後のインジェクターに期待する機能についても、話して頂いた。
「私たちが目標とするCT値にもっていけるよう、注入速度に関してエコーの情報、撮影中の心拍数をもとに不整脈があるかないかの情報をインジェクター側で管理し、撮影時の心拍数を見ながらこの程度の注入速度が必要になるという計算式というか、そういうプロトコールがもしも可能ならば、と思います」。
より良い検査環境につながる機能
新しいインジェクターを導入する際、もともとの操作が従来の機器から変わるというハードルがある。しかし、同クリニック診療技術部の矢代敦嗣先生は、「抵抗なく対応しやすかった」と話す。
「使い方に関して、これまで生理食塩液の準備を手動で行っていたため、機械(インジェクター)が行う分、最初は少し遅いように感じましたが、やはりエアが入らないので1回で済むことが大きいです。こちら側の準備の手間は減ったかと」。
また、山上先生はお気に入りの機能について「手動でピストンの動きを微調整できるマニュアルノブ(図3)は、生理食塩液を注入する時の微妙な圧を感じることがわかると。抵抗を感じた場合は、肘の角度をもう少し上げてみるとか、向きを変えてみるとか、あるいは針が刺さっている深度を少し浅くしてみるといった工夫ができます。より安全に造影剤を注入できる調整が可能になっている点が素晴らしいと思います」と語った。
図3 患者の様子を確認しながらインジェクターの操作が可能。
血管壁に当たる硬い感覚や、抵抗なく入るときのなめらかさがマニュアルノブでよくわかるという。また、200mLシリンジは、テストインジェクションで生理食塩液をたくさん使用しても、後押しで使える分が十分残っているため再度シリンジに追加で生理食塩液を吸うという手間も省けている点を述べた。
このような機能によっても検査効率の向上、また検査環境の改善を後押しすることとなっている。より一層、検査に集中できる環境が築かれるだろう。
山上敏英先生
今里ハートクリニック
診療技術部 副部長
矢代敦嗣先生
診療技術部