mvl-bg-contrast-media-sub

Everything about X-ray Contrast Media

もう一度、血管系について

造影剤の血管系に対する作用は多彩で、血管自体にも、それからその中身である血液にも作用します。

造影剤はふだん血管系の中には存在しません。つまり造影剤は異物ですから、血管内皮を刺激し、傷付けることがあっても不思議ではありません。これらの刺激は熱感、痛みといった臨床症状として現れ、また血栓が形成されることもあります(特に下肢の静脈造影)。

内皮が刺激され、傷害されると

造影剤の化学毒性が強く浸透圧が高いほど、また造影剤と血管内皮との接触時間が長いほど、血管内皮は強く傷害されます。静脈造影後の血栓症を防ぐには、低浸透圧造影剤を用いて検査を迅速に行い、造影剤のクリアランスをよくするために下肢を高くし、生理食塩水でよく洗い流して、できれば患者を処置後すぐに歩かせるといいでしょう。

皆さんの中で血管インターベンションに携わっている方は、血管に狭窄や短い閉塞があって、診断的血管造影とその後のインターベンション治療までの間に、造影が元で血管閉塞を起こしたり病変が拡大したりした患者をおそらく経験しているでしょう。これもまさに血管内皮の傷害や血栓形成によって説明できるのです。

これらを踏まえると、CT検査ですべての造影剤は上腕から注入されるのに、そこにはあまり血栓が生じないのは、不思議ではありませんか?上腕の静脈は下肢の静脈に比べて線溶活性が高いからなのです。線溶活性は1本の静脈内でも違いがあります。ちなみに、静脈弁のポケットでは静脈の他の部分に比べて線溶活性がかなり低く、これは血栓がここでよく形成される理由の一つです。

内皮が刺激され、傷害されると

さて、血管内皮そのものに着目してみましょう。内皮ならどこもみな同じというわけではなく、身体の部位によって違いがあります。身体のほとんどの部位で内皮細胞は、細胞と細胞とがその間にある「粘着テープ」を介してくっつき、互いにつながっていますが、この粘着テープは細胞間の空間を完全に塞いでいるわけではなく、水や造影剤分子のような小さな分子は通過できるのです。

造影剤分子はかなり小さく、ほぼすべての血管で内皮細胞間のすき間を通り抜けることができます。ただし脳は例外で、これについてはもう少し後で触れます(「頭頸部の血管造影における注意」参照)。

血管内皮が造影剤、特に高浸透圧造影剤で刺激されると、細胞は収縮し、細胞どうしは互いに引き離され、粘着テープは漏れやすくなります。蛋白質などの大きな分子も通り抜けて、いろいろなところに出入りし、そこで問題を引き起こすことがあります。

例えば、ある種の蛋白質は内皮下組織と接触すると活性化されます。血液凝固や補体系の関連因子などがそうです。この活性化がある種の薬物有害反応の原因であると思われますが、これについては「偽アレルギー反応を引き起こすトリガーメカニズムはなんでしょうか?」でまた取り上げます。

内皮の傷害は内膜の銀染色法で実験的に証明できます。正常な状態なら銀は内皮の細胞間接合に結合し、そのためモザイク状の模様ができます。内皮傷害があって漏れやすくなっていると、内皮下組織が染色されてしまいます。

造影剤注入によって起こる肺水腫は、(少なくとも一部は)細胞の収縮と漏れやすくなるというメカニズムで説明できます。造影剤を注入すると内皮は収縮して漏れやすくなり、造影剤分子と蛋白質分子が間質液に溶け込み、間質液の浸透圧が上昇して高張になります。造影剤が毛細血管を通過するとその後に続いて血液がやってきますが、この血液は周囲の組織よりも低張です。そうすると血管の外の高張液を希釈するため、血管内の水分が血管の外に出てしまい、結果的に肺水腫になるわけです。

ところで内皮傷害は、例えば造影剤を腎動脈内へ直接注入した場合に観察される蛋白尿の原因でもあります(「造影剤の腎毒性および造影剤が引き起こす急性腎障害について何がわかっているのでしょうか?」参照)。

脳血管は特殊だが

すでに述べたように、脳血管の内皮は特殊です。他の部位よりもずっと堅牢で、いわゆる血液脳関門(BBB)を形成しています。毛細血管内皮細胞間のきわめて固い接合は、造影剤を含む多くの物質が脳へ侵入するのを阻止しています。

BBBに損傷があると造影剤は脳の中に入ってきてしまいます。このような損傷とそれに起因する透過性の変化は、腫瘍の発生、炎症、それから造影剤など高浸透圧液を脳循環に直接注入することなどが原因で起こると考えられます。しかし一般に、内皮傷害は浸透圧が高いことだけによって起こるのではありません。他の因子も原因となり、その中には化学毒性(蛋白結合性、脂溶性)や、イオン性造影剤では陽イオンの種類(ナトリウムはメグルミンよりも刺激が強い)などがあります。

胎盤と胎児の循環系との間にも関門があり(血液胎盤関門)、これもまた一つのバリアですが、正常な環境でも造影剤に対する有効なバリアにはなりません。母親に造影剤を投与すると、胎児に問題を引き起こす可能性があります。甲状腺機能亢進や機能低下、甲状腺腫、ヨード誘発性耳下腺腫脹(ヨードムンプス)などが報告されています(「妊婦に造影剤を投与してもよいか?胎児に影響はあるか?」も参照のこと)。

造影剤は母乳中にも移行するのでしょうか? よくある質問です。皆さんはどう思いますか? 答えは「造影剤は母乳中へ移行するか?」にあります。

熱感と痛み

造影剤を注入すると末梢血管が拡張して熱感と痛みを生じることがありますが、動脈内投与の場合には四肢の発赤を引き起こすこともあります。特にイオン性造影剤を動脈内投与した時にはそれが著しく、注入時に痛みを伴うこともよくあります。

血管拡張、熱感、痛みの基本的なメカニズムは十分に明らかにされてはいませんが、これらの現象が造影剤の浸透圧に依存することはわかっています。

以下のことが指標となるでしょう。

  • 浸透圧が1000mOsm/kg以上の造影剤は注入時に強い痛みを生じることがある。
  • 600~800mOsm/kgの造影剤では軽度から中等度の痛みが報告されているのみ。
  • 600mOsm/kg未満では患者はごく軽い違和感を覚えるのみ。
  • 500mOsm/kg未満では注入時の熱感と痛みはほとんどない。
熱感と痛み

造影剤の動脈内投与時の痛みを説明するため、さまざまな仮説が提示されています。原因として考えられるのは造影剤の浸透圧や化学毒性、血管作動性物質の放出、血管の伸展(突然の容積増加による血管拡張)、一過性の低酸素血症や虚血などです。

血管周囲の痛み受容体が関係していると示唆する人もいます。現在知られている限りでは、こうした痛みはセロトニンやプロスタサイクリンなどの物質によって抑制されます。

静脈注射では、患者は若干の温かみや熱感を訴えることがあります。これは浸透圧にも関係するのですが、それだけではありません。同等の浸透圧のマンニトール溶液では発生頻度が少ないだけでなく、等浸透圧の造影剤でも認められています。おそらく化学毒性反応が関与しています。正確なメカニズムがなんであれ、今日の非イオン性造影剤で生じるごくわずかな感覚は、通常実際に臨床的には重要ではありません。

では、血液に対する造影剤の影響は?

造影剤は血液細胞、微小循環、凝固系に作用を及ぼします。まず血液細胞から始めましょう。いくつかの点についてはすでに述べました(「血管に対してどんな影響を及ぼすか?」参照)。

造影剤は赤血球の中にも他の細胞の中にも入りません。しかし、何も問題を起こさないわけではありません。たいていの造影剤は血液よりも浸透圧が高いので、血管内に水分を引き入れます。この流入する水は、血管外の間質や赤血球などの細胞に由来します。これらの細胞は水分を失い、収縮して、表面は皺だらけになるか、デコボコの状態になり、血液の粘稠度をさらに高めてしまいます。赤血球も正常時に比べてゴツゴツしているので、いつものように毛細血管を難なく通過することができなくなります。こうして毛細血管の手前で赤血球のある種の行き詰まり、いわゆる前毛細血管充填が形成されます。しかし、これは可逆的であり、血栓形成に至ることはありません。

では、血液に対する造影剤の影響は?

赤血球の変形によって血液の粘稠度が上昇しても、その一部は水分の流入による希釈によって相殺され、粘稠度は下がります。この希釈作用はヘマトクリット値が低下することから簡単にわかります。

それでもまだ、造影剤が細動脈を通過する際の抵抗は高いままなので、血流は依然として悪いわけです。赤血球の話題になったついでですが、この赤血球細胞の著しい変形は、赤血球中のヘモグロビンの異常(ヘモグロビンS)を呈する鎌状赤血球貧血の患者でも起こります。この患者では脱酸素化、アシドーシス、高張性のため、赤血球の変形や鎌状化が生じ、その結果、血管が閉塞します。造影剤の高張性は鎌状化の引き金となりうるので、造影剤を注入するとその血中濃度に依存して鎌状化が起こることも不思議ではありません。

予想されるとおり、非イオン性造影剤なら鎌状化を招くことは明らかに少ないのです(患者がその時に重篤な状態でなければ、投与しても安全でしょう)。

微小循環に対するその他の作用は?

造影剤の注入後に血液灌流が変化することがあります。イオン性造影剤は浸透圧が高いので、微小循環レベルでも非イオン性造影剤よりは強力に希釈が起こるのですが、この血液灌流の変化は強く現れます。したがって、その主要な原因としては浸透圧や粘稠度ではなく、化学毒性など他の因子がより重要な役を演じていると考えられます。

もし皆さんが、血小板や白血球など他の血液細胞に対する造影剤の作用やそれらの相互作用に興味があるのなら、その方面の文献を調べることをお勧めします。

復 習


ここまできたら皆さんはもう、造影剤の心血管系に対するすべての副作用について説明できますね。では皆さんの知識をチェックするために、ちょっとしたクイズを出しましょう。

小テスト

右側の欄(答)を隠して、造影剤の注入が左側の項目にどのような影響を与えるかを思い出してください。

心筋収縮能 イオン性造影剤注入後、収縮能はまず低下し(カルシウムの減少)、それから上昇する。
非イオン性造影剤の注入後は、収縮能はすぐに少し上昇する。
冠動脈灌流 増加する。ただし、盗血現象のため、異常のない血管領域で特に増加する。
刺激伝導 遅延し、PQ間隔とQRS群が延長する。
心リズム あらゆるタイプのリズム障害が起こる可能性がある。
末梢血管 主として造影剤の高い浸透圧に起因する痛みと熱感。血管拡張により、全身血圧が低下し、続いて心拍出量が増加する。
血管内皮 造影剤の高い浸透圧や化学毒性の影響を受ける。内皮細胞は水分を失って収縮し、細胞間接合部が漏れやすくなる。
赤血球 水分を失い変形する。こうなるともはや毛細血管を簡単に通過できなくなる。その結果、灌流抵抗が増大し、心臓への余分な負荷をもたらす。
毛細血管 内皮細胞が収縮し、細胞間接合部にすき間ができるため、漏れやすくなる。
血液凝固 造影剤は血液凝固に有害な作用をする(阻害作用)。この作用はイオン性造影剤の方が大きい。

血液凝固への影響は?

造影剤が血液凝固に影響することは、造影剤が蛋白質に結合し、凝固因子が蛋白質であることから、驚くに当たりません。イオン性造影剤の方がこの蛋白結合は強く、その影響もはるかに大きいことが知られています。また、イオン性造影剤は血液凝固に必要なカルシウムの血漿中濃度を低下させます(「刺激電導系に対する作用」参照)。そういうわけで、イオン性造影剤の方が非イオン性造影剤よりも有害作用、つまり血液凝固阻害作用が大きいのです。この阻害作用は約5分後に最大となり、3~4時間で消失すると言われています。

非イオン性造影剤の方が血液凝固阻害作用が弱いという事実は、これまで長い間、非イオン性造影剤は血液凝固を促進する、つまり血栓を形成しやすいという別の意味に解釈されてきました。実際には、非イオン性造影剤の凝固プロセスに対する有害作用が比較的少ないということにすぎません。

頭頸部の血管造影における注意

頭頸部の血管造影に際してはこれらの血管領域の特殊性を考慮しなければなりません。頸動脈や椎骨動脈に造影剤を直接注入する場合の合併症は、技術的な要因(例えば血管内プラークの剥離)か、さもなければ注入した造影剤が原因で起こります(今日ではまれですが)。

頸動脈への投与では心拍数の増加または減少や血圧の上昇または低下が見られる可能性があります。これはおそらく脳の心血管中枢への直接作用と、頸動脈分岐部や外頸動脈床にある受容体への作用を介しています。

通常、患者にとって内頸動脈への注入よりも外頸動脈への注入の方が不快に感じられます。内頸動脈では血管拡張が全くないかわずかにあるにすぎないからかもしれません。

血液脳関門(BBB)に異常のない患者では、造影剤を頸動脈内注入しても脳に到達するのはごく少量です。高浸透圧造影剤などの高張溶液を使うと、BBBは内皮細胞が収縮し、細胞間のいわゆる「堅い接合部tight junctions」が開いて漏れやすくなります。しかし、この状態はそんなに長くは続かず、数分から2時間以内です。

造影剤には直接的な神経毒性もあります。これは、BBBに損傷がある場合や、脊髄造影を行った場合のように、造影剤が神経細胞や脳細胞と直接接触した時に明らかとなります。神経毒性は痙攣発作などの臨床症状となって現れます。まれではありますが重要なのは、(合併症がないはずの)椎骨動脈造影後に見られる皮質盲です。この状態は、ふつうは短時間で一過性なのですが、おそらく後頭葉の視覚野に対する造影剤の直接作用によるものと考えられます。

脳血流が減少していると、造影剤との接触時間が長くなり、BBBが傷害されるリスクも高くなります。このような時は特に低刺激性の造影剤を使うべきです。印象的なのは、クモ膜下出血の患者では、イオン性造影剤を使用すると脳血管の攣縮が起こり、遷延することがありますが、非イオン性造影剤ではそういうことは明らかに少ないことです。

脳血管造影において(それからもちろん他の血管造影においても)、非イオン性造影剤が急速に普及してきた理由は、以上のようなことで説明できます。

脊髄造影撮影では、造影剤は血液脳関門(BBB)をバイパスする脳脊髄液にも直接注入されます。この処置には非イオン性造影剤を使用しなければならないのは明白で、イオトロランのような、親水性が高く、そのため神経耐性も高い、等浸透圧タイプを選択的に使用するべきでしょう。