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心血管系への作用―今度は詳しく

造影剤の心血管系への影響について思い出せない場合は、「刺激電導系に対する作用」に戻ってください。ご存じのとおり、造影剤はさまざまな形で心臓に作用します。負荷の増大、収縮能の変化、電気生理学的障害が起こることもあります。

冠動脈造影では、冠動脈を描出するために高濃度の造影剤を注入します。ヨード濃度は通常、約370mgI/mLです(他の部位では300mgI/mLも用いられる)。造影剤の濃度が高いと浸透圧も相対的に高くなります(もちろん、ヨード含量が同じなら、イオン性造影剤は非イオン性造影剤に比べてかなり高浸透圧です)。

心筋収縮能はどう変化するか?

造影剤を冠動脈に注入すると、何が起こるでしょうか? 筋肉が正常に機能するのにカルシウムが必要であることはよく知られています(過呼吸を例にとりましょう。過呼吸では筋障害すなわち痙攣が起こりますが、これは血中カルシウムイオンが減少するためです)。心筋の収縮能もカルシウム濃度の影響を受けます。ここで重要なのはカルシウム濃度そのものではなく、カルシウムイオンとナトリウムイオンの比なのです。これらの正常なバランスが崩れると、心臓の収縮能も変化します。

イオン性造影剤を注入すると2つの作用が観察されます。

  • まず心機能が抑制され、心筋収縮能が低下する(陰性変力作用)。
  • 次に心筋収縮能が上昇し、陽性変力相になる(収縮能と収縮期大動脈圧の上昇)。

造影剤について皆さんがどこまで理解しているか、確認してみましょう。前にも述べたように、造影剤分子の陰イオン部分は正電荷のカルシウムイオンと結合します。実際in vitroの実験ではカルシウムの3分の1までがアミドトリゾ酸(造影剤分子の陰イオン)に結合します。ですから収縮能が低下するのも不思議ではありません。

でも、その後に起こる収縮能の上昇はどう説明しますか? 血漿よりも浸透圧の高い造影剤を注入すると、浸透圧を下げようとして体液移動が起こります。この体液移動は血管外、細胞外の領域から毛細血管内へ流入し、これを代償しようとして細胞内液が細胞の外に出ます。この細胞の脱水により細胞内カルシウム濃度が上昇し、いわゆる筋フィラメントの作用が改善されて収縮能が高まります。実験的にも、例えば血漿よりも浸透圧が高い他の溶液を冠動脈に注入してみると、収縮能が高まります。

冠動脈造影で非イオン性造影剤を注入するとどうなるでしょうか? 非イオン性造影剤はカルシウムと結合しないので、注入しても収縮能が低下する位相は見られません。ただし、冠動脈造影に使用されている非イオン性造影剤の大部分は血漿よりも高浸透圧なので、やはり体液移動が起こり、収縮能が高まります。

この作用の他に、もう一つのメカニズムも働きます。イオン性造影剤の注入によって水素濃度がわずかに上昇し、pHが低下します。そして、このような酸性の環境ではもっと多くのカルシウムイオンが利用できるのです。しかしながら、この影響はカルシウムの減少を相殺するほどのものではありません。

冠動脈では他に何が起こるか?

造影剤は末梢血管だけでなく(もし忘れていたら「ポンプ機能への影響はどう説明できるか?」を参照のこと)、心臓でも血管拡張を引き起こします。この作用は造影剤の高い浸透圧によると思われますが、冠動脈灌流が一時的に注入前の3倍にまで増加することもあります。

この灌流の増加は防御メカニズムとして説明できます。つまり、造影剤が冠動脈内に長時間貯留しないようにしているのです。

しかし、血管拡張には不都合な面もあります。これらの作用は血管が狭窄している部位ではあまり大きくないのです。それで、もともと灌流が良好な正常領域は造影剤を注入するとますます灌流がよくなり、盗血現象と言われるように、灌流が良好な(そしてたぶんより健全な)領域に血流がいっそう多く再分配されます。この現象はもちろん、浸透圧が低い非イオン性造影剤ではそれほど強くはありません。

心リズムと心電図はどう変化するか?

造影剤を冠動脈に注入すると電気生理学的現象が乱されて、心電図に変化が起こる可能性があります。その作用は造影剤の浸透圧と、造影剤に起因する陽イオン濃度の変化とに依存します。浸透圧が低ければ低いほど変化は小さく、また非イオン性造影剤ではさらに小さくなります。

心停止、徐脈、頻脈、そして心室細動と、ほとんど何でも起こりえます。しかし、実際はもう少し複雑で、同じ副作用が病態生理学的に異なるさまざまなメカニズムによって起こりうるのです。徐脈を例にとると、これは「ペースメーカー」細胞に対する直接作用としても起こるし、自律神経系への影響によっても起こりえます。

基本的に高浸透圧造影剤を注入すると、電気的現象がゆっくりになり、電気刺激伝導も遅くなります。その結果、心拍数低下、徐脈、さらに房室結節の刺激伝導の低下などが見られます。心電図ではPR間隔とQT間隔の延長となって現れます(造影剤が高張になればなるほど、徐脈も著しくなります)。

心室細動はどう説明できるか?

正常な心臓の収縮は、互いに隣り合って並んで列をなしている数千個の心筋細胞の協調活動の結果です。

心筋細胞の収縮は電気刺激によって起こります。刺激伝導系と呼ばれる経路を一方向に流れ、一連の心筋細胞収縮を生じさせることにより、効率的な心収縮を引き起こします。

心筋細胞が電気刺激で興奮した後には回復期(不応期)があって、その間は電気刺激を受けても興奮が全く起こりません。これは一種の安全策でもあります。つまり、その時に時期尚早の電気刺激が発生しても、どこにも伝達されないので、問題が起きることはありません。その電気刺激は「息絶える」だけです。

ところが、何らかの理由でこれら出来事の連鎖が乱されると、問題が起こることがあります。例えば、細胞間で不応期の調整が行われなくなった場合に、どこかで異常な電気刺激が発生し、近くの細胞の一つがちょうど不応期でなかったとしたら、刺激はそこに飛び移り、間違った方向に伝達される可能性がでてきます。この2番目の細胞の近くにも同じように回復期(不応期)ではない細胞があると、電流つまり刺激はさらに飛び移り、最終的に電気刺激はぐるりとひと回りすることになります。こうなると正常な組織化された心筋活動は行えません。その結果は、ポンプ活動どころではなく、心機能停止や心室細動です。

正常な刺激伝導はどのようにして乱されるか?

多くの因子がその原因となりますが、造影剤の注入もその一つです。これまで見てきたように、造影剤は、それ自体がイオン性であるか、または電気信号の伝導過程に関与するイオンや電解質の濃度を変化させることにより、伝導過程を変化させるかもしれません。造影剤をある冠動脈に注入すると、この動脈から血液の供給を受ける領域だけが電気的な変化を被るので、他の冠動脈の支配領域との境界で伝導の不均一が発生します。最悪の場合は電流の飛び移りにより、心室細動を招く可能性もあります。

左右の冠動脈で注入後の変化に違いはあるか?

造影剤を右冠動脈に注入した場合は、左冠動脈への注入後に見られるのとは異なる変化がみられます。これは心電図にはっきりと表れます。右冠動脈に注入するとQRS軸は右へ変位し、左冠動脈に注入すると左へ変位します。

この違いは、左心系と右心系への血液供給が異なることが原因の一つです。例えば洞結節はふだん右冠動脈からというように、それぞれの構造物は特定の冠動脈から血液供給を受けているのです。