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デザイナー造影剤?

今日、デザイナー服などが話題になっていますが、デザイナー造影剤というのはいかがでしょうか?

ここまできたら皆さんはもう、造影剤分子のどの部分がどういう特徴をもたらし、またどのような副作用の原因なのか、わかってきたでしょう。これらがわかれば適切な造影剤のデザインや合成を試みることもできるかもしれません。

過去から現在にいたるまで、造影剤としてさまざまな化合物がデザインされてきました。でも、そのすべてが有用、あるいは実用的だったわけではありません。

では、ちょっとした造影剤のデザイン教室を始めてみましょう。

ここまで読んできた皆さんなら、図8に示す造影剤の基本的な化学式をどうすればいいか、わかりますよね。

図8.非イオン性造影剤では、塩形成基(COONa)(a)が、-OH基を伴う親水性置換基(X)(b)によって置き換えられた。

デザイナー造影剤?

1番―開始地点

ベンゼン環の1つ目の角には酸基があることを思い出してください(「もう一つのアプローチ?」参照)。非イオン性造影剤を作るためにこの酸基(=塩を形成する基)を取り除き、その代わりに解離しない、つまりイオンに電離しない化合物を置きました。理論上は簡単なことですが、実際には簡単ではありません。なぜでしょう?

造影剤として使える溶液を作るには、膨大な量の造影剤粒子を溶かさなければならないことを覚えていますか? この粒子すべてを水に溶かすための裏技は、造影剤塩を使うことでした(海水中のすべての塩を思い出してください)。

この塩形成基を取り除くと、化合物は水に溶けにくくなってしまいます(図8を参照)。これを別の置換基に置き換えて、なおかつ水にきわめて溶けやすくするためには、どうすればいいのでしょうか?

1番―開始地点

-OH

一つ、あるいは数個の水酸基(化学記号では-OH基)を造影剤原末に付けるという方法があります。どうして水酸基が水溶性を高めるのでしょうか? 水はH-OH(H2O)と書くこともできて、「-OH」はもともと水の分子の一部です。だから、水溶性を高めるには水酸基を付ければいいのです。

水酸基の他に、別の親水性の置換基でも水溶性を高めることができます。例えば、いわゆるアミド基を使うと、かなり強力に親水性を高められます。これについてはまた後で紹介します(「3番と5番についてもう少し」参照)。

非イオン性モノマー型造影剤は水溶性を高めるために、1分子あたり少なくとも4個の水酸基を持っています。非イオン性ダイマー型のイオトロランには12個も付いています(図9参照)。

水酸基があることは、水溶性を高めるだけでなく、副作用の発現率や毒性の低下にも貢献しています。

しかし残念ながら、考えなければならないのは水酸基の数だけではありません。造影剤分子中における水酸基の空間的な配置も重要な役割を演じているのです。分子中での配置が均一であればあるほど、造影剤の忍容性は高くなります(常にというわけではありませんが、おおむねそうです)。これらの水酸基は分子を包んでいると考えることができます。つまり、分子内部の「悪い中心部」が水酸基によって囲まれているのです。もしもすべての水酸基が分子の片側に集まっていたら、造影剤分子の残りの部分は常に「悪い中心部がむき出し」のままで、よからぬ作用を起こしかねません。

図9.イオパミドール(イオパミロン®)とイオトロラン(イソビスト®)の化学構造。-OH基の数に注意。

-OH

まだこの話はしていませんでしたが、ベンゼン環とヨードは親水性ではなく、かなり疎水性、というか親油性なのです。そのためにいろいろと問題を起こしやすいのです(「親水性か脂溶性か」を参照)。

ベンゼン環が親水性でないことは日常生活でもわかります。ガソリン(ベンゼン環を含む)を車のフロントガラスに少量こぼすと、何が起こるでしょうか。水はこの脂溶性の物質をあまり溶かさず、吸収しないので、水だけではうまく拭き取ることができません。

造影剤の分子の中ではヨード原子とベンゼン環は単にOH基だけでなく、全体が親水性の側鎖によって包まれ、囲まれています。包むとか囲むといった概念を理解するには、造影剤分子は紙の上に表わされるような平らなものではなく、複雑な3次元構造であることを理解する必要があります。

-OH

2番には?

覚えていますか、2番というのはヨード原子のある場所で、4番と6番の場所もそうです。なぜヨードなのかは、わかりますよね。説明のとおり、ヨードはとにかく造影剤として適していて、

2、4、6番の間は?空席だ!

1番の場所はすでに埋まっていて、2番、4番と6番の場所をヨードが占めているとしても、3番と5番はまだ空いています。もう一度図10を見てください。この2つの空席を少し強調してあります。なぜかって? こうするとヨードの原子番号が覚えやすくなるからです。5と3、つまり53です。

バリウムの原子番号を知っていますか? 56で、ヨードに近い数です。これの覚え方は、「53より3大きい」です(またしても魔法の3)。

図10.ヨードの原子番号の覚え方は?

2、4、6番の間は?空席だ!

3番と5番はどうあるべきでしょうか? 英語では何かに囲まれていることを表すのに、「amidst」を使うことがあります。今日の造影剤分子はこれらの場所にamidstならぬアミド結合があります(図11参照)。化学式ではこれはNHCOまたはCONHと表されます。このアミド結合は重要で、造影剤の脂溶性を低下させ、親水性を高める、つまり副作用のリスクを少なくしてくれるのです。

注目してほしいのは、非イオン性造影剤では3番と5番だけでなく、通常1番にもアミド結合があることです。まさにamidst、ヨードに囲まれています。

水酸基の数もアミド結合の数も、非イオン性モノマー型造影剤の親水性の程度を左右します(非イオン性ダイマー型のイオトロランでは12個の水酸基の他に、6個以上のアミド結合があり、かなり高い親水性があります)。

図11.ヨード原子に囲まれているアミド結合

2、4、6番の間は?空席だ!

アミド結合は側鎖の一部で、3番と5番に、非イオン性造影剤の場合は1番にもあります。これらの側鎖は造影剤分子の中心部をうまく包み込んで、副作用を低減させます。側鎖が長い方が分子の中心部をより包み込むので、忍容性が高くなります。ただし、側鎖があまりにも長いと、分子が大きくなりすぎて別の問題を引き起こします。つまり造影剤は粘性が強くなり、ドロドロで(「粘稠度」も参照)、細い注射針では注入が難しくなり、さらに微小循環や尿細管内の尿流にも悪影響を及ぼすことが考えられます。また、側鎖が長いと蛋白質に絡みつきやすくなります。―ですから、鎖は短すぎても長すぎてもいけないのです。このように、話は単純ではありません。

3番と5番についてもう少し

すでに述べたように、3番を使って「橋」に接続し、その「橋」によってもう一つのベンゼン環とつながってダイマー型造影剤が作られます。

5番の目的はなんでしょうか?

5番も重要です。ここに側鎖がつながっていないと、すなわち炭素番号5が置換されないと、造影剤の蛋白結合がより強くなります(図12参照)。蛋白結合は副作用と化学毒性と関与するため、尿路造影/血管造影には好ましくありません。(忘れていたら、「副作用についてもう少し」をもう一度見てください。)

蛋白質が造影剤分子と結合すると分子自体が大きくなって、ある時点で腎を通過できなくなるので、別の経路で体内から出ていかなければなりません。この作用は、胆嚢・胆管造影剤にも利用されています。胆嚢・胆管造影剤は腎臓よりも胆管から排出されます。

簡単ですって? たしかにそれらの規則さえ守っていればいいのなら、誰でも新種の造影剤を発明できてしまいますが、残念ながら規則は成功を保証してくれません。事態はもっと複雑です。だから、親水性造影剤分子の中に親油性の部分を埋め込み、その溶解度を高めるというようなことが重要になってくるのです。

造影剤のデザインにはツキも必要です。

図12.炭素原子5番に置換基が付いてないと、蛋白結合が強くなる。

5番の目的はなんでしょうか?
5番の目的はなんでしょうか?

さあ、フランケンシュタイン博士、何も気にせずに、あなただけの化合物を作ってください。
――でもこのページで復習したことも忘れないように。

復 習


水酸基の数は造影剤の忍容性に影響します。おおざっぱに言うと、OH基が多ければ多いほど親水性が高い(同時に忍容性も高い)。水酸基は側鎖の一部で、造影剤分子中の脂溶性の中心部(ベンゼン環、ヨード原子)を包みます。この側鎖はベンゼン環の3番と5番に結合していて、非イオン性造影剤では1番にも結合しています。
これらの側鎖はベンゼン環の3番と5番に結合しています。非イオン性造影剤の場合、このような側鎖は1番にも結合しています(イオン性造影剤における、カルボキシル基の代わりに)。
ヨード原子は2、4、6番にあります(間の席を空席にしているポーカープレーヤーを思い出してください)。それらの間――イオン性造影剤では3番と5番、非イオン性造影剤では1、3、5番――には側鎖があり、さらにそこにはアミド基もあって、「amidst(~の中にの意味)」つまりアミド基がヨードを囲い込み、脂溶性を弱め、副作用のリスクを低下させます。
5番が空いたままだと、蛋白結合が増強されますが、これは胆汁から排泄される性質を持つ胆嚢・胆管造影剤を作るのに利用されています。
このように、造影剤のデザインには理論的で有用なルールが多くありますが、最終産物の特性は完全に予測可能ではなく、運によって決まることさえあります。

粘稠度

液体ならどれでもみな同じというわけではありません。水みたいにサラサラしているものもあれば、シロップみたいにネバネバしているものもあります。流動抵抗の大きい液体は、粘性が高いと言われますが、基本的にこれは流動抵抗を生み出す液体の内部摩擦によるものです。

粘稠度は造影剤の注入し易さなどを左右するので、重要な物理的特性です。粘稠度の高い造影剤を注入するには内径の大きな針やカテーテル、または高い注入圧が必要です。言い換えると、造影剤の粘稠度が高ければ高いほど注入し難いということです。

粘稠度

液体の粘稠度はミリパスカル秒(mPa・s)という単位で表示されます(以前はセンチポアズ(cp)でした)。これはさまざまな因子によって規定されます。

  • 溶媒(造影剤の場合は水)の粘稠度
  • 造影剤の濃度、造影剤分子の分子量、大きさ、形
  • 温度
    次の場合は粘稠度が上昇します。
  • 造影剤の濃度の上昇(より多くの粒子に圧力が加わるため)。面白いことに、特に非イオン性ダイマー型造影剤の濃度が上昇すると(例えば、腎内の尿細管)、粘稠度は不釣り合いに上昇し、問題を起こすこともあります(「2、4、6番の間は?空席だ!」参照)。
  • 分子量と分子の大きさの増大
    (分子量自体は分子の大きさや形ほど重要ではないようで、例えば長い側鎖を持つ分子は互いにからまりやすく、また立体構造が直線的な分子は、球状の転がりやすい分子よりも粘性が高いのです)
  • 温度の低下
    (逆に、温度が上昇すると造影剤の粘稠度は下がります。アイスクリームも温度が上がると粘性が下がるでしょう。おおざっぱに言うと、造影剤を20°Cから37°Cに加熱すると、粘稠度は50%以上も低下します)

粘稠度が少し高くなることは利点になることもあります。造影剤の「粘っこさ」により造影剤の塊がくっついて離れにくくなるので、脊髄造影や関節造影ではある程度は望ましいとされています。

微小循環に対する粘稠度の影響は、現在使用されている造影剤にとって、実用的あるいは病態生理学的な意味からも、それほど重要ではないでしょう。しかし、粘稠度の上昇は、おそらく非イオン性ダイマー型造影剤の尿細管における流れや腎排泄に関連して問題が生じます。

復 習


造影剤の粘稠度はその注入し易さに影響します。粘稠度は造影剤分子の分子構造(分子量、形など)、造影剤の濃度の他に、温度によっても規定されます。濃度が上がると、粘稠度は不釣り合いに上昇するかもしれません。造影剤を体温と同じ温度まで温めると、粘稠度は有意に下がります。

粘稠度

ちょっと待って!逃げないで!
これを書くのにはずいぶんと時間もかかったんですよ。
最後のチャンスをください。
少し休憩してもいいですから。
ここまではちょっと退屈だったかもしれませんが、次のページからは違うかもしれません。
かなり詳しい話になってきていますよ......