Plus.Lung.Noduleの使用経験

~AIソフトウエアを用いた胸部CTの読影

藤井 佳美

藤沢市民病院 放射線診断科
藤井 佳美 先生

はじめに

昨今のAI(人工知能)の発展には目覚ましいものがあります。物流、自動車、教育、メディア等々、さまざまな業界にAIが導入され、ヒューマン・エラーによる事故を未然に防ぎ、サービスの飛躍的な向上に貢献しています。医療においては、画像診断の分野でいち早くAIの活用が始まりました。大量のデジタルデータを扱う画像診断はAIと相性がよく、放射線科医の負担を軽減し、診断の精度を高めるツールとして期待が高まっています。

放射線科医の疲弊

日本はCT、MRI装置の台数が多く、人口比で世界一であることはよく知られています。CT装置の台数は全国で約13,000台であり、これは1つのコンビニエンスストアチェーンの店舗数に匹敵するとされています。(CT 13,136台、コンビニS 17,491店、コンビニL 11,600店、コンビニF 10,547店)1)その一方で、放射線科専門医の人数はOECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも最低水準で、放射線科医1人あたりの業務量は群を抜いています。2)図1
近年、装置の高性能化により撮影にかかる時間は短縮され、検査数は増加しました。医療の高度化や医療安全の意識の高まりから、患者さんが検査を受ける頻度も増しています。さらにコロナ禍以降、CT検査は胸部を含めた全身パンスキャンが一般的となり、同じ1件の検査であっても画像のデータ量は倍増しました。しかし当然ながら、人間の処理能力が劇的に向上することはありません。膨大な読影量に追い込まれた放射線科医が忙しい大病院の読影室を離れ、残った医師がさらに過重労働に陥るという問題も起きています。
放射線科医の目は野球のピッチャーの肩と同じで、酷使すれば消耗します。長時間画像を見続けることにより疲労し、集中力の低下から見落としのリスクも大きくなります。昭和時代の野球ではピッチャーは先発完投することが目標で、投球数はほとんど考慮されませんでした。しかし現代野球では故障を防ぐため投球数100球前後でピッチャーを交代させるのが一般的になっています。画像診断の現場においても、貴重な医療資源である放射線科医の消耗を防ぎ、診断の質を維持する仕組みづくりが急務と考えます。

図1

図1
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2015年厚生労働省レセプト情報・特定健診等データベース、2016年OECD経済協力開発機構保健統計より算出

コロナ禍をきっかけにPlus.Lung.Noduleを導入

当院では2020年からAIを用いた肺結節の読影支援プログラムPlus.Lung.Noduleを導入しました。コロナ禍の初期、PCR検査が一般の病院では行うことができなかった時期に、CTは大きな役割を果たしました。当院では、発熱の患者さんや術前の患者さんに新型コロナウイルス肺炎のスクリーニングとしてCTを行っていました。初めてみる新型コロナウイルス肺炎の所見を、論文片手にディスカッションしながら診断したことを覚えています。スクリーニングのCTの中にはときに肺癌や肺転移の症例も混在しています。放射線科医は本来見るべき肺炎以外に、肺結節も見落とさないようにしなければなりません。読影の負荷を減らし、診断の精度を高める目的でPlus.Lung.Noduleの導入が決まりました。
コロナ禍を経て、Plus.Lung.Noduleは肺結節の診断になくてはならないものとなりました。プログラムは初回導入時からバージョンアップされ、肺結節の読影を支援するROI(Region Of Interest)表示やサイズの計測だけでなく、ROIのVDT(Volume Doubling Time)を自動計測することも可能となりました(ROIのオートトラッキング機能)。また縦隔リンパ節の読影を支援するROIを表示する機能も追加され、単純CTでのリンパ節の指摘に役立っています。
一説によりますと、画像診断のAIソフトウエアが導入されている施設でも、常にそれを使用している放射線科医は3割程度といわれています。私は肺結節に関しては常にAIでの解析結果を参照しています。(緊急で読影を行う必要があり、AIでの解析が終わっていない場合は除く。)Plus.Lung.Noduleが導入されてから、小さな肺結節を見落とさないよう肺野を何度もページングすることはなくなりました。肺結節のサイズを手動で計測することも、もうありません。何より肺結節を見落とすのではないかというプレッシャーから解放されたことは大きなメリットです。

胸部CT読影の実際

Plus.Lung.Noduleを用いた胸部CTの読影についてご説明します。まずは肺野を自分の目で確認します。その後、ショートカットキーを用いてAIによる解析結果を表示します。肺野条件の最初のスライスにROIの個数が表示されますので、ROIがゼロの場合は再度、肺野をスクロールして結節に関する読影は終了とします。いくつかのROIが表示された場合は、ROIで囲まれた結節を個別に評価していきます。真の結節かどうか、悪性を疑う所見がないか、過去の画像がある場合は比較読影を行い、サイズや性状に変化がないかを確認します。精査やフォローが必要な結節があれば読影レポートに記載します。(図2)径3㎝を超える腫瘤や浸潤影についてはAIによる解析の対象外ですので、そのような病変があれば改めて観察を行います。
当院では、ROI表示対象となる陰影のサイズを径4mm以上としています。臨床的に有意な結節は漏らさずROI表示し、微小な肺内リンパ装置などはなるべく指摘しないような閾値として、径4mmが最適と判断し設定を行いました。

図2 Plus.Lung.Noduleを使用した読影の実際

① 肺野を自分の目で確認

② ショートカットキーでAIによる解析結果を表示

③ ROIの個数を確認

④ ROIに囲まれた結節の性状を評価

⑤ 臨床的に有意な結節を読影レポートに記載

図2

人間の目の弱点を補うAIソフトウエア

胸部の画像診断では放射線科医とAIによるダブルチェックが有用であることを示す論文がすでに報告されています。Li D.らは系統的レビューを行い、胸部CT、単純X線写真の診断においてAIソフトウエアが放射線科医の診断にどのような影響を与えるかを検討しました。その結果、医師がAIソフトウエアを使用した場合、平均感度は67.8%から74.6%に、特異性は82.2%から85.4%に、精度は75.4%から81.7%に、ROC曲線下面積(AUC)は0.75から0.80に増加しました。読影時間もより速くなり、放射線科医のパフォーマンスは向上したとされています。3)

ケースレポート

症例紹介1 40歳代女性

膠原病の既往のある患者さんです。息切れがあり間質性肺炎を除外する目的でCTが行われました。間質性肺炎の所見はありませんでしたが、AIによる解析結果を表示すると右下葉内側の径5mmの結節にROIが検出されました。初めに画像をみていた時には気が付かなかった病変です。本症例では結節のサイズが、血管の径と同等であったことから、脳が結節を血管の一部と誤認し、気が付くことができなかったものと思われます。縦隔の近傍は肺結節の見落としが起きやすい部位として知られています。4)AIの解析結果の確認を習慣化すれば、見落としのリスクは減らすことができます。

図3 40歳代女性 膠原病肺の精査目的でCT施行。

図3

右下葉内側に小結節がある。縦隔近傍の病変は人間の目では見落としやすい。

症例紹介2 80歳代男性

COVID-19肺炎精査のためCTが行われました。右下葉に径18mmの結節を認め、肺癌が疑われました。この肺結節を見落とすことはないと思いますが、右肺門下部のリンパ節はいかがでしょうか。1つの病変を見つけて安心し、他の病変を見落としてしまったという経験は、放射線科医なら誰しもあると思います。また単純CTでは肺門リンパ節の評価は困難で、ある程度サイズが大きくても目に入ってこないことがあります。縦隔肺門リンパ節を読影する場合にもAIによる解析が有用です。

図4 80歳代男性 COVID-19肺炎精査のためCT施行。

図4

右下葉の結節を見落とすことはないが、右肺門リンパ節腫大は指摘が難しい。
人間は1つ異常をみつけると、安心して2つ目の異常を見落とす傾向がある。

症例紹介3 80歳代男性

右側腹部痛のため救急外来を受診した患者さんです。腹部骨盤のCTが行われましたが、痛みの原因は指摘できませんでした。読影を終了する前にAIの解析結果を表示したところ、左肺底部の径12mmの結節にROIが表示されました。その後、約1年の経過で増大傾向はありませんが、読影では指摘しておきたいサイズの結節です。本症例では腹部骨盤領域に関心が向いていたため、気が付くことが難しかったものと思われます。主訴と関連の薄い領域は評価がおろそかになりがちです。人間の目の弱点を補ってくれるのがAIソフトウエアの強みです。

図5 80歳代男性 右下腹部痛の精査目的でCT施行。

図5

腹部骨盤のCTには肺底部が写っている。腹部骨盤領域に関心が向くと、肺底部の評価がおろそかになる。

症例紹介4 80歳代男性

前立腺癌治療中の患者さんです。CTで新たに右鎖骨上に小さなリンパ節を認め、転移が疑われました。見落とすことなく指摘できましたが、集中力が低下した状態では見落としが起きてもおかしくないサイズです。Plus.Lung.NoduleでもROIが表示されています。2か月後のフォローCTで病変の増大を認め、リンパ節転移と確定されました。

図6 80歳代男性 前立腺癌治療中。治療効果判定のためCT施行。

図6 80歳代男性 前立腺癌治療中。治療効果判定のためCT施行。

右鎖骨上リンパ節腫大が出現。
集中力が低下した状態では見落としが起きてもおかしくないサイズの病変である。

症例紹介5 60歳代男性

上行結腸癌、肝転移術後の患者さんです。CEA上昇があり再発病変精査のためCTが行われました。Plus.Lung.Nodule導入前の症例であり、残念ながら人間の目では左下葉内側の転移を指摘できませんでした。2か月後に結節が増大して指摘されました。後日、AIの解析を追加したところ、結節部分にROIが表示されていました。AIによるダブルチェックがあれば見落としを防げたと思われます。

図7 60歳代男性 上行結腸癌、肝転移術後。CEA上昇があり再発病変精査のためCT施行。

図7

Plus.Lung.Nodule導入前の症例。左下葉内側の小さな転移を指摘できなかった。
2か月後に結節が増大し指摘された。AIによるダブルチェックがあれば見落としを防げたと思われる。

症例紹介6 60歳代男性

両肺に多発するGGNをフォローされている患者さんです。Plus.Lung.Noduleは感度がよく、GGNにもROIが表示されます。病変のオートトラッキング機能によりサイズの増大を自動的に評価できるため、読影時間の短縮につながっています。

図8 60歳代男性 両肺多発GGNあり。経過フォローのためCT施行。

図8

Plus.Lung.NoduleはGGNを読影する場合にも有用である。病変のオートトラッキング機能により、サイズの増大を自動的に評価できるため、読影時間の短縮にもつながる。

最良の画像診断をすべての患者さんに

AIの登場によって放射線科医の仕事がなくなると言われたことがありました。AI研究の第一人者であるGeoffrey E. Hintonが2016年に「人工知能のほうが放射線科医よりも賢くなるので、もう放射線科医を育成するのはやめたほうがいい」と発言したことに端を発しています。しかしそれから8年が経って、放射線科医の仕事は増え続けています。
このことは、19世紀に写真機が発明されたときと同じです。写真というものが世の中に登場したことで、もはや画家という仕事はなくなるだろうと言われました。しかし実際は20世紀にピカソが現れ、写真機では捉えられない多面体をキャンバスに描き美術界に革命をもたらし、画家の仕事の幅を大きく広げました。私たち放射線科医もまた、AIという技術を手にしたことで新たなステージへと進んでいくと感じています。AIの活用は今後もさらに広がり、画像診断の精度は向上していくでしょう。しかしどれほど技術が進化しても、医療が目指すものはヒポクラテスの時代から変わりません。怪我や病気に苦しむ患者さんの苦痛を取り除き、患者さんが本来の自分の生活に帰り幸せに過ごせるよう尽力することです。最良の画像診断をすべての患者さんに届ける、AIはその一助になると信じます。

参考文献

1)Ideguchi R, et al. The present state of radiation exposure from pediatric CT examinations in Japan-what do we have to do? J Radiat Res. 2018;59:ii130-ii136. doi: 10.1093/jrr/rrx095.
2)Kumamaru KK, et al. Global and Japanese regional variations in radiologist potential workload for computed tomography and magnetic resonance imaging examinations. Jpn J Radiol. 2018; 36: 273-281. doi: 10.1007/s11604-018-0724-5.
3)Li D, et al. The added effect of artificial intelligence on physicians’ performance in detecting thoracic pathologies on CT and chest X-ray: a systematic review. Diagnostics (Basel). 2021; 11: 2206. doi: 10.3390/diagnostics11122206.
4)Miki S, et al. Prospective study of spatial distribution of missed lung nodules by readers in CT lung screening using computer-assisted detection. Acad Radiol. 2021; 28: 647-654. doi: 10.1016/j.acra.2020.03.015.