小児および高齢者のイオプロミドに対する過敏反応のリスク

4つの観察研究による132,850症例およびファーマコビジランスデータにおける投与数2億8千800万回超のデータ解析

Risk of Hypersensitivity Reactions to Iopromide in Children and Elderly
An Analysis of 132,850 Patients From 4 Observational Studies and Pharmacovigilance
Covering >288 Million Administrations
Jan Endrikat et al., Invest Radiol. 2021 Dec 1. Online ahead of print.

利益相反 : 全著者はバイエル社の社員である。

効能・効果、用法・用量、警告、禁忌、原則禁忌を含む使用上の注意につきましては、添付文書をご参照ください。

背景と目的

 ヨード造影剤の投与に対し重篤な過敏反応が発現することはまれではあるものの1)、重症になることや死に至る可能性もある。2)また、過敏反応の発現と年齢との関連については十分に研究されていない。
そこで、本研究では、成人(18歳以上65歳未満)と比較した場合の小児(18歳未満*)および高齢者(65歳以上)のイオプロミドに対する過敏反応(Hypersensitivity Reactions)の発現リスクを明らかにするために実施した。
*https://www.pmda.go.jp/files/000218448.pdf

研究概要:

対 象 解析I: 様々な適応症に対する、イオプロミド300または370mgI/mLを用いた全年齢の患者
解析II:イオプロミドを投与された世界中の全年齢の患者(適応症は問わない)
研究デザイン 解析I:4件の観察研究による統合解析
解析II:1995年1月-2020年12月のファーマコビジランスデータベースの解析
方 法

データベース

本研究は、2つの異なるデータベースに基づく解析により構成される。解析Iは4件の企業主導の観察研究、解析IIは企業のファーマコビジランスデータベースに基づく。

解析I:
観察研究
患者152,233例を対象としたイオプロミドに関する企業主導の4件の観察研究**(1)PMSI(74,717例)3)、(2)IMAGE(44,835例)4)、(3)TRUST(17,513例)5)、(4)Ultravist in CT(15,168例)6)の統合解析。
全試験において、患者を以下の年齢群に分類した(表1)。
➀小児群(18歳未満*)、➁成人群(18歳以上65歳未満)、➂高齢者群(65歳以上)
解析II:
ファーマコビジランスデータ
バイエル社のファーマコビジランス部門が自発報告症例,他の情報源から得たデータを収集。推定検査数***は、1995年1月-2020年12月の288,000,000回超の投与が対象(表2)。

ケース群およびコントロール群の定義

ケース群:
ACR Committee on Drugs and Contrast Media、第10.3版7)により定義された典型的かつ明確な過敏反応を有する患者。
有害事象(AE)データはMedDRA version 21.0に従ってコード化した。
コントロール群:
AEが報告されなかった患者。
誤分類および実施した手技によるものとの交絡を避けるため、非特異的反応(頭痛、悪心など)および、手技に関連すると考えられる症状(血圧低下、徐脈、頻脈など)はケース群およびコントロール群から除外した。
解析I:
研究責任医師または研究分担医師の評価にかかわらず、全症例が本造影剤と関連ありに分類。

統計

解析I:
全変数は記述的に解析した:絶対・相対頻度によるカテゴリ変数および平均値、標準偏差、最小値、中央値、四分位数、最大値による連続変数。
成人群と比較した小児、高齢者群の過敏反応発現のオッズ比(OR)の推定には、ロジスティック回帰を使用。可能性のある交絡因子は、同プールデータベースを用いた既論文と同様、事前に規定。2)
年齢に関連する可能性のある交絡因子による補正は、P値 < 0.10を用いた後退的選択法により実施。最終段階では、以前に重要であることが判明した可能性のある全リスク因子と交絡因子を多変量モデルに同時に当てはめ、P値 < 0.10の因子は維持し、最終モデルの結果を示した。
本解析は探索的なものであるため、多重性の調整は実施せず。
解析II:
1995-2020年での過敏反応報告を年齢群にわけ、各年齢群の過敏反応の合計を当該年齢群における投与回数で除して算出。
小児と成人、高齢者と成人の報告率が等しいという2つの帰無仮説に基づき、探索的に検討した。
Fisherの正確確率検定にて比較有意水準5%で探索的に検定。
評価項目 主要評価項目:成人(18歳以上65歳未満)と比較した場合の小児(18歳未満)および高齢者(65歳以上)のイオプロミドに対する過敏反応発現リスク
副次的評価項目:3年齢群における過敏反応のプロファイル

*本邦における「小児」の年齢区分(7歳以上15歳未満)とは異なる。
**各国の試験実施医療機関において、審査委員会/倫理委員会の承認および患者からのインフォームド・コンセントを取得。本試験は、任意の承認後安全性試験であり、ClinicalTrials.gov(NCT04605471)およびENCePP(EUPAS37597)に登録済。
***推定検査数は、販売データおよび第三者の市場調査から得られたデータに基づき算出。8)年齢分布は、Decision Resources Groupの市場データに基づき算出。8)

表1 解析I(統合解析)の要点

試験名 実施国 試験期間 小児
2,978例
(2.2%)
成人
86,663例
(65.2%)
高齢者
43,209例
(32.5%)
ケース群
818例
(%)
コントロール群
132,032例
(%)
合計
132,850例
(%)
参照
PMSI 27ヵ国(ヨーロッパ、
アフリカ、アジア)
1999.6‒
2003.11
1,607
(54.0)
39,432
(45.5)
21,541
(49.9)
351
(42.9)
62,229
(47.1)
62,580
(47.1)
Kopp et al3)
IMAGE 21ヵ国
(ヨーロッパ、アジア)
2008.2‒
2009.11
1,064
(35.7)
27,380
(31.6)
10,477
(24.2)
342
(41.8)
38,579
(29.2)
38,921
(29.3)
Palkowitsch
et al4)
TRUST 中国 2010.8‒
2011.11
8
(0.3)
11,652
(13.4)
5,626
(13.0)
16
(2.0)
17,270
(13.1)
17,286
(13.0)
Chen et al5)
Ultravist
in CT
ドイツ、イラン、
ルーマニア、
サウジアラビア
2006.11-
2008.12
299
(10.0)
8,199
(9.5)
5,565
(12.9)
109
(13.3)
13,954
(10.6)
14,063
(10.6)
Palkowitsch
et al6)

CT:Computed Tomography(コンピュータ断層撮影)、( )内数値:%

表2 解析IIファーマコビジランスデータベース(1995-2020)の要点

  小児
(18歳未満)
成人
(18歳以上65歳未満)
高齢者
(65歳以上)
合計
投与数 5,871,303
(2.0%)
167,970,157
(58.3%)
114,186,767
(39.6%)
288,028,227
(100%)
過敏反応 672 23,953 8,109 32,734
報告率(%) 0.0114 0.0143 0.0071

 解析Iにおける解析対象の全患者数は、4件の観察研究で計152,233例であった。Complete-analysis set(完全な症例解析対象集団)は132,850例であり、その内訳は、小児群2,978例(2.2%)、成人群86,663例(65.2%)、高齢者群43,209例(32.5%)であった(図1、表1)。
 解析IIの2億8千800万回超の投与において、小児、成人および高齢者に対する推定検査数は、それぞれ5,871,303回(2.0%)、167,970,157回(58.3%)、114,186,767回(39.6%)であった(表2)。

図1 解析対象患者の割り付け

図1 解析対象患者の割り付け

*Full Analysis Set(FAS):最大の解析対象集団

 解析Iにおける対象患者の大部分(47.9%)は、ヨーロッパで登録され、27.7%が中国、24.2%が中国以外のアジア諸国であった。アフリカからの患者はほとんどなかった。全地域において、3年齢群の患者が登録された。小児群の43.2%は中国以外のアジア諸国、11.6%は中国であったが、高齢者群では、中国での登録が多く(25.5%)、中国以外のアジア諸国は18.3%であった。
 イオプロミド濃度、性別、人種の割合は3年齢群で同様であった。合併症の発症率は小児群で最も低く(33.5%)、高齢者群で最も高かった(52.3%)。前投与、投与経路、投与部位、適応に関しては特記すべき差はなかった。イオプロミドの投与量は小児群で最も少なく、成人群の2/3および高齢者群では、20-40gであった。
 解析IIでは、115カ国で過敏反応の報告があり、4カ国(中国、米国、イタリア、ドイツ)での報告が全体の約50%を占めていた。過敏反応を発現した患者の49.5%が女性、37.7%が男性であり、12.8%で性別の報告なし、であった。ほとんどの過敏反応はイオプロミド300によるものと報告されたが、濃度の報告がないものもあった。

過敏反応および共変量のリスク

 解析Iでは、ケース群の78.2%(640/818例)が成人であり、コントロール群では65.2%が成人であった。また、ケース群では、14例(1.7%)が小児、164例(20%)が高齢者であり、コントロール群では、小児、高齢者はそれぞれ2.2%、32.6%であった。小児群および高齢者群の補正オッズ比(OR vs 成人群)は、それぞれ0.58(95%信頼区間[CI]0.34‒0.98、P<0.043)、0.51(95%CI、0.43‒0.61、P<0.001)であり、成人群と比較した場合の過敏反応の発現リスクは約半分であることが示された(表3)。また、同じようなリスク低減が静脈内投与と比較した場合の動脈内投与で見られ、発現リスク(OR)は0.49(95%CI、0.35‒0.70、P<0.001)であった。その他過敏反応に対する主要リスク因子として、糖尿病(OR、1.57、95%CI、1.22‒2.03、P<0.001)、アレルギー(OR、3.73、95%CI、2.93‒4.74、P<0.001)、喘息(OR、2.14、95%CI、1.26‒3.63、P=0.005)、造影剤副作用歴(OR、4.28、95%CI、2.74‒6.70、P<0.001)が特定された(表3)。

表3 解析Iにおける過敏反応のリスクと有意な共変量の補正オッズ比

  ケース群
N=818(%)
コントロール群
N=132,032(%)
オッズ比 95% CI P値
年齢群(vs 成人群) 640(78.2) 86,023(65.2)      
 小児群 14(1.7) 2,964(2.2) 0.58 0.34‒0.98 0.043
 高齢者群 164(20.0) 43,045(32.6) 0.51 0.43‒0.61 <0.001
性別(vs 男性) 411(50.2) 74,575(56.5)      
 女性 407(49.8) 57,457(43.5) 1.16 1.01‒1.34 0.032
投与経路(vs 静脈内投与) 762(93.2) 104,257(79.0)      
 動脈内投与 56(6.8) 27,775(21.0) 0.49 0.35‒0.70 <0.001
糖尿病(vs なし)          
 あり 68(8.3) 10,316(7.8) 1.57 1.22‒2.03 <0.001
アレルギー(vs なし)          
 あり 82(10.0) 3,477(2.6) 3.73 2.93‒4.74 <0.001
気管支喘息(vs なし)          
 あり 15(1.8) 805(0.6) 2.14 1.26‒3.63 0.005
造影剤副作用歴(vs なし)          
 あり 22(2.7) 695(0.5) 4.28 2.74‒6.70 <0.001
その他(vs なし)          
 あり 152(18.6) 19,182(14.5) 1.37 1.14‒1.64 <0.001

95%CI:95%信頼区間(漸近的Wald法による信頼限界を用い、補正は実施せず)
P値:Wald検定による

特定の過敏反応

 全体として、過敏反応は、小児群(0.47%)および高齢者群(0.38%)と比較して、成人群(0.74%)で有意に高頻度に発現していた(P<0.05)。最も高頻度に認められた過敏反応は、そう痒症(0.22%)、紅斑/蕁麻疹/皮疹(0.38%)および咳嗽/くしゃみ(0.11%)であり、いずれも成人群で最も高頻度に認められた。臨床上、最も重要な重度の副作用であるアナフィラキシーショック、喉頭浮腫および呼吸停止は、それぞれ1件で、高齢者群で発現した。
 解析IIのファーマコビジランスデータベースにおける自発報告率は、観察研究よりもはるかに低かった。
全体として、過敏反応は、小児群、成人群、高齢者群でそれぞれ672例、23,953例、8,109例報告され、報告率は小児群で0.0114%、高齢者群で0.0071%であり、それらの割合は成人群(0.0143%)と比較して有意に低かった(P<0.0001)。
 解析I、解析IIともに、成人群での過敏反応の発現率、報告率が最も高かった。
 

図2 観察研究(解析I)およびファーマコビジランスデータベース(解析II)における過敏反応

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 本研究では、小児群(18歳未満)および高齢患者群(65歳以上)は、成人群(18歳以上65歳未満)と比較して、過敏反応の発現リスクが低かった。
過敏反応の発現リスクは、4件の観察研究のデータセットおよび企業ファーマコビジランスデータベースに基づき解析された。本ファーマコビジランスデータベースは最も大規模で、おそらく最も代表的なイオプロミドデータソースである。両データベースは、信頼性が高く、統計的評価に十分な例数を有している。9)、10)
 過敏反応の発現率と報告率は2つのデータセットで異なるが、これはデータソースの性質の違いによるものである。解析Iは、4件の前向き観察研究に基づくもので、臨床試験実施計画書および明確に定義されたデータ収集手順に従っているため、過敏反応発現率は同様にデザインされた過去の試験と同じような範囲内にある。10)-13)
一方、ファーマコビジランスデータは、特に重症度の低い症例が過少報告となる傾向があり、報告率は医薬品の市場導入以降時間経過に伴い低下していくことが多い。14)しかし、両解析における結果の傾向は一貫していた。
 過敏反応発現率が年齢群で異なる原因を理解することは臨床的に重要である。小児と高齢者群で過敏反応発現率が低いのは、病態生理学的には、小児では免疫系が未成熟であるため、高齢者では免疫系が年齢とともに低下するためと考えられる。15)
 2021年のACRガイドライン16)で議論されているように、過敏反応発現率についての解釈には、以下のような注意が必要である。①生理学的影響と過敏反応との厳密な判別は容易ではない。②過敏反応の定義と重症度は常に同じではない可能性がある。③ほとんどの論文は後ろ向きデータ解析に基づいているため、過敏反応の記録が完全でない可能性がある。④過敏反応に関する前向き対照研究はこれまで報告されていないが、これはおそらく過敏反応の発現率が極めて低く、統計学的に有意な結果を得るための例数が不足しているためである。16)
 本研究には、以下の限界がある。①解析Iでは、年齢記載なしの患者11,646例を事前に除外すべきだった。(解析IIでは、これは4,937例の報告)②解析Iの症例は全てファーマコビジランスデータベースに含まれるが、実際には32,734例中818例に過ぎなかった。③解析Iにおける報告基準のわずかな差を完全に除外できなかった。④観察研究や特にファーマコビジランスデータベースでは、過少報告になる可能性を除外することはできないため14)、数値の解釈には注意が必要である。⑤年齢別の過少報告バイアス(幼い子供や重症の高齢者)を完全に排除できない。⑥再投与後に発現した過敏反応を具体的に解析しなかった。17)⑦投与前のイオプロミドの温度を記録していなかった。18)⑧事象の重症度や投与との時間的関係については検討していない。

結論

 イオプロミドに対する過敏反応の発現頻度は、成人群と比較して、小児および高齢者群では有意に低かった。

 

References

1)
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2)
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3)
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Palkowitsch P, et al. Acta Radiol. 2012;53:179‒186.
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