非イオン性ヨード造影剤静脈内投与での小児におけるアレルギー性急性反応の発現頻度と重症度(海外データ)

Incidence and Severity of Acute Allergic-Like Reactions to IV Nonionic Iodinated Contrast Material in Children Dillman JR et al. Am J Roentgenol. 2007;188(6):1643-1647.

警告・禁忌を含む注意事項等の情報は電子添文をご参照ください。

Point of Article

 低浸透圧非イオン性ヨード造影剤の静脈内投与を受けた小児(19歳未満)におけるアレルギー性急性反応の発現頻度と重症度を評価した.1999年1月1日-2006年6月30日に診断目的で低浸透圧非イオン性ヨード造影剤の静脈内投与を受けた患児に発現したアレルギー性急性反応の種類,重症度および患児の転帰について後ろ向きに検討した(全投与数11,306回,Fig.1:年毎の患児への低浸透圧非イオン性ヨード造影剤静脈内投与数[2006年は第1,第2四半期のみ]).本検討には放射線科で用いている造影剤副作用フォームを使用した.さらに,電子カルテにて造影剤副作用歴,予防的前投与,造影剤以外でのアレルギー性の副作用歴,喘息の既往なども評価した.
 その結果,造影剤に対するアレルギー性急性反応の発現は20例(0.18%)で,その内訳は軽度16例(80%),中等度1例(5%),重度3例(15%)であった.このうちの6例(30%)はアレルギー性の副作用歴を有しており(2例は非イオン性ヨード造影剤に対する副作用歴),5例(25%)には喘息の既往があった.造影剤関連の死亡例はなかった.本研究により,小児における低浸透圧非イオン性造影剤の静脈内投与でのアレルギー性急性反応の発現頻度および重症度の概要が示された. 急性反応の重症度は軽度の比率が多かったが, 重症例も発現しており,その対処も重要であると示唆された.

Point of Article

Fig. 1-Graph shows annual number of IV administrations of low-osmolality nonionic iodinated contrast material to pediatric patients in department of radiology from January 1, 1999, through June 30*, 2006. Results for 2006 are for first and second quarters only (January 1‒June 30, 2006).

注) 著作権の制限上、図は翻訳不可のため、英語で掲載している
*原著ではMarch 31だが、明らかな間違いのためJune 30に変更している

研究概要:

目 的小児における低浸透圧非イオン性ヨード造影剤の静脈内投与における急性アレルギー様反応の発現率と重症度,危険因子を評価すること
対 象非イオン性ヨード造影剤の静脈内投与を受けた19歳未満の患児
研究デザイン後ろ向き研究
方法

データ収集

当該施設において, 診断目的で非イオン性ヨード造影剤の静脈内投与を受けた患児を放射線科情報システムにより特定(全投与数:11,306回)(Fig. 1).

対象期間:

1999年1月1日-2006年6月30日

造影剤の種類:

①イオヘキソール300mgl/mL,1999年1月-2004年9月(約7,963回)
②イオプロミド300mg//mL,2004年10月-2006年6月30日(3,343回)

投与量および投与方法:患児の体重により投与量を決定

  • 体重15kg以上75kg以下:2mL/kg
  • 体重15kg未満:2mL/kgよりわずかに多い
  • 体重75kg以上:最大150mL

投与量が20mL以下は用手的に, 20mL超は自動注入器を用い投与.

造影剤投与に対する副作用の記録:

放射線医が直接評価し, 評価・治療後, 放射線技師が標準化された造影剤副作用フォームに記録.

画像検査実施前に, 全患児/保護者がアレルギー性の副作用歴および喘息の既往に関する質問票に回答(質問票回答率はほぼ100%).

本研究は後ろ向きの検討であるため,当該機関の研究ガイドラインに基づき, インフォームドコンセントの取得は不要と判断された. Health Insurance Portability and Accountability Actを遵守し実施した.

分析

アレルギー性急性反応の種類, 造影剤の種類, 副作用の発現に対する治療, 患児の転帰を評価.

急性反応の定義:

患児が放射線科退出前に症状が発現した場合(遅延型アレルギー性反応, 化学毒性反応は対象外).

アレルギー性急性反応の分類:

米国放射線学会の分類(2004)に準拠した施設内分類に基づき(アレルギー性急性反応の分類を参照),軽度,中等度**,重度***に分類した.

*自然治癒で著明な悪化なし, または蕁麻疹/発疹に対する抗ヒスタミン薬投与のみ治療を行った場合. **抗ヒスタミン薬以外の緊急治療を行った場合,外来検査で救急搬送された場合. ***生命を脅かす症状,外来検査で入院が必要な場合.

9.特定の背景を有する患者に関する注意(抜粋) 
 9.7 小児等 小児等を対象とした有効性及び安全性を指標とした臨床試験は実施していない.

アレルギー性急性反応の分類

 非イオン性ヨード造影剤の静脈内投与を受けた患児を当該施設の放射線科情報システムにて特定し, 米国放射線学会の分類(2004)に準拠した施設内分類に基づき, 発現したアレルギー性急性反応の程度を下記のとおり分類した.

軽度の アレルギー性急性反応(皮膚反応に対する抗ヒスタミン薬の投与を除き,治療を必要としない場合);

  • そう痒
  • 発疹
  • 蕁麻疹
  • 咳嗽
  • 鼻閉
  • くしゃみ
  • 軽度眼瞼腫脹
  • 軽度顔面腫脹

中等度の アレルギー性急性反応(ヒスタミン薬投与以外の緊急治療が必要,または外来検査で救急部に搬送された場合);

  • 呼吸困難
  • 気管支痙攣
  • 軽度喉頭浮腫
  • 症候性頻脈
  • 症候性徐脈
  • 血圧低下
  • 血圧上昇

重度のアレルギー性急性反応(生命を脅かす症状,外来検査で入院が必要な場合);

  • 重度呼吸困難
  • 意識消失
  • 痙攣
  • 不整脈
  • 心肺停止
  • 進行性血管浮腫

 なお,複数の症状/症候を有する症例では,最も重篤な症状/症候に基づき分類した.また,悪心,嘔吐,味覚変化,発汗,温感,潮紅,不安などの造影剤に対する生理学的反応は副作用とするが,ここではアレルギー性急性反応とは見なさない.

非イオン性ヨード造影剤の静脈内投与を受けた小児におけるアレルギー性急性反応の発現頻度

1999年1月1日から2006年6月30日の間に, 19歳未満の患児に対し, 11,306回の低浸透圧非イオン性ヨード造影剤の静脈内投与が行われた. 造影剤によるアレルギー性急性反応は20例(0.18%)に発現した. 
アレルギー性急性反応を発現した患児の平均年齢は10.5歳(3ヵ月-16歳), 女児は14例(70%), 男児は6例(30%)であった(外来12例[60%], 救急部4例[20%], 入院中4例[20%]).イオヘキソールおよびイオプロミドに対するアレルギー性急性反応の発現頻度は, それぞれ0.18%(14/7,963回の投与), 0.18%(6/3,343回の投与)であった. また, 本研究期間において,複数回のアレルギー性急性反応を発現した患児はいなかった.

非イオン性ヨード造影剤の静脈内投与を受けた小児におけるアレルギー性急性反応の重症度

  本研究期間中に低浸透圧性非イオン性ヨード造影剤の静脈内投与を受けた患児におけるアレルギー性急性反応を発現した20例の重症度は,前述の分類に基づき,軽度16例(80%),中等度1例(5%),重度3例(15%)であった.
 軽度のアレルギー性急性反応では,蕁麻疹(7例),全身性発疹(4例),軽度の顔面浮腫とくしゃみの複合(2例)などがみられた.このうち皮膚症状が発現した4例は抗ヒスタミン薬による治療を受けた.
 中等度のアレルギー性急性反応が発現した1例では,造影剤投与直後に急性気管支痙攣がみられたが,アルブテロールの治療により回復し退院した.なお,本患児には気管支喘息の既往があった.
 重度のアレルギー性急性反応が発現した3例では,15歳女児(救急部)が非イオン性ヨード造影剤投与後に急性気管支痙攣および顔面浮腫を発現したため入院し(要エピネフリン治療),10歳女児(外来)は,進行性顔面浮腫を発現し経過観察のため入院,別の15歳女児(救急部)は,気管支痙攣,著明な血圧低下(49/38mmHg),頻脈,顔面浮腫(要エピネフリン治療)を発現し入院した.その後,本3例は全員回復し退院した.
 アレルギー性急性反応が発現した患児のうち2例(10%)は,ヨード造影剤の静脈内投与に対する副作用歴を有していた.両例ともがステロイドと抗ヒスタミン薬による適切な予防的前投薬を受けていたにもかかわらず,軽度のアレルギー性急性反応(いわゆるbreakthrough reaction)を発現した.
 また,アレルギー性急性反応が発現した患児のうちの6例(30%)には,造影剤以外のアレルギー性の副作用歴があり(そのうち1例ではヨード造影剤に対するアレルギー性急性反応歴あり),5例(25%)には気管支喘息の既往があった(中等度/重度のアレルギー性急性反応を発現した4例中3例を含む).
 なお,本期間において,造影剤の静脈内投与関連の死亡例はなかった.

まとめ

 今回の後ろ向き研究の対象期間において,低浸透圧非イオン性ヨード造影剤の静脈内投与を受けた小児におけるアレルギー性急性反応の発現例は20例で,発現頻度は0.18%であった.
 本研究における副作用の発現頻度は,これまでのイオン性/非イオン性造影剤を用いた小児研究における発現頻度1),2)-5)より低い数値であった.Katayamaら1)による,非イオン性ヨード造影剤(イオプロミドは含まない)を用いた小児を対象とする同様の大規模研究(副作用発現頻度3.49%)では,本研究とは異なる副作用分類を用いており,このことが発現頻度の差異となって現れた可能性が考えられる.
 本研究と同一期間に,同造影剤の静脈内投与を受けた当施設の成人集団におけるアレルギー性急性反応の発現頻度は約0.7%(668回/約96,927回の静脈内投与)(未発表データ)であった.小児と成人集団間の発現頻度には有意差がみられ(検定方法の記載なし),成人集団の相対リスクは3.9(95%CI2.5‒6.1)であったことから「年齢」が造影剤投与に対する副作用発現のリスク因子であることが示唆されるが,原因は不明である. 
 本造影剤静脈内投与を受けた小児におけるアレルギー性急性反応は,成人集団と同様1),6),7)であり,重度の発現も全体としてはまれではあるが(0.03%未満),全急性反応のうちでは重度の割合が15%であったことより,患児に造影剤を投与する場合には,リスク管理を十分に行うことが重要である.
 本研究における患児のリスク因子として,ヨード造影剤に対する副作用歴,気管支喘息の既往,造影剤以外でのアレルギー性の副作用歴が示唆された.これらは成人集団と同様である1),4),7).
 リスク患者に対しては,アレルギー性急性反応発現リスクを軽減するために当該部門のガイドラインに基づく予防的前投薬が行われており,その影響もある.ヨード造影剤に対する副作用歴,複数のアレルギー歴(通常は4つ以上),造影剤以外での重度のアレルギー歴,頻回の/最近の/重度の喘息の既往を有する場合には,プレドニゾン,ジフェンヒドラミンの前投与が推奨されているが,その最終決定は放射線科医の裁量に任せられている.
 これまでに,小児集団におけるアレルギー性急性反応の発現頻度に関して,低浸透圧性非イオン性造影剤間の比較を行った大規模なランダム試験は存在しないため,評価することはできない.
 本後ろ向き研究では,全アレルギー性急性反応が適切に記録されていると仮定し実施したが,完全ではないため,本結果が過少/過大評価された可能性は否定できない.
 以上より,小児における画像診断のための低浸透圧非イオン性ヨード造影剤静脈内投与に対するアレルギー性急性反応の発現頻度は,成人集団より小児集団で低かった. アレルギー性急性反応の重症度は軽度の比率が多かったが, 重症反応も認められたため, 投与の際には注意が必要である.成人集団と同様に小児においても造影剤副作用歴,他のアレルギー歴,気管支喘息の既往などが造影剤に対するアレルギー性急性反応発現のリスク因子であることも示された.

References

1)

Katayama H, et al., Radiology 1990; 175:621‒628.

2)

Gooding CA, et al., AJR 1975; 123:802‒804.

3)

Fjelldal A, et al., Pediatr Radiol 1987; 17:491‒492.

4)

Mikkonen R, et al., Pediatr Radiol 1995; 25:350‒352.

5)

Cohen MD, et al., Acta Radiol 1992; 33:592‒595.

6)

Cochran ST, et al., AJR 2001; 176:1385‒1388.

7)

Mortelé KJ, et al., AJR 2005; 184:31‒34.