Risk of Hypersensitivity Reactions to lopromide After Intra-Arterial Versus Intravenous Administration A
Nested Case-Control Analysis of 133,331 Patients
Endrikat J et al., Invest Radiol. 2020;55(1):38-44
利益相反:著者はバイエル社の社員であり,社外統計解析専門家もバイエル社の資金提供を受けている.解析対象の4試験はいずれもバイエル社の資金提供で実施されたものである.
効能・効果、用法・用量、禁忌、原則禁忌を含む使用上の注意につきましては、添付文書をご参照ください。
本研究の目的は,イオプロミドの動脈内投与と静脈内投与後での過敏反応のリスク特性を検討することである.
対 象 | イオプロミド300または370mgl/mL(Ultravist 300/370; Bayer AG,ドイツ)を動脈内または静脈内投与された患者 |
---|---|
研究デザイン | 4つの観察研究を統合したネステッド・ケースコントロール解析 |
方 法 |
解析の対象となった試験 ケース群およびコントロール群の定義 コントロール群の定義:有害事象が発現しなかった被験者 統計 副次評価項目については,頻度表と要約表を用い表した. |
評価項目 |
|
*イオプロミド300または370mgl/mLを「動脈内」または「静脈内投与」された患者
本統合解析では,全体で152,233例のデータ(企業主導のイオプロミドに関する4試験;PMSI試験[74,717例]1),IMAGE試験[44,835例]2),TRUST試験[17,513例]3,4),Ultravist in CT試験[15,168例]5))を用いた.
PMSIおよびIMAGE試験では,静脈内および動脈内投与による患者を対象としたが,TRUST試験では動脈内投与の患者のみ,Ultravist in CT試験では静脈内投与のみの患者を対象とした(表1).
除外基準の確認後,133,331例が「最大の解析対象集団(Full Analysis Set[FAS])」に含まれた.静脈内および動脈内投与患者は,それぞれ105,460例,27,871例であった(図).
表1 統合解析の要点
試驗名 | 実施国 | 試驗期間 | 静脈内投与 105,460例 (%) |
動脈内投与 27,871例 (%) |
ケース群 822例(%) |
コントロール群 132,509例(%) |
合計 (133,331例) |
参照 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
PMSI | 27ヵ国(ヨーロッパ、 アフリカ、アジア) |
1999.6- 2003.11 |
55,470 (52.6%) |
7,581 (27.2%) |
353 (42.9%) |
62,698 (47.3%) |
63,051 (47.3%) |
Kopp et al1) |
IMAGE | 21ヵ国 (ヨーロッパ、アジア) |
2008.2- 2009.11 |
35,903 (34.0%) |
3,016 (10.8%) |
343 (41.7%) |
38,576 (29.1%) |
38,919 (29.2%) |
Palkowitsch et al2) |
TRUST | 中国 | 2010.8- 2011.11 |
- | 17,274 (62.0%) |
16 (1.9%) |
17,258 (13.0%) |
17,274 (13.0%) |
Chen et al3) |
Ultravist in CT |
ドイツ、イラン、 ルーマニア、 サウジアラビア |
2006.11- 2008.12 |
14,087 (13.4%) |
- | 110 (13.4%) |
13,977 (10.5%) |
14,087 (10.6%) |
Palkowitsch et al5) |
図 解析対象患者の割り付け
*理由が重複する可能性あり
FAS:Full Analysis Set
表2にケース群(822例)とコントロール群(132,509例)のベースライン時の患者背景を示す.
群間の顕著な差異は,地域(中国,アジア),年齢,検査部位(腹部,心臓,胸部,骨盤,腎臓),適応症(腫瘍)および検査の種類(CT,血管心臓造影)であった.
表2 ベースライン時の患者背景
ケース群 822例 | コントロール群 132,509例 | |
---|---|---|
濃度 | ||
イオプロミド 300 mg l/mL | 553 (67.3%) | 84,447 (63.7%) |
イオプロミド 370 mg l/mL | 269 (32.7%) | 48,062 (36.3%) |
性別 | ||
女性 | 408 (49.6%) | 57,666 (43.5%) |
男性 | 414 (50.4%) | 74,843 (56.5%) |
年齢(歳) | ||
平均(標準偏差) | 50.9 (15.72) | 56.0 (15.97) |
最低 - 最高 | 5 - 97 | 0 - 105 |
人種 | ||
アジア人 | 302 (36.7%) | 49,320 (37.2%) |
白人 | 48 (5.8%) | 6,121 (4.6%) |
その他 | 8 (1.0%) | 156 (0.1%) |
黒人 | 0 | 23 (<0.1%) |
指定なし | 464 (56.4%) | 76,889 (58.0%) |
合併症 | ||
一つ以上の合併症あり | 374 (45.5%) | 52,075 (39.3%) |
動脈性高血圧 | 74 (9.0%) | 16,633 (12.6%) |
冠動脈性心疾患 | 49 (6.0%) | 11,243 (8.5%) |
糖尿病 | 68 (8.3%) | 10,355 (7.8%) |
全身状態低下 | 45 (5.5%) | 6,917 (5.2%) |
特定の造影剤リスク因子あり | 114 (13.9%) | 4,803 (3.6%) |
アレルギー | 82 (10.0%) | 3,484 (2.6%) |
喘息 | 15 (1.8%) | 802 (0.6%) |
造影剤副作用歴 | 22 (2.7%) | 699 (0.5%) |
その他 | 154 (18.7%) | 19,247 (14.5%) |
指定なし | 448 (54.5%) | 80,434 (60.7%) |
ヨード投与量、g | ||
≦20 | 133 (16.2%) | 22,668 (17.1%) |
>20-40 | 561 (68.2%) | 86,581 (65.3%) |
>40-60 | 108 (13.1%) | 16,548 (12.5%) |
>60 | 16 (1.9%) | 6,135 (4.6%) |
指定なし | 4 (0.5%) | 577 (0.4%) |
検査の種類 | ||
СТ | 673 (81.9%) | 91,433 (69.0%) |
血管心臓造影 | 20 (2.4%) | 12,715 (9.6%) |
尿路造影 | 60 (7.3%) | 10,134 (7.6%) |
血管造影 | 5 (0.6%) | 1,794 (1.4%) |
静脈造影 | 0 | 296 (0.2%) |
DSA* | 0 | 221 (0.2%) |
その他/指定なし | 64 (7.8%) | 15,916 (12.0%) |
*Digital Subtraction Angiography; ディジタルサブトラクション血管造影
過敏反応に対する最も顕著な影響は投与経路の差異によるものであった.過敏反応が発現したケース群の構成は,93.2%が静脈内投与であり,動脈内投与は6.8%であった.コントロール群の構成は,静脈内投与と動脈内投与の患者の割合が,それぞれ79%および21%であった(オッズ比[OR]0.23,95%信頼区間[CI]0.16-0.32),P<0.001).
さらに,18歳~50歳未満(vs>65歳;OR 2.16,95%CI 1.78-2.62,P<0.001),アレルギー(OR 3.61,95%CI 2.84-4.59,P<0.001),喘息(OR 2.14,95%CI 1.26-3.62,P=0.005),造影剤副作用歴(OR 4.31,95%CI 2.75-6.75,P<0.001)が,過敏反応の主要なリスク因子として特定された(表3).
表3 過敏反応のリスクと有意な共変量のオッズ比
ケース群(822例) | コントロール群 (132,509例) | オッズ比 (95%CI) | P値 | |
---|---|---|---|---|
投与経路 (vs 静脈内投与) | ||||
静脈内投与 | 766 (93.2%) | 104,694 (79.0%) | ||
動脈内投与 | 56 (6.8%) | 27,815 (21.0%) | 0.23 (0.16-0.32) | <0.001 |
年齢 (vs 65歳以上) | ||||
≧65 | 164 (20.0%) | 43,209 (32.6%) | ||
50-<65 | 307 (37.3%) | 49,345 (37.2%) | 1.67 (1.38-2.02) | <0.001 |
18-<50 | 337 (41.0%) | 36,989 (27.9%) | 2.16 (1.78-2.62) | <0.001 |
<18 | 14 (1.7%) | 2,966 (2.2%) | 1.14 (0.65-2.00) | 0.646 |
性別(vs 男性) | ||||
男性 | 414 (50.4%) | 74,843 (56.5%) | ||
女性 | 408 (49.6%) | 57,666 (43.5%) | 1.16 (1.01-1.34) | 0.034 |
動脈性高血圧(vsなし) | ||||
なし | 748 (91.0%) | 115,876 (87.4%) | ||
あり | 74 (9.0%) | 16,633 (12.6%) | 1.10 (0.85-1.43) | 0.466 |
糖尿病(vs なし) | ||||
なし | 754 (91.7%) | 122,154 (92.2%) | ||
あり | 68 (8.3%) | 10,355 (7.8%) | 1.54 (1.19-2.00) | 0.001 |
アレルギー(vs なし) | ||||
なし | 740 (90.0%) | 129,025 (97.4%) | ||
あり | 82 (10.0%) | 3,484 (2.6%) | 3.61 (2.84-4.59) | <0.001 |
喘息(vs なし) | ||||
なし | 807 (98.2%) | 131,707 (99.4%) | ||
あり | 15 (1.8%) | 802 (0.6%) | 2.14 (1.26-3.62) | 0.005 |
造影剤副作用歴(vs なし) | ||||
なし | 800 (97.3%) | 131,810 (99.5%) | ||
あり | 22 (2.7%) | 699 (0.5%) | 4.31 (2.75-6.75) | <0.001 |
合併症:その他(vs なし) | ||||
なし | 668 (81.3%) | 113,262 (85.5%) | ||
あり | 154 (18.7%) | 19,247 (14.5%) | 1.42 (1.19-1.70) | <0.001 |
ヨード投与量(vs 20g以下) | ||||
≦20g | 133 (16.2%) | 22,668 (17.1%) | ||
>20-40g | 561 (68.2%) | 86,581 (65.3%) | 1.24 (1.01-1.51) | 0.036 |
>40-60g | 108 (13.1%) | 16,548 (12.5%) | 1.28 (0.98-1.66) | 0.068 |
>60g | 16 (1.9%) | 6,135 (4.6%) | 1.30 (0.73-2.30) | 0.369 |
ヨード濃度(vs 300 mg l/mL) | ||||
300 mg l/mL | 553 (67.3%) | 84,447 (63.7%) | ||
370 mg l/mL | 269 (32.7%) | 48,062 (36.3%) | 1.31 (1.12-1.54) | 0.001 |
過敏反応の発現は,動脈内投与後より静脈内投与後で有意に高く,その発現率は0.7%(静脈内投与)対0.2%(動脈内投与)であった(P<0.0001).頻度の高かった過敏反応は,皮膚反応(紅斑,蕁麻疹,皮疹)で508/133,331例(0.4%),次いで、そう痒症(294例,0.2%),咳嗽/くしゃみ(151例,0.1%),呼吸困難/気管支痙攣(105例,<0.1%)であった.アナフィラキシーショック,喉頭浮腫,呼吸停止などの臨床的に重篤な副作用が,それぞれ1件ずつ報告された(表4).
表4 過敏反応の発現
静脈内投与 105,460例 |
動脈内投与 27,871例 |
全体 133,331例 |
|
---|---|---|---|
過敏反応を発現した患者 | 766 (0.7%) | 56 (0.2%) | 822 (0.6%) |
紅斑、蕁麻疹、皮疹 | 481 (0.5%) | 27 (<0.1%) | 508 (0.4%) |
そう痒症 | 277 (0.3%) | 17 (<0.1%) | 294 (0.2%) |
咳嗽, くしゃみ | 144 (0.1%) | 7 (<0.1%) | 151 (0.1%) |
呼吸困難,気管支痙攣 | 94 (<0.1%) | 11 (<0.1%) | 105 (<0.1%) |
顏面浮腫 | 4 (<0.1%) | 0 | 4 (<0.1%) |
咽喉刺激感 | 4 (<0.1%) | 0 | 4 (<0.1%) |
嚥下障害 | 3 <0.1%) | 0 | 3 (<0.1%) |
発声障害 | 2 (<0.1%) | 0 | 2 (<0.1%) |
眼部腫脹 | 2 (<0.1%) | 0 | 2 (<0.1%) |
鼻閉 | 2 (<0.1%) | 0 | 2 (<0.1%) |
アナフィラキシーショック | 0 | 1 (<0.1%) | 1 (<0.1%) |
流涙 | 1 <0.1%) | 0 | 1 (<0.1%) |
喉頭浮腫 | 1 (<0.1%) | 0 | 1 (<0.1%) |
呼吸停止 | 0 | 1 (<0.1%) | 1 <0.1%) |
鼻炎 | 1 (<0.1%) | 0 | 1 (<0.1%) |
動脈内投与のみを対象としたTRUST研究3)は中国のみで実施されており,動脈内投与患者27,871例のうち17,274例(62.0%)を占めた(表1).
中国とそれ以外の国に分けたサブ解析を実施したところ,中国での動脈内投与のオッズ比は0.22であり,コホート全体の結果(OR:0.23)と非常に近かった.
アレルギーについては,中国のみのオッズ比は9.51であり,中国以外(3.39)またはコホート全体(3.61)と比較して,ほぼ3倍高かった.なお,中国のケース群では,造影剤副作用歴および喘息は報告されていない.
本研究において,全体として何らかの過敏反応を発現した患者では,その発現頻度は動脈内より静脈内投与後で有意に高く(0.2%対0.7%,P<0.0001,表4),この差異は潜在的交絡因子で調整後にもみられた.特に,紅斑/蕁麻疹/皮疹,そう痒症,咳嗽/くしゃみ,呼吸困難/気管支痙攣の発現は,静脈内投与後で高かった(表4).このような結果は,これまでの大規模コホート研究では示されていない.
投与経路の違いによる過敏反応発現頻度の差異は、動脈内投与と比較した場合,ヨード造影剤が静脈内投与後により早くより高濃度で肺に到達するためにマスト細胞や好塩基球がヒスタミンおよびその他の血管作用物質を放出し,その結果として過敏反応の惹起がより顕著になるためと考えられているが7),一般に,ヨード造影剤投与後の過敏反応の病態生理学的メカニズムは完全には解明されていない.
本研究により,大規模なコホートにおいて動脈内投与による過敏症反応のリスクは静脈内投与より低いという長期的な推定が確認された.
イオプロミド投与後の過敏反応の発現はまれであるが,静脈内投与の方が動脈内投与より高頻度であることが今回の大規模なコホートにおいて確認された.ただし,その機序は完全には解明されていない.