造影検査を取り巻く環境【ガドリニウム造影剤】
- サステナビリティの観点から -
サステナビリティに関連するトピックスへの高い関心
最近、学会や学会誌などで『サステナビリティ』という言葉を耳にされると思います。
例えば、2023年に発刊されたJCR学会誌では、「ヨード造影剤の現状と未来」の特集が組まれ、薬価や安定供給について論じられました。
また、2025年のECRでは、「PLANET RADIOLOGY」というテーマが採択されました。
更に、日本医学放射線学会総会の合同シンポジウムで、『GREEN RADIOLOGY』について論じされたことは、先生方のご記憶に新しいかと思います。

JCR学会誌では「ヨード造影剤の現状と未来」の特集が組まれ、薬価や安定供給について論じられた
“ヨード造影剤の安定供給のためには.安ければいいのではなく”適切な“価格である必要があります。“1
1:Dr. Natsuko Hayashi, Kyoto Furitsu Ika University. Japan College of Radiology. 2023 No. 254.

ECR 2025のテーマに「PLANET RADIOLOGY」
“環境的、社会的、医学的に私たちの住む世界に利益をもたらすために放射線科医はどのように診療、技術、考え方を適応させ、改善することができるのか。”
サイト名:ECR2025
URL:https://www.myesr.org/congress/
アクセス年月日:2025年3月

JRS 2025の合同シンポジウムに「GREEN RADIOLOGY」
合同シンポジウム1(領域講習診断・治療)4月11日 (金)16:15~18:15(国立大ホール)「Green Radiology」
サイト名:第84回日本医学放射線学会総会
URL:https://site2.convention.co.jp/jrs84/
アクセス年月日:2025年4月
資源としてのガドリニウム
ご存じの通り、ガドリニウムはレアアースの一種です。そのレアアースの多くは、中国の資源に依存している状況です。
ガドリニウムの需要と供給は今のところ均衡していると言われていますが、今後、需要が供給を上回るリスクがあると報告されています。
また、ガドリニウムの産業別利用率ではMRI造影剤用途での利用率も上昇傾向がみられます。
このような背景を踏まえ、ガドリニウム造影剤の安定供給に向けた企業としての取り組みが求められていると認識しております。
レアアースの資源と生産量
- 埋蔵量 : 9000万トンを超すとされる。
- 生産量:年間39万トン。
*約70%の生産量と約50%の埋蔵量が中国
表は横スクロールでご覧いただけます。

U.S. Geological Survey, Mineral Commodity Summaries, 2025
*埋蔵量の%表記は全世界埋蔵量が90,000,000トンであることを条件として計算 **うちGd生産量は7,500トン

ガドリニウムの需要予測(中国採掘)
- 2020年ではその需要と供給は均衡しているが2030年には833tの供給不足が懸念される。

ガドリニウムの産業別利用率(中国採掘)
- 2011年ではMRI造影剤用途が8%であったのに対し、2020年には12%となっている。
- その他、原子力産業における多様な用途や磁石、光学レンズなど様々な用途で用いられる。※

Guimei Zhao et al.:Assessing gadolinium resource efficiency and criticality in China, Resources Policy, January 2023
References
- Guimei Zhao et al.:Assessing gadolinium resource efficiency and criticality in China, Resources Policy, January 2023
- Shen Zhao et al: Supply and demand conflicts of critical heavy rare earth element: Lessons from gadolinium, Resources, Conservation and Recycling, December 2023
- U.S. Geological Survey, Mineral Commodity Summaries, 2025
※1 Gadolinium – MMTA (Accessed on Feb 7, 2025)
環境への配慮
限られたガドリニウム資源に加えて環境への配慮も大事な視点と考えております。
例えばガドリニウム系造影剤の使用を開始して以来、造影MRI検査は6億2000万回以上実施されており1)、人へ投与されたMRI造影剤は体内循環を経て尿として排出された2)後に自然環境へと放たれます。
この循環については環境科学者のみならず、ラジオロジーの専門家による研究が数多く発表されおり、注目が高まっております。
- Eur J Radiol Open. 2023 Jul 4:11:100503.2
- ガドビスト電子添文

環境に対する報告
排出されたガドリニウム造影剤が環境に与える影響についての報告は、環境リスクを示唆する内容と否定的な内容の双方があります。
排出された造影剤が環境に与える影響については様々な報告がありますが、そのリスクについては不明な点が多く、現時点ではリスクは限定的とされています。
しかし、造影剤は画像診断にとって必要不可欠な検査であり、持続的に且つ社会が安心して検査を受けられる様に将来的な影響を見据えた対策が求められています。
環境リスクを示唆する報告
- ドイツにおいて水道水に1~100 ng/LのGdが含まれる1)
- in vitro実験では、二枚貝や植物おいて、代謝能力や酸化ストレスのバイオマーカーがGdの蓄積によって影響を受けることが示されている2)
環境リスクに否定的な報告
- 飲料水のGd濃度が仮に100 ng/Lであったとした場合でも、一日約2Lの水を85年間飲み続けた結果摂取するGd量は、1回のMRI検査に使用するGd量の0.48%に過ぎない1)
- Gdを経口摂取した場合、消化管でのGdの吸収は限定的かほぼ無視できるレベルだと考えられている1)
- Lenkinski RE, Rofsky NM. Radiology. 2024;311(1):e240020
- Quattrocchi CC, et al. Eur Radiol. 2024. Epub ahead of print.
ガドリニウム造影剤を持続可能に活用していく方策
このような状況下において、画像診断に欠かせないガドリニウム造影剤の持続的な活用方法、最適な造影検査の方策が、数々の論文で取り上げられています。具体的には、MRIオーダーの事前確認およびガドリニウム造影剤投与量の個別化や1回の検査に使用するガドリニウム量を低減させる方法、複数の患者さんに使用するマルチドーズ用注入器を用いることで、造影剤の廃棄やシリンジなどのプラスチック廃棄量を減らす方法、未使用・使用済みに関わらず、造影剤そのものを再利用するリサイクル、検査直後の尿の回収”などが挙げられています。
一部の取り組みは企業単独での実施が可能である一方、業界全体での協調が必要な活動もあると考えております。
To reduce the use of GBCA
- 放射線科によるMRIオーダーの事前確認(造影要否等の適切な判断)およびGd造影剤投与量の個別化
- Gd造影剤量の低減
- 高緩和能造影剤/撮像法による最適化/後処理による効果上昇/Gd造影剤を使用しない方法
To reduce the waste of GBCA
- マルチペーシェントシステムの活用
To collect residues of GBCA
- Gd造影剤残液のリサイクルサービスの活用
To reduce the amount of GBCA excreted into sewage water
- 尿の回収(回収バッグの活用/外来患者の院内待機時間の延長)
Dekker HM: Review of strategies to reduce the contamination of the water environment by gadolinium-based contrast agents. Insights Imaging. 2024; 15(1): 62.