膵癌肝転移の検出におけるGd-EOB-DTPA造影MRIとマルチスライスCTの比較
Detection of Pancreatic Carcinoma and Liver Metastases with Gadoxetic Acid‒enhanced MR Imaging: Comparison with Contrast-enhanced Multi‒Detector Row CT
Motosugi U et al. Radiology 2011 Aug; 260(2): 446-453.
利益相反:著者らに開示すべき利益相反はない.
効能又は効果、用法及び用量、警告・禁忌を含む注意事項等情報等については電子添文を参照ください。
Point of Article
肝転移の診断では,転移性肝癌自体の状況のみならず,原発巣の種別や悪性度を把握することも重要となる.例えば,大腸癌の肝転移の場合,根治切除可能であれば肝切除が推奨されているが1),早期に遠隔転移を伴いやすい膵癌が原発巣である場合は,化学療法が有効とされる2).このように,転移性肝癌とその原発巣の情報は,治療方針の決定に欠かせない判断材料であるため,画像診断などによりそうした情報を得る臨床的意義は大きい.
本研究は,膵癌および膵癌肝転移の画像診断において,Gd-EOB-DTPA造影MRIと非イオン性ヨード造影剤による造影CTとを比較したレトロスペクティブ試験である.その結果,3名の読影医による評価において,Gd-EOB-DTPA造影MRIは造影CTと比べて,特に肝転移の検出感度に優れることが確認された(病変ベースの評価; P=0.030-0.044; McNemar検定).
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対 象 | 2008年3月~2010年6月の間,膵癌ならびに膵癌肝転移の疑いにより,Gd-EOB-DTPA造影MRIと造影CTの両方の検査を1ヵ月の期間内に実施し,さらにその後Gd-EOB-DTPA造影MRIあるいは造影CTによる経過観察のための画像検査を行った100症例 |
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試験デザイン | 後ろ向き観察研究 |
試験方法 | 本試験に登録された100症例は,膵癌の確定診断がついた群と膵癌と診断されなかった群とに分けられた.膵癌検出能の評価では100症例の全例を対象とし,肝転移の検出能の評価では,膵癌が検出された群のみに限定した(注). 装置
投与方法
撮像法
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評 価 | 3名の読影医が,造影MRIおよび造影CTの画像をもとに肝転移の有無について,下記の5ポイントスケールで判定した.
5ポイントスケールの4あるいは5を「肝転移有り」とし,感度,特異度,陽性的中率(positive predictive value : PPV),陰性的中率(negative predictive value : NPV)を算出した. 感度と特異度の比較ではMcNemar検定を行い,PPVとNPVの比較ではフィッシャーの正確確率検定を行った. 想起バイアスを軽減させるため,造影MRIと造影CTの読影インターバルとして,1週間以上の期間がおかれた. 肝転移の検出能の評価:症例ベースの評価(patient by patient analysis)のほか,病変ベースの評価(lesion by lesion analysis)を行った. |
(注) 本試験ではGd-EOB-DTPA造影MRIおよび造影CTによる膵癌検出および肝転移検出の評価が行われていますが,前者を目的としたGd-EOB-DTPA造影MRIの施行は承認外であり,以降は肝転移検出の評価のみに関する情報についてご紹介します.
表1. MRIの撮像パラメータ
T1強調像 | T2強調像 | 造影MRI | |
---|---|---|---|
シークエンス |
グラジエントエコー | 高速スピンエコー | 3Dグラジエントエコー |
脂肪抑制 |
あり | あり | あり |
呼吸同期 |
なし | あり | なし |
撮像時間 |
18秒 | 2-3分 | 18秒 |
TR(msec) |
150 | 2,500-8,000 | 3.8 |
TE(msec) |
1.4 | 64 | 1.9 |
FA(°) |
60 | 90 | 12 |
Parallel Imaging factor |
1.75 | 1.75 | 1.75 |
加算回数 |
1 | 1 | 1 |
FOV(cm) |
(32-40)×(32-40) | (32-40)×(32-40) | (35-42)×(40-45) |
Matrix |
256×160 | 256×192 | 320×192 |
Slice厚(mm) |
6 | 6 | 5 |
Slice Gap(mm) |
0 | 0 | -2.5 |
表2. 造影CTの撮像パラメータ
管電圧(kV) |
120 |
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管電流(mA) |
280-400 |
X線管回転速度 |
0.5秒/回転 |
コリメーション(mm) |
1 |
ヘリカルピッチ |
11 |
Slice厚(mm) |
5 |
Slice Gap(mm) |
0 |
解析対象となる100例のうち,男性は53例(平均年齢67.5歳±10.6),女性は47例(平均年齢68.2歳±10.6)であった.経過観察のための画像検査の対象は,造影MRIが15例,造影CTが78例,いずれの検査も受けた患者が7例であった.
膵癌と診断された54例のうち,男性は30例(平均年齢67.5歳±10.0),女性は24例(平均年齢69.5歳±7.7)であり,膵癌が確認されなかった46例の内訳は,男性23例(平均年齢67.4歳±11.6),女性23例(平均年齢66.9歳±13.0)であった.
造影MRIおよび造影CTによる初回検査に加えて,経過観察のための画像検査(造影MRI/造影CT)の結果,膵癌症例54例中15例(62病変)において肝転移と診断された.これら62病変のうち,6病変は病理検査により,残りの56病変は経過観察時の画像所見に基づき肝転移と診断された.なお,肝転移の平均腫瘍径は10mm±9(2-41mm)であった.
「症例ベースの評価」の比較では,読影医3名のうち2名において,造影MRIの検出感度は造影CTよりも有意に高かった(P=0.046, 0.046;McNemar検定).一方,PPVおよびNPVについては3名の読影医でいずれも両モダリティ間に有意な差は認められなかった.
また,「病変ベースの評価」の比較では,いずれの読影医においても,造影MRIによる病変の検出感度は造影CTよりも有意に高く(92%, 94%, 94% vs. 74%, 74%, 76%, P=0.031, 0.030, 0.044;McNemar検定),特に,10mm未満の小さな病変に限定した場合,その傾向は顕著であった(90%, 90%, 90% vs. 62%, 62%, 64%, P=0.030, 0.026, 0.039;McNemar検定,表3,図1)
表3. 膵癌肝転移の検出能
MRI | CT | p値 | |
---|---|---|---|
症例ベースの評価 | |||
感度(%) |
73(11/15) 87(13/15) 87(13/15) |
60(9/15) 60(9/15) 60(9/15) |
0.317 0.046 0.046 |
特異度(%) |
95(37/39) 100(39/39) 100(39/39) |
95(37/39) 97(38/39) 97(38/39) |
>0.99 NA NA |
PPV(%) |
85(11/13) 100(13/13) 100(13/13) |
82(9/11) 90(9/10) 90(9/10) |
0.714 0.893 0.893 |
NPV(%) |
90(37/41) 95(39/41) 95(39/41) |
86(37/43) 86(38/44) 86(38/44) |
0.797 0.312 0.312 |
病変ベースの評価(全病変) | |||
感度(%) |
92(57/62) 94(58/62) 94(58/62) |
74(46/62) 74(46/62) 76(47/62) |
0.031 0.030 0.044 |
PPV(%) |
97(57/59) 100(58/58) 100(58/58) |
96(46/48) 98(46/47) 98(47/48) |
0.886 0.960 0.965 |
病変ベースの評価(病変径10 mm未満) | |||
感度(%) |
90(38/42) 90(38/42) 90(38/42) |
62(26/42) 62(26/42) 64(27/42) |
0.030 0.026 0.039 |
PPV(%) |
95(38/40) 100(38/38) 100(38/38) |
93(26/28) 96(25/26) 96(27/28) |
0.929 0.922 0.931 |
感度,特異度:McNemar検定
PPV,NPV:フィッシャーの正確確率検定
なお,全ての読影医が偽陰性と診断した病変は,いずれも10mm未満の病変であった[但し,1名の読影医による造影MRIの評価で検出されなかった1病変を除く(門脈に隣接していたため血管と診断)].
また,全ての読影医が偽陽性と診断した病変も同様に,いずれも10mm未満の病変であった.
造影CTによる評価で,全ての読影医が肝内胆管に隣接する炎症性変化を転移性肝癌と診断した病変に対し,造影MRIによる評価では,読影医1名のみが転移性肝癌と診断した.また1名の読影医が造影MRIおよび造影CTによる評価で腫瘍径5mmの血管腫を転移性肝癌と診断した病変が見られた.
ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したものであり,全ての症例が同様の結果を示すわけではありません.
図1. 膵癌肝転移の画像比較(EOB造影MRI vs. 造影CT)
図A:Gd-EOB-DTPA造影MRI
(肝細胞造影相)
図B:造影CT
(動脈相,膵実質相)
図C:造影CT
(門脈相,後期相)
Gd-EOB-DTPA造影MRIにより,微小肝転移が検出された(図A).
本病変は術中超音波検査でも確認され,切除された.病理検査の結果,転移性腺癌と確定された.
一方,造影CTでは,動脈相,膵実質相,門脈相,後期相のいずれにおいても確認できなかった(図B,C).
本研究では,膵癌肝転移の診断において,Gd-EOB-DTPA造影MRIの感度が非イオン性ヨード造影剤による造影CTの感度を有意に上回った(病変ベースの評価; P=0.030-0.044; McNemar検定).この結果は,大腸癌の肝転移や原発性肝癌の局所転移といった,膵癌以外の肝転移を対象とした造影MRIの診断能についての報告3,4,5)と矛盾しない.
この結果は,Gd-EOB-DTPAによる病変-肝コントラストと,3Dグラジエントエコーシークエンスによる空間分解能に由来すると考えられる6,7).
読影医3名のうち2名が同じ施設で患者のケアに携わっていたため,想起バイアスが評価に影響するという懸念は否定できない.しかしながら,今回の研究期間は2年以上であったため,バイアスは最小限にとどまったものと考える.
本試験の結果は,MRIがCT検査のような低線量被ばくのリスクを有さないという元来のベネフィットとともに,膵癌患者の肝転移の検出におけるGd-EOB-DTPA造影MRIの有用性を示唆するものと結論づけられる.
References
- 大腸癌治療ガイドライン 医師用2014年度版 大腸癌研究会編 金原出版 2014.
- 膵癌診療ガイドライン 2016 年版.日本膵臓学会編.金原出版,2016.
- Ichikawa T, Saito K, Yoshioka N, et al. Invest Radiol 2010; 45(3): 133-141.
- Muhi A, Ichikawa T, Motosugi U, et al. J Magn Reson Imaging 2010; 32(5): 1132-1140.
- Di Martino M, Marin D, Guerrisi A, et al. Radiology 2010; 256(3): 806-816.
- Park HS, et al. J Magn Reson Imaging 2009; 30(3): 586-595.
- Clemént O, Mühler A, Vexler VS, et al. J Magn Reson Imaging 1993; 3(1): 71-77.
限局性悪性疾患患者(疑いを含む)を対象としたEOB・プリモビスト造影MRIと造影らせん走査型CT検査との比較
試験概要
EOB・プリモビストの単回投与による肝臓のMRI検査が「病巣の検出能」を向上させ,「病巣の良悪性鑑別/病巣タイプの鑑別」に関して付加的情報を提供するという仮説を検証するためにデザインされた.
対 象 | 限局性悪性肝病巣が既知又は疑われる患者解析対象症例: 151例(有効性),178例(安全性) | ||||
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試験デザイン | 多施設非盲検群内比較試験 | ||||
評価方法 | 標準化された条件で撮像された画像セットを用い,患者情報,画像を盲検化した状態で,独立した3名の読影医により「MR画像」※1と「らせんCT 画像」※2の「病巣検出能(対象病巣数:366)」と「病巣鑑別能(対象病巣数:326)」を参照標準(SOR:standard of reference)で確認された病巣について,その病巣が検出できたか,鑑別ができたかを評価した.
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評価基準 |
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表1. 病巣検出能[主要有効性評価項目]
病巣検出における感度 (一致病巣数※1/総病巣数※2) | ||
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MR画像 | 造影CT | |
読影医1 | 66.2% (227/343) | 60.6% (208/343) |
読影医2 | 67.1% (233/347) | 63.1% (219/347) |
読影医3 | 69.1% (235/340) | 57.6% (196/340) |
読影医平均 | 67.5% | 60.5% |
「MR画像」と「らせんCT画像」の病巣検出率の差について,95%信頼区間を算出したところ,3名中2名で信頼区間の下限が0を超えたことから有意差※4が認められた.
表2. 病巣鑑別能[主要有効性評価項目]
病巣鑑別(病変タイプ)がSORと一致した比率 (一致病巣数/総病巣数※3) | ||
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MR画像 | 造影CT | |
読影医1 | 50.6% (159/314) | 49.0% (154/314) |
読影医2 | 59.7% (190/318) | 57.2% (182/318) |
読影医3 | 60.1% (187/311) | 52.7% (164/311) |
読影医平均 | 56.8% | 53.0% |
「MR画像」と「らせんCT画像」の鑑別率の差について,95%信頼区間を算出したところ,3名で信頼区間の下限は予め設定した非劣性限界の−10%を上回ったことから有意な非劣性が示された.また,1名の読影医では,下限が0を超えたことから有意差※4が認められた.
※1:SORと一致した部位で検出された病巣数
※2:病巣検出のSORの総病巣数
※3:鑑別のSORの総病巣数
※4:複数病巣を持つ個体内の相関で全病巣間の分散を調整したMcNemar検定
安全性
副作用(臨床検査値異常を含む)は178例中17例(9.6%)に認められた.
主な副作用は,悪心3例(1.7%),注射部位疼痛2例(1.1%),そう痒2例(1.1%)等だった.
本試験において,投与中止に至った副作用及び重篤な副作用は報告されなかった.