大腸癌肝転移の術前評価におけるEOB・プリモビスト造影MRIおよび造影CT併用の有用性
Does Gadoxetic acid-enhanced 3.0T MRI in additionto 64-detector-row contrast-enhanced CT provide better diagnostic performance and change the therapeutic strategy for the preoperative evaluation of colorectal liver metastases?
Sofue K et al. Eur Radiol. 2014 Oct; 24(10): 2532-2539.
効能又は効果、用法及び用量、警告、禁忌を含む使用上の注意につきましては、添付文書をご参照ください。
Point of Article
肝臓は大腸癌からの血行性転移をきたしやすく,ステージIVの大腸癌患者の約40%において肝転移が認められる1).その場合,肝切除術が長期にわたる予後の改善を図るうえで有望な治療選択肢となるが,その切除範囲は,肝臓の組織をできるだけ温存したうえで転移巣を遺残なく取り除くことが望ましいとされる2,3).そのため,術前の画像診断により転移巣の数や大きさ,位置を正確に把握することが重要となる.
本研究は,大腸癌肝転移の画像診断において,EOB・プリモビスト造影MRI(EOB-MRI)および造影CTの併用と,造影CT単独とを比較した前向き試験である.その結果,EOB-MRIとの併用は,造影CT単独と比べて,肝転移の検出感度が有意に優れており,臨床上の有用性が確認された.
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対 象 | 大腸癌既往歴を有し,超音波所見,腫瘍マーカーにて肝転移を疑う症例に対し,肝切除術前評価のための造影CT施行に続き,EOB-MRIを施行した連続47例 |
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試験デザイン | 前向き研究 |
試験方法 |
登録患者47例のうち,肝転移に対する化学療法治療歴のある8例を除いた39例を対象に,造影CT単独と,造影CTおよびEOB-MRIの併用による画像所見について,検出能の比較が行われた.また,同じく39例を対象に,EOB-MRI前後の画像所見に基づき,外科切除の適応や術式についての評価が行われた.なお,EOB-MRIの評価には非造影T1およびT2強調像を含むほか,造影CTの評価には非造影CTを含む. 装置
投与方法
撮像法
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評 価 |
主要評価項目:大腸癌肝転移の検出能 読影医※4名が,肝転移検出の基準に従って病変の判定を行った.各画像について肝区域ごとに病変の有無や位置,大きさを記録し, 4ポイントスケールで判定した.その結果に基づき肝転移の検出感度,陽性的中率(positive predictive value : PPV)を算出した.肝転移検出能の評価のため,AFROC(alternative free-response receiver operating characteristic)解析によりAz値が算出された. 肝転移検出の基準
4ポイントスケール
ポイントスケールの3あるいは4を「肝転移有り」とし,感度,PPVを算出した.感度の比較ではMcNemar検定を行い,PPVの比較ではフィッシャーの正確確率検定を行った(p<0.05を有意差ありとした).
副次評価項目:EOB-MRIの併用による術式変更 EOB-MRI前後の画像所見に基づき,外科切除の適応,術式(部分的肝切除,区域切除,亜区域切除,転移巣切除)について放射線科医と外科医により評価を行い,最終的に施行された術式との比較が行われた. |
表1 EOB-MRI(3D-VIBE法)の撮像パラメータ
TR (msec) | 3.68 |
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TE (msec) | 1.22 |
FA(°) | 10 |
Matrix | 256×192 |
加算回数 | 1 |
Slice厚(mm) | 3 |
Slice Gap(mm) | 0.6 |
撮像時間 | 21秒 |
Sofue K, et al. Eur Radiol 2014; 24(10): 2532-2539. より作図
表2 造影CTの撮像パラメータ
管電圧(kV) | 120 |
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管電流(mA) | 160 |
コリメーション(mm) | 32×1 |
Pitch factor | 0.656 |
X線管回転速度 | 0.5秒/回転 |
Slice厚(mm) | 5 |
Sofue K, et al. Eur Radiol 2014; 24(10): 2532-2539. より作図
図1 大腸癌肝転移,67歳男性
a. 造影CT(門脈相)
b. EOB-MRI(肝細胞造影相)
(a)造影CT(門脈相)および(b)EOB-MRI(肝細胞造影相)のいずれにおいても,S5にある直径16mmの肝転移病変が検出された.
c. 造影CT(門脈相)
d. EOB-MRI(肝細胞造影相)
c. 造影CT(門脈相)ではS7にある微小な肝転移病変は確認できなかったが,(d)EOB-MRI(肝細胞造影相)によって検出された(白矢印).
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対象患者39例のうち,男性は27例,女性は12例であり,平均年齢65歳(45-79歳)であった.本試験における肝転移病変有無の参照標準は,外科医(1名)及び放射線科医(1名)によって決定され,その結果,39例中37例で85の肝転移病変を認めた.37例のうち34例は病理検査と術中超音波検査により,残り3例は経過観察時の画像所見(病変の増大)により肝転移病変と確定された.肝転移85病変の平均腫瘍径(長径)は2.5cm(0.5-14.0cm)であり,うち26病変は1cm未満であった(平均0.68cm,0.4-1.0cm).
大腸癌肝転移の検出能
表3 大腸癌肝転移検出の感度とPPV
(1名の読影医,非盲検下)
造影CT単独 | 造影CT+ EOB-MRI |
p値 | |
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感度(%) |
78.8(67/85) | 92.9(79/85) | 0.006 |
PPV(%) |
91.8(67/73) | 94.0(79/84) | 0.408 |
(カッコ内は病変数, 感度:McNemar検定,PPV:フィッシャーの正確確率検定)
非盲検下での肝転移検出能の評価では,造影CT単独に対し,造影CTとEOB-MRIの併用による感度が有意に高かった(78.8% vs. 92.9%, p=0.006, 表3).
PPVについては,両者の間に有意差は認められなかった(91.8% vs. 94.0%, p=0.408, 表3).
また,盲検下での肝転移検出能の評価では,3名の読影医のいずれにおいても,造影CT単独に比べて造影CTとEOB-MRIの併用による感度が有意に高かった(77.6%,76.5%,83.5% vs. 91.8%,87.1%,94.1%, p=0.008,0.014,0.035,表4).
PPVについては,3名の読影医に共通して有意差が認められなかった(90.4%,92.9%,94.7% vs. 95.1%,96.1%,96.3%,p=0.108,0.626,0.288,表4).造影CT単独では,3名いずれの読影医も高い確信度をもって検出不能(肝転移なしと診断)であった肝転移病変が11病変(8例)みられたが,このうち6病変(5例)はEOB-MRIを併用することで,少なくとも1名以上の読影医によって検出可能であった(図1).
これら3名の読影医の評価による造影CT単独および造影CTとEOB-MRIの併用での偽陽性病変は,それぞれ16病変,10病変であった.前者については,嚢胞6病変および血管腫が4病変(いずれも1.0cm未満)のほか、その他理由(静脈血栓:3,部分体積効果:2,不明:1)による所見を肝転移と診断した.一方,後者については,嚢胞および血管腫が各2病変(いずれも1.0cm未満)のほか、その他理由(肝内血管:4,不明:2)による所見を肝転移と診断した.
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表4 大腸癌肝転移検出の感度とPPV
(3名の読影医,盲検下)
評価者 | 造影CT単独 | 造影CT+ EOB-MRI |
p値 | |
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感度(%) |
読影医 1 |
77.6(66/85) | 91.8(78/85) | 0.008 |
読影医 2 |
76.5(65/85) | 87.1(74/85) | 0.014 | |
読影医 3 |
83.5(71/85) | 94.1(80/85) | 0.035 | |
平均 |
79.2(202/255) | 91.0(232/255) | 0.026 | |
PPV(%) |
読影医 1 |
90.4(66/73) | 95.1(78/82) | 0.108 |
読影医 2 |
92.9(65/70) | 96.1(74/77) | 0.626 | |
読影医 3 |
94.7(71/75) | 96.3(80/83) | 0.288 | |
平均 |
92.7(202/218) | 95.8(232/242) | 0.423 |
(カッコ内は病変数, 感度:McNemar検定,PPV:フィッシャーの正確確率検定)
表5 大腸癌肝転移の検出能(Az値)
(3名の読影医,盲検下)
評価者 | 造影CT単独 | 造影CT+ EOB-MRI |
p値 |
---|---|---|---|
読影医 1 |
0.843 | 0.916 | 0.03 |
読影医 2 |
0.832 | 0.902 | 0.042 |
読影医 3 |
0.879 | 0.948 | 0.024 |
平均 |
0.853 | 0.929 | 0.034 |
(単変量Z検定)
同じく盲検下でのAz値は,読影医によらず,造影CTとEOB-MRIの併用が造影CT単独を有意に上回った(0.843,0.832,0.879 vs. 0.916,0.902,0.948,p=0.03,0.042,0.024,表5).
肝転移が疑われた37例のうち,11例において,EOB-MRIの併用により予定されていた術式が変更された.その内訳は,切除区域の増大が8例,切除区域の縮小が1例,肝切除の未実施が2例であった.肝切除が未実施になった理由は,1例は左右両葉にわたる多数の肝転移の確認,残りの1例は腹膜播種によるものであった.また2例では造影CTにより肝転移が疑われたが,EOB-MRIでは肝嚢胞(良性腫瘍疑い)と診断され,これらの患者は経過観察(15ヵ月,18ヵ月)されたが,病変サイズに変化は見られなかった.
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本研究では,大腸癌肝転移の術前評価における造影CT単独と,造影CTおよびEOB-MRI併用による画像所見について,検出能の比較を行った.その結果,造影CTおよびEOB-MRI併用による感度は,造影CT単独の感度を有意に上回った.
一方,PPVについては,両者の間に有意差が認められなかった.
本研究の結果は,これまでに報告されている造影CTおよびEOB-MRI併用での肝転移検出能を上回っていた.これは,既報で使用されているMRI装置が1.0Tから1.5Tであるのに対し4),本研究で使用されたMRI装置は3.0Tであることによる.その高い信号対雑音比(SNR)により,3D-GRE法による肝細胞造影相での肝実質のSNRおよび病変とのコントラストノイズ比(CNR)が増加する.そのため,より薄いスライスによる高空間分解能の画像が得られ,結果として,肝転移病変の検出能および明瞭度が改善したものと考えられる.
本研究は,造影CTおよびEOB-MRIの併用が肝転移検出において高い感度を有することを示したが,これは肝切除術前の治療方針の決定において有益であり,患者の予後改善に寄与するものと結論づけられる.
References
- Manfredi S, et al. Ann Surg 2006; 244(2): 254-259.
- Charnsangavej C, et al. Ann Surg Oncol 2006; 13(10): 1261-1268.
- Frankel TL, et al. J Gastrointest Oncol 2012; 3(1): 11-18.
- Hammerstingl R, et al. Eur Radiol 2008; 18(3): 457-467.