線量管理システムRadimetricsとマルチユース
CTインジェクションシステムCentargoの導入で効率的で安全な造影検査を実現

岡山大学病院メンバー
赤木 憲明 先生

岡山大学病院
副診療放射線技師長
赤木 憲明 先生

森光 祐介

岡山大学病院
主任放射線技師
森光 祐介 先生

はじめに

 岡山大学病院(岡山市北区,853床)は,2018年8月にバイエルの線量管理システム「Radimetrics」,2023年10月にマルチユースCTインジェクションシステム「MEDRAD Centargo CTインジェクションシステム」(以下,Centargo)を導入した。最先端のCT装置とともに,造影検査を含む多くの検査情報の管理・運用に取り組んでいる。今回は,システム運用の実際や今後の展望について,医療技術部放射線部門の赤木憲明副診療放射線技師長と森光祐介主任放射線技師に取材した。

術前検査など多くの造影CT検査に対応

 岡山大学病院は,2017年の総合診療棟完成から約7 年が経過し,順次,装置更新の時期を迎えている。CT装置では,2022年12月に国立大学病院として初めてフォトンカウンティングCT「NAEOTOM Alpha」(シーメンスヘルスケア)を導入。その他に,高精細CT「Aquilion Precision」(キヤノンメディカルシステムズ)など,救急も含め計5台が稼働し,年間約3万7000件のCT検査を行っている。同院は手術件数や悪性腫瘍症例が多く,放射線治療を含めた術前検査や経過観察などは造影下で行うことから,全体の半数弱を造影検査が占めている。 
 放射線部門には,現在57名の診療放射線技師が在籍。一般撮影部門,CT・MRI 部門,アンギオ・手術室部門,放射線治療・核医学部門などに分かれて業務を行っている。そのうちCT・MRI部門は15 名で,CTは7 名,MRIは6 名が担当し,残り2名は準夜勤,当直入り・明けの代休などに充てている。

Radimetricsで線量管理を効率化

 医療被ばくの管理・最適化の対応として,同院では2016年から他社のサービスを用いて線量管理を行っていた。しかし,2017年8月に院内で放射線診療品質管理委員会が設置されたほか,2020年4月の被ばく線量管理の義務化,画像診断管理加算3の算定条件などを背景にRadimetricsを導入した。
 Radimetricsは,マルチモダリティに対応した線量管理システムで,「日本の診断参考レベル(2020年版)」(DRLs2020)や国際放射線防護委員会(ICRP)勧告に基づいた線量管理指標に対応し,国内外で広く採用されている。CTや血管撮影装置,核医学装置などから得られる画像データを自動で受信して線量情報を一括管理できる。また,検査ごとの照射線量や患者ごとの累積被ばく線量などを管理・表示する機能や蓄積した線量情報を解析・分析するための「概要ページ」などにより,線量の最適化を促進する。
 赤木副技師長は,「CTの線量管理業務を森光主任技師とともに担当していますが,放射線診療品質管理委員会への線量報告に当たり,より再現性の高いデータを効率的にまとめる必要が生じました。また,提出するデータは対象期間も長く,CTDIやDLPなどデータ量が膨大なため,以前の線量管理の方法では作業は人海戦術になってしまいます。そこで,採用実績が多いRadimetrics導入に踏み切りました」と話す。
 当初はプロトコル名が不統一だったため,線量情報を蓄積しておいてExcel形式で抽出し,必要な項目ごとにソートしてデータを作成していた。その後,装置更新に伴い順次プロトコル名を統一していき,概要ページで1クリックでDRLなどの算出が可能になり,省力化につながった。概要ページはカスタマイズも可能で,同院では森光主任技師が装置更新時に項目を最新の状態にし,赤木副技師長に共有している。

Radimetricsの概要ページ

Radimetricsの概要ページ

 また,Radimetricsでは装置ごとの線量の算出が可能で,各装置の最適線量の検討に活用している。それについて,森光主任技師は次のように話す。
 「当院では,放射線科の医師と診療放射線技師が隔月で画質向上カンファレンスを開催しており,その資料としてRadimetricsでまとめたデータを提出しています。特に近年導入した NAEOTOM Alphaなどは低線量化が進んでおり,装置の撮影条件と当院のDRLを比較し,撮影線量を検討しました。非常に説得力のあるデータを提出でき,有意義なディスカッションにつながっています」
 さらに,管電圧や電流,撮影範囲などを変更した場合の線量を推定する「線量シミュレーション機能」も有用だという。赤木副技師長は,「放射線被ばく相談員として医療被ばく相談を受けることがありますが,ただ『大丈夫です』とお伝えするのと,線量シミュレーション機能で出した具体的なデータを主治医や患者さんに提供できるのとではまったく違います。特に,撮影後に妊娠が判明した患者さんへの説明資料として役に立ちました」と高く評価している。

マルチユースCTインジェクションシステムCentargoの導入

 NAEOTOM Alphaは造影剤量を低減した撮影も可能なことから,同院では従来の約80%の造影剤量で検査を行っている。同院では,3種類の濃度のバイアルを使用しており,NAEOTOM Alphaでは効率や経済性を考慮して240mgI/mL製剤も活用し造影検査を行っているが,そのような同時注入や生理食塩水による後押しをするには,既存のインジェクタでは当日に使用する生理食塩水のシリンジを事前に準備しておく必要があった。
 そのような中,2023年10月にマルチユース CT インジェクションシステムCentargoを新たに導入した。Centargoは,専用のシリンジキットのデイセットにあらかじめ400mLの造影剤と200mLの生理食塩水を自動充填し,そこから専用チューブの患者ラインを通して造影剤や生理食塩水を注入する。症例終了後は本体上部のボトルホルダーに装着した造影剤・生理食塩水のボトルから,検査で使用した量がデイセットに自動充填されるため,検査ごとに造影剤などのシリンジを準備・セッティングする必要がない。デイセットは24時間連続使用が可能で,セット時に充填とエア抜きが自動で行われるため,検査ワークフローが大幅に向上する。
 同院では,同時に導入した80列マルチスライスCT「Aquilion Serve SP」(キヤノンメディカルシステムズ)の検査室にCentargoを設置。同装置と隣室のNAEOTOM Alphaでの造影検査にも使用し,特に造影剤量を低減したい症例や生理食塩水を用いる頭頸部CTA,冠動脈CTAなどでは優先的に活用している。

Centargoは上部のホルダーに装着したボトルから検査ごとに製剤と生理食塩水が自動充填される。

Centargoは上部のホルダーに装着したボトルから検査ごとに製剤と生理食塩水が自動充填される。

 導入後の運用について,森光主任技師は次のように話す。
 「Centargoは,検査ごとの造影剤や生理食塩水の充填,エア抜きなどの準備が不要なため,看護師からも好評です。導入当初はエア混入を懸念する声もありましたが,運用開始後,エア混入は確認されていません。また,当院では NAE-OTOM Alphaによる小児循環器CT検査を1日約2件行っていますが,将来的にはCentargoを使用したいと考えています」

処理費用の削減で環境や経営へのメリットも

 Centargoはデイセットにあらかじめ造影剤や生理食塩水を充填し,症例ごとに必要量に応じて製剤を注入する。これまでのシリンジ製剤を使用した検査では残液を廃棄せざるを得なかったが,Centargoでは,充填した製剤を複数患者に連続投与できるため,廃棄量を低減できる可能性がある。また,使用済みのシリンジは感染性医療廃棄物として処理する必要があるが,Centargoは検査ごとに交換が必要なのは患者ライン(シングルペーシェントチューブ)のみで,ボトルは一般ゴミとして処理が可能なため,廃棄コストや手間が軽減し,環境や経営へのメリットも大きい。
 「デイセットのランニングコストはかかりますが,検査数が増加すれば1検査あたりのコストは低減できます。また,造影剤・生理食塩水のボトルを1日何回か交換する必要がありますが,国内でもより大容量の造影剤ボトルが販売されれば交換回数が減り,さらに手間が省けます」と赤木副技師長は期待する。

「造影検査管理機能」で情報の一括管理が可能に

 Radimetricsは,Centargoをはじめとするバイエルのインジェクタと連携,造影検査に関する情報を集約・管理する「造影検査管理機能」が搭載されている。同機能では,インジェクタからプロトコルや検査ごとの造影剤の使用量,使用した針の太さ(ゲージ),注入速度や注入圧力,注入部位などのデータを取得し,一括管理することが可能である。同院は,大学病院として研究も重視しており,特に後ろ向き研究では造影剤の注入情報を画像と一緒に保存できるのは大きな利点であり,今後,データを収集していく予定だ。また,血管外漏出発生時のフィードバックやオペレータごとのデータを蓄積,解析することで造影剤注入に関する手技などを標準化できれば,安全管理対策につながる。さらに,Radimetricsで検査室の稼働状況を収集・解析して装置のダウンタイムなどを算出,今後のCT室運用の参考にすることも検討しているという。
赤木副技師長は,「線量管理や造影剤の注入履歴などを記録・管理する次の段階として,蓄積したデータを活用し,『生きたデータ』にすることが重要になると思います。それに当たっては,線量管理システムと同様に,造影剤の注入記録の標準化やマルチベンダー化が可能になれば良いですね」と話す。検査データの活用や造影剤低減などによる,より患者に優しい検査の実現に期待したい。

(2024年2月20日取材)

岡山大学病院

岡山大学病院

岡山県岡山市北区鹿田町2-5-1
TEL 086-223-7151(代表)
https://www.okayama-u.ac.jp/user/hospital/

管理医療機器:多相電動式造影剤注入装置
販売名:Centargo CTインジェクションシステム
認証番号:302AABZX00091000
製造販売元:バイエル薬品株式会社

管理医療機器:造影剤用輸液セット
販売名:Centargo ディスポーザブルセット
認証番号:303AABZX00003000
製造販売元:バイエル薬品株式会社