乳房MRIにおける適切な画像を得るための撮像ポイント
ダイナミック造影MRI、Ultrafast-DCE MRIの撮像について
京都大学大学院医学研究科 放射線医学講座(画像診断学・核医学)
片岡 正子 先生
はじめに
乳房MRIの中でもDynamic MRIは病変の評価において基本となるシーケンスである。この画質がしっかり保たれていることが診断の質を大きく左右する。基本となる撮像条件については、日本乳がん検診学会 次世代乳癌検診検討委員会 検診MRI小委員会が中心となって作成した乳房MRI検査マニュアル1)に記載がある。まずはそれを示したうえで、さらに追加のポイントについて解説を加えていきたい。
ダイナミックMRI
基本の撮像条件1)
- 撮像シーケンス:脂肪抑制高速型3D-GRE法
- TR:5~10msec
- TE:In phaseの最小値
- Flip angle: 10-20度
- スライス厚:2.5㎜以下
- 面内分解能:1x1㎜以下
- 撮像時間:1~2分/相
- 撮像方向:横断または冠状断像(両側同時撮像)
- 撮像タイミング:造影前、造影後2分までの間(早期相)、5-7分後(後期相)
そのほか、画像診断ガイドライン2)にも推奨される撮像条件について記載がある。
脂肪抑制T1強調画像を、造影前、早期相、後期相の少なくとも3相は撮像するのが基本である。高速撮像であるGRE法が用いられる。画像の分解能については欧州乳房画像診断学会(EUSOBI)のガイドライン3)に記載もあるとおり、面内分解能1x1㎜以下が望ましい。スライス厚についてはEUSOBIガイドラインでは2.5㎜以下となっている(5mmの病変をとらえるため)が、可能であれば1㎜程度を確保し、病変の辺縁の描出や進展範囲の評価については多方向で評価できることが望ましい。以前は空間分解能と時間分解能の両立が難しかったが、最近の装置では上記の空間分解能を満たしたうえで、十分なSNRと1~2分程度の時間分解能が両立可能となっている。TEの選択については、実際のところIn-phase, out of phase どちらもありえ、辺縁を見たいか、増強効果を見たいかにより異なってくる。Flip Angle については10-15度の間で調整し設定を決めるべきという意見がおおむねであった。
ダイナミックMRIの表示法
造影後の画像から、造影前の画像を減算したSubtraction画像は、ルーチーンで作成している施設もあった。Complicated cystや血性分泌など造影前からT1高信号がある場合はSubtraction画像が役に立つが、必要に応じてWorkstationで作成できる環境であればルーチーンでなくても良いとする施設もある。ただし、何らかの理由で脂肪抑制が均等にかからず、やむなく脂肪抑制無しで撮像せざるを得ない状況ではSubtraction画像は必須であろう。
MIP画像については作成するのが良い、という意見が多数であった。特に造影早期相MIP画像で拾い上げるべき早期濃染病変を探してからスライス画像や他の画像も含めて検討するという読影スタイルをとる施設が多かった。いわゆるAbbreviated MRIの役割も担っており、効率的な読影のためにもまずは造影早期相MIPから、がよさそうである。
造影後高分解能画像
ダイナミックMRIを3相以上連続して撮像する施設もあり、高分解能画像は必須ではないものの、実際は撮像している施設が多かった。病変についてより詳細な情報、特に形態情報を得るために撮像される。そのため、ダイナミックの撮像条件より若干細かい(面内分解能1㎜未満の)空間分解能を設定し、ダイナミックとは異なる方向で撮像している。Iso-voxelにすれば多断面での再構成も可能な画像が得られる。やや撮像に時間がかかるが、ダイナミック造影の早期相と後期相の間の時間を利用して撮像する施設も多い。矢状断や、乳管の向きに沿った斜矢状断は、乳管内進展やDCISの診断に有用とする意見が多かった。
Ultrafast DCE
Ultrafast DCEは、造影直後に数秒毎の高い時間分解能の撮像を行うことにより、血流の豊富な病変をより選択的に描出し、造影剤の流入、Time intensity curveの立ち上がりを詳細にとらえる撮像法である。高速撮像法の進歩により、空間解像度やSNRもある程度保ったまま時間分解能の向上を実現しており、病変の形状の評価も可能である。
今回コンセンサスミーティングに参加した施設ではUltrafast DCEの撮像を行っているが、撮像シーケンス、パラメーターについても各施設の装置の性能に依存する面もあり、様々である。詳細は参考文献4,5) を参照いただきたいが、View sharing, 圧縮センシングなどの高速撮像法を用いる方法など種々の撮像法が用いられている。こうした背景から今回Ultrafast DCEについては撮像パラメーターではなく視覚評価を中心に議論した。
実際の臨床でのUltrafast DCEを用いた読影としては、MIP像を作成し背景より早く染まるコントラストの強い病変をピックアップし、そこから読影を始めるというスタイルが主流である。前述のダイナミック造影早期相MIP像であるが、背景の乳腺組織の造影効果(BPE)が強い場合や多発良性病変の場合、本来見るべき悪性病変が同定しづらいという問題点があった。そうした場合にUltrafast DCEの時間分解能であれば、血流の豊富な悪性病変が少し早く造影されるタイミングをとらえることで、容易に同定が可能である。若年者に多いBPEの強い症例でUltrafast DCEの有用性を支持する意見が多かった。なお、Ultrafast DCEの撮像シーケンスでは時間分解能を高くするため、通常のダイナミックより若干空間分解能が低く設定されることが多く、また内部の造影パターンは、ダイナミック造影早期相での評価とも若干異なる6)ことから、現時点ではUltrafast DCEの診断において内部性状評価はあまり重視していない。
造影効果(~血流動態)の指標として、研究ではmaximum slope, Time to enhancement, bolus arrival time といったUltrafast DCE独自の血流動態パラメーターの有用性が盛んに検討されている。しかし、臨床の現場では、対応するViewer・解析ソフトが少ないこと、臨床現場での多忙もあり、ルーチーンではこうしたUltrafast DCE由来の血流動態パラメーターは測定していない、もしくは測定していても十分には活用されていないのが現状のようである。標的病変に対してTime intensity Curve(TIC) を作成している、という施設は散見された。手軽に使用できる Ultrafast 用解析アプリケーションがあると良いとの意見も多かった。
Dynamic, Ultrafast-DCE における造影剤の注入条件について
現在、MRIの造影剤は0.5M製剤と1M製剤が流通している。それぞれ総投与量は異なってくるが、投与速度は 1mL/s でも 2mL/s でも良いとの意見であった。特に複数製剤を使用している施設では 2mL/s で統一しているとの意見もあった。
造影剤の注入条件は、 Ultrafast DCEでのMaximum slope(MS)などの血流動態パラメーターに影響する可能性はあるが、少なくとも視覚的評価にはあまり影響なさそうとの意見であった。むしろ、生理食塩水での後押しフラッシュにより造影剤をしっかり体内に送り込むことが重要と考えられる。 Ultrafast DCE はまだ形態評価には限界があることを考えると、引き続き撮像するダイナミック造影 早期相のタイミングをあまり遅くせず、2分以内のピークが撮像できるようなタイミングが望ましいといえる。
ダイナミックMRIとUltrafast DCEとの⽐較
参考文献
- 1) 日本乳がん検診学会変:乳房MRI検査マニュアル 金原出版 2020
- 2) 日本医学放射線学会変:画像診断ガイドライン2021年版 金原出版 2021
- 3) Mann RM et al: BreastMRI: guidelines from the European Society of Breast Imaging.EurRadiol,18:1307-1318, 2008
- 4) Kataoka M. et al: Ultrafast Dynamic Contrast-enhanced MRI of the Breast: How Is It Used?. Magnetic Resonance in Medical Sciences, 21: 83-94, 2022.
- 5) Kataoka M. et al: Ultrafast Dynamic Contrast-Enhanced MRI of the Breast: From Theory to Practice. E-pub ahead of print, 2023
- 6) Ohashi A. et al: Comparison of Ultrafast Dynamic Contrast-Enhanced (DCE) MRI with Conventional DCE MRI in the Morphological Assessment of Malignant Breast Lesions. Diagnostics (Basel) 13 (6):1105, 2023