乳房MRIにおける適切な画像を得るための撮像ポイント

乳房MRIにおける適切な画像を得るための撮像ポイント

乳房MRI各撮像法のポイントについて

獨協医大埼玉医療センター 
久保田 一徳 先生

はじめに

現在、乳房MRI撮像は国内の多くの施設で行われている。撮像目的も多様化し、術前の広がり診断だけではなく副病変や対側病変の検出、診断困難例、治療効果判定、さらにはハイリスク症例を中心としたスクリーニング・サーベイランスでも用いられている。

1990年代後半には片側撮像を主体に乳房MRI撮像が始まり、各施設で独自に様々な撮像方法が検討されてきた。現在は標準的な撮像方法が国内外の各種ガイドライン1,2)でも示され、多くの施設で標準的な撮像方法が可能となっているが、独自の撮像方法が残っていることも少なくない。昨今のMRI装置の進歩もあり、Ultrafast DCEなどの新たな撮像方法も可能な施設も増えてきた。拡散強調画像(diffusion weighted imaging: DWI)についても用途によって様々な撮像方法があり、標準化を行う必要性が出てきている。

これからさらに必要性に迫られる乳房MRIを適切に使用していくためには、標準的な撮像方法がどの施設でも担保された上で、読影が行われる必要がある。それでは、どのような画像が良い画像なのか?それがわかるためには、多数のエキスパートの目をもって画像を見ることが必要と考えた。偏りのない「良い画像」を得るためには、同時に集まって画像を見て、議論を行い、コンセンサスを得ることが大事であろう。そこで、バイエル薬品株式会社の協力により2023年6月30日に乳房MRIのエキスパートの先生方に集まっていただき、各施設の画像を実際に見ながら議論する「乳房MRI アドバイザリーボードミーティング」を開催した。ここではそこでの議論から示されたコンセンサス事項や撮像のポイントについてお伝えする。

乳房MRI検査において望ましいMRI画像について

乳房MRIの撮像シーケンスについては国内でも乳房MRI検査マニュアル1)や画像診断ガイドライン2021年版2)で提示されており、これらを参考に現在の推奨されている撮像について示す(表)。これらの標準的な撮像方法およびUltrafast DCE撮像について、それぞれのシーケンスごとに議論された内容と、コンセンサスについて示す。

T1強調画像 脂肪抑制なし(造影前)

いずれの施設でも撮像されていた。
スライス厚が厚い施設や、SE法で撮像されていた施設もあったが、その後に変更することが伝えられた。

コンセンサス

  • GRE法にてスライス厚1 mm 面内分解能1 mm✕1 mm程度での撮像を行う。DCEのT1強調像と揃える方が良い。
  • 脂肪の評価が目的の1つであり、in-phaseで撮像する(out of phaseにしない)。
  • DCISの評価においてnon-mass enhancementの周囲や介在する脂肪や、乳房内リンパ節のリンパ門の脂肪を評価できるようにしたい。

T2強調画像

診断の参考にはなるが、優先して観察するシーケンスではない。DCEと比べると診断への影響は低いわりに、時間をかけすぎていることがあるのが気になった。
Sagittal像で撮像されるとaxial撮像のDCEやDWIとの比較に困るため、やめて欲しいという意見があったが、今回の撮像施設においては、いずれもaxial像で撮像されていた。

コンセンサス

  • 病変や皮下・大胸筋周囲にT2WI高信号域がある際に描出されることや、ある程度細かい嚢胞が見えることも必要。
  • スライスはDWIに合わせる(DWIと対比できるようにしておく)。
  • 脂肪抑制かける方が良い。
  • axial撮影が基本。(造影と同じ断面で撮る)
  • 時間を掛けすぎない。

拡散強調画像(DWI)

施設によって撮像方法が異なり、機器によって画質や脂肪抑制の程度の違いがあった。
DCEをメインに読影し、臨床においてはADCは診断の参考としていることが多い。
DWIでも広がりや形状を確認することもある。

コンセンサス

  • 面内分解能2 ✕ 2 mm以下、スライス厚4mm以下
  • b値800-1,000 s/mm2, EUSOBIでは800 s/mm2以上を推奨。
  • 時間をかけすぎない。

ADCの測定はケースバイケース、参考程度(難しい場合には記録する)。装置や撮像方法によってADCは変動するため、施設を超えて診断の参考とすることは現時点では難しく、今後の標準化をどうしていくかが課題となる。

ダイナミックMRI

コンセンサス

  • In-phase, out of phaseどちらでも可(辺縁をみたいか増強効果を見たいかでinかoutは考える)。
  • スライス厚1 mm 面内分解能1 ✕ 1 mm以下
  • FA10~15、2-3度ずつ調整すると良い。(機械ごとに変わるポイントがある)
  • MIP像を作成する。

Ultrafast DCE

コンセンサス

  • MIP像におけるコントラストを重視する。

現時点では、内部性状評価については重要視していない。
文献的にはTTE (time to enhancement)などのパラメータ測定による良悪性の診断能が高いと示されており、各施設でも研究目的ではパラメータ測定は行っている。
各施設でTime intensity curveの作成はしているものの、パラメータ測定はルーチンには行われていない。定量は難しいことや、形状の方が標準化し易いこと、TICカーブを集めてAI分析してみたら良いかも知れないなどの意見があった。どのメーカーのでも使用できるようなUltrafast用のアプリケーションの開発が必要ではないかと意見があった。

造影後高分解能画像

コンセンサス

  • SagittalでもCoronalでもどちらでも良い。
  • In-phaseでの撮像が望ましい(コントラストだけでなく辺縁像をしっかり評価したい)。

使い易い画像であることが大事。

症例画像の解説も含めてご覧頂き、皆さんの施設ではこれらに沿ったような撮像ができているかご確認いただきたい。また、可能であればultrafast dynamic MRIについても参考にしていただき、導入を検討いただきたい。

表)推奨される乳房MRI撮像方法

乳房専用コイルでの腹臥位・両側乳房同時撮像
  • T1強調画像 (GRE法) 脂肪抑制なし 2 mmスライス以下
  • T2強調画像 4 mmスライス以下
  • ダイナミックMRI 2 mmスライス以下

脂肪抑制併用T1強調像(GRE法)
造影前、造影早期(2分以内)、後期(5分以降)の少なくとも3相撮像
面内分解能は1 mm以下

造影後高分解能画像
造影早期と後期の間に違う方向での撮像を追加することを検討する
  • 拡散強調画像 4 mmスライス

参考文献

  • 1) 日本乳癌検診学会編.乳房MRI 検査マニュアル.金原出版,2020.
  • 2) 日本医学放射線学会編.画像診断ガイドライン2021年版.金原出版,2021.