ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したものであり、全ての症例が同様の結果を示すわけではありません
子宮卵管造影法は,不妊症における子宮,卵管の器質的異常や疎通性を確認するスクリーニング検査であり,油性造影剤あるいは水溶性造影剤が用いられる.水溶性造影剤は,血管内に入って塞栓を生じたり,長期に残存して異物肉芽腫や癒着を起こす恐れがなく,1日で診断可能といった特性を有する1).今回,水溶性造影剤であるイソビスト®注300を用いた撮像法を工夫したところ,より読影しやすい画像が得られたので,その症例について報告する.
通常,成人1回6~10mLを導管より子宮腔内に注入する.なお,年齢,体重,撮影部位の大きさにより適宜増減する.
撮影タイミング | コメント | 造影剤量,時間 | |
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❶ 子宮・卵管陰影確認直後 | 腹腔陰影と重ならず卵管陰影 からの情報が得られる |
3~5mL程度 | |
❷ 腹腔内流入確認,拡散開始直後 | 卵管周囲の情報が得られる | 全量で10mL程度 | |
❸ 側面撮影 (注入終了後,子宮に造影剤が残存している間に撮影) |
子宮の位置関係,ダグラス窩の 状況の観察 |
ー | |
子宮内に残存する造影剤の吸引除去(可及的範囲) | |||
❹ 終末撮影 | 腹腔内での広がりをみる | (水溶性) 5~10分後 |
医療法人 正育会 春木レディースクリニック
春木 篤 先生
右卵管は卵管峡部で閉塞,左卵管も卵管峡部周囲の壁が不正であり,卵管周囲癒着を疑わせる所見であった.
注入圧を上げたが,依然として右卵管は卵管峡部で閉塞.左卵管は疎通性が確認されたものの,卵管峡部にて高度の狭窄ありと診断した
撮影時の X 線透視装置のコントラストを事前に上げることにより,油性とほぼ同様の所見が得られ,狭窄部位や卵管周囲癒着などの読影も可能となる.
両側卵管ともに閉塞あるいは狭窄部位が明瞭に特定できたため,卵管鏡下卵管形成術の実施にあたり,事前にカテーテル操作のシミュレーションが可能であった.
医療法人 啓樹会 西村ウイメンズクリニック
西村 満 先生
使用機種 |
スキャナー |
東芝 BLR-100Aによるデジタル撮影 |
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デジタル画像処理 |
FUJIFILM C@RNACORE(CC-WS674) |
撮影画像
拡大後
白黒反転処理後
両側卵管疎通性は良好,拡散も良好であった.読影にはほとんど支障なく,また白黒反転画像により読影しやすくなる場合があり,さらにズーム機能を用いることにより正確な読影が可能であった. 造影検査後の妊娠率はさほど低下した印象はない.腹腔内への造影剤の残留もなく,甲状腺機能への影響もほとんど見られない.ガラスシリンジの洗浄も容易である
今回紹介した症例では,① X線透視装置のコントラストを上げる ② 白黒反転,ズーム処理といった工夫を行うことで,より読影しやすい画像を得ることが可能になった. イソビスト®注300を用いた子宮卵管造影は,これらの工夫と以下に示す特性によって,よりよい画像診断に貢献できるものと考えられる.
微細な所見 | 1日で診断 |
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組織親和性が高いので,微細な所見が得られる | 拡散が速く1日で終末撮影まで行える |
残像がない | 低リスク |
吸収が速いため,長く造影剤の残像を残さない | 長期残留して肉芽腫や癒着を起こす心配がない 血管内に入っても塞栓を生じる恐れがない |
栃木武一 : 日本産科婦人科学会埼玉地方部会誌 1992; 22(2): 260-264.より改変
1)栃木武一 : 日本産科婦人科学会埼玉地方部会誌 1992; 22(2): 260-264.